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太宰治賞を受賞したデビュー作『こちらあみ子』で、2011年に三島由紀夫賞も受賞した今村夏子さん。2016年には、同年に創刊された書肆侃侃房の文芸誌「たべるのがおそい」で、第2作となる「あひる」を発表。新作を待ち望んでいたファンを喜ばせただけでなく、芥川賞にノミネートされ大きな話題となりました。
寡作で知られる著者ですが、作品を発表するたびに、その繊細な表現力と心を揺さぶる物語で多くの読者の心をつかんでいます。
6月7日(水)に発売された『星の子』は、今村さんの最新作にして最長の作品。宗教によって崩壊していく家族を描き、「小説TRIPPER」掲載時から傑作との呼び声が高かった作品です。
今回は本作の編集を担当した朝日新聞出版書籍編集部・四本倫子さんに、作品ガイドを寄せていただきました。
主人公・林ちひろは中学3年生。出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。前作『あひる』が芥川賞候補となった著者の新たなる代表作。
今村夏子さんから『星の子』の冒頭50枚分ほどが届いたのは、2016年の10月の終わりでした。今村さんとお会いして、主人公のちひろのこと、作品の結末についてなど、とりとめもなくお話をしましたが、何かを打ち合わせるというよりは、最初にお原稿を読んだ時から抱いた“凄い作品になる”という確信だけを強くして、あとはただ、ひたすら完成するのを待っているだけでした。
振り返れば、私が編集者としてやったことは、本当にただ待つことだけだった気がします。
今村さんに、初めてご連絡を差し上げたのは2011年の2月のことでした。その直前に発売されたデビュー作『こちらあみ子』の単行本を、出勤する電車の中で読み出したのですが、こみ上げてくる感情を抑えきれずに、会社に着いたあと、すぐに打ち合わせと称して、近くの喫茶店に出かけて、そこから一気に作品を読み終わりました。
今村さんといつかお仕事をご一緒したいと思い、折に触れてご連絡をし、ときどきお会いして近況をお伺いするようになりましたが、そのときどきに見た映画や、読んだ本のことについては、楽しくお話をしても、ご自身の作品のことになると「いつ書けるか、わからない」と繰り返されていて、「書くことを辞めないでください」と祈るような気持ちを抱いて、いつもお別れをしていた気がします。
今村さんの次の作品を早く読みたいと思っている読者のみなさんと同じように、私もただひたすら、今村さんの新しい作品を読みたいと思いつづけ、たまたま編集者という職業についていたので結果、直接、その思いを伝えることができて、少しだけ早く今村さんの作品を読める立場にあったにすぎません。
ただ、この『星の子』という作品に触れて、今村さんの新作を待望する気持ちは、またさらに強くなっています。
作品ガイドと称しながら、こんなことを書くのは矛盾していますが、あまり事前情報がない状態で『星の子』に触れていただきたいです。
きっと読む人ごとに、様々な感想を抱く作品だと思います。
その感想を語り合える人たちの輪が広がるよう務めることが、編集者として、今村さんの作品に携わることができた、自分の義務のような気がしています。
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文・朝日新聞出版 書籍編集部 四本倫子