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  • 作家・青山七恵さんと“鶏”散歩!新刊『ハッチとマーロウ』は双子の“大人への冒険”を描く物語

    2017年06月10日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    ――導入から海外の児童文学を読んでいるような読み心地で、あっという間に『ハッチとマーロウ』の世界に引き込まれました。

    ほかにもそういう感想をいただいているのですが、双子のママは冬には「はんてん」を羽織っていたり、わりと和風の小説だと思っていたので驚きました。

    「児童文学」も着想の元になったひとつではありますが、特別意識したというよりは、大人だけでなく、小学生、中学生の子どもたちでも読める小説にしたいなと思っていました。

    ――舞台は長野県の穂高ですね。ハッチとマーロウは、小説家でシングルマザーのママと森の中の家で暮らしています。

    以前、穂高に行く機会があって、そこの環境がとても気に入ったんです。この場所で書けるのはどんな関係だろうと考えたときに、自然と双子の女の子のイメージが浮かびました。いろんなタイミングがちょうどよく合わさって、この小説が生まれた気がしています。

    ――タイトルにもなっている『ハッチとマーロウ』は、2人のニックネームです。ハッチは「みなしごハッチ」、マーロウはかの有名なハードボイルド小説の探偵が由来と書かれています。2人の呼び名も、小説の雰囲気づくりに一役買っていますね。

    実は、名前の由来は特になくて思い付きなんです。「ハッチ」という名前が先にひらめいて、ハッチときたらマーロウかなと(笑)。その呼び名が先にあったので、2人の本名を考えるときには、いろいろ漢字を当てたりしてかなり悩みました。

     

     「自分らしく生きていくこと」を描く

    ――小学生が主人公の物語を書かれるのは初めてかと思います。しかも双子ということでご苦労された点はありますか。

    一作一作どの作品も難しさは違うのですが、今回は主人公の2人に、自分が抱く「こうあってほしい」という理想の子ども像を背負わせすぎないように気をつけていました。「こういう双子がいたらいいな」と思いながらも、書いていくうちに自分の想定の外側で生まれてくる2人の個性を大事にしました。

    ――ハッチとマーロウの個性は著者である青山さんが作るものでなく、2人に備わっているものということでしょうか。

    そういうものだと思います。言葉が連なっていくにつれ、著者の想像や目論見よりも、2人の存在のほうが大きくなっていきます。そうなってきたときに立ち上がってくるものを見逃さないよう心がけました。

    ――まさに、「個性は作るものではありません!」というママのセリフ通りですね。双子はおそろいの洋服をきっかけに“自分らしさ”について考えはじめます。“自分らしさ”や“個性”は、誰もが一度は悩む問題ではないでしょうか。

    私は子どもがいないので実感をもとには考えられないのですが、小さい子どもがいる友人の話を聞いていると、「自分らしくあるべき」という考えと、「1人だけ目立つと周りからいじめられるのではないか」という考えの間で、親自身も揺れているのだなと思うことがあります。私は反射的に「本人の好みを優先させたほうがいいんじゃない?」などと言ってしまうのですが、現実の話を聞いていると、そういう考えはまだまだ少数派なのかなとも思ったり……。

    でも私自身、いままで小説を通していろいろな人の生き方に触れて、驚いてきたことで、じゃあ自分も自分の道を行こうと開き直ることができたので、やっぱり小説を書く人間としては、「自分の好きなように生きようよ」と言い続けたいです。本当に真剣に自分の生に没頭しようと思ったら、他人の目は気にしていられないんじゃないかなとも思います。

    ――なるほど。個性は青山さんの意識していらっしゃることでもあるのですね。

    個性に限らず、考えてもよけいに混乱するだけで何の結論も出ないことが多いのですが(笑)。そうやって考え疲れてしまったときなどに、吉実園さんに鶏を見に行きます。本能のままに生きている生き物を見ていると、元気が出るんです。

     

     作家生活は「アドベンチャー」

    ――本作では章立てが月ごとになっていて、小学5年生のお正月からその年の12月まで、2人の生活が季節の移ろいとともに描かれていきます。構成はどのように組み立てられたのですか?

    前半の半年分くらいまでは、「1か月に1度、こんな出来事が起きる」という大枠を決めて書き始めましたが、結末については自分でもどうなるのかわかっていませんでした。

    連載小説は何回か経験がありますが、今回は私も双子と一緒に生活しているような気分を味わいたかったので、こういう形になったのだと思います。

    ――2人は転校生に「自分の意見を持つこと」を教えられたり、男子とのケンカで「男の子」と「女の子」について考えたり。やがて、自分たちが知らないママの「昔」やパパのことを知りたいと動き出します。さまざまな人間関係を通して成長した2人は、ラストで新たな扉を開けた感じがしますね。

    それも、書いていくうちにラストの場面にたどりついた感じなのですが、私は人間関係も刻々と変化していくものだと思っています。果物みたいに熟して、一旦はいいものになったとしても、そこからダメになってしまうこともある。ハッチとマーロウのような良い関係であっても、なんの努力もせずにずっと充実した関係でいるのは難しいのではないでしょうか。

    ただ、誰かと遠く隔たれてしまっても、それまでの関係が無意味になるわけでは決してないと思います。さっき見た吉実園さんでも、伐採した枝や葉を肥料に混ぜて使ってましたよね。人間関係も何も無駄なものはなくて、良い関係だけではなく、うまくいかなくなってしまった関係の蓄積の上にも生かされているのだと思います。

    ――『ハッチとマーロウ』を読むと、登場人物たちと一緒に物語の世界を生きるような、子どものときのワクワクした感覚を思い出します。それはストーリーはもちろん、言葉の置かれ方によるものも大きい気がしたのですが、文体や言葉の面で特に意識された点はありますか?

    言葉が出てくる出口に圧のようなものがあるとしたら、その圧力を弱めるか強めるかの違いかもしれません。前作の『繭』という小説は言葉の出口が狭く、蚕が糸を吐くように細く長く出していく書き方でした。今回は間口を広くとって、言葉を自分の中でいじくりまわさないうちに取り出してしまう感じです。言葉を精査するというよりは、音的な感覚、直感をより頼りにして書いていったところがあるかもしれません。

    自分の子どもだったころを思うと、1人ではどこにも行けないし、お金もないし、いろいろと制約は多かったけれど、想像の世界ではいまよりずっと自由だった気がしています。大人になったいまでも頭のなかではあれこれ夢想しますが、子ども時代とはそもそも想像力の馬力みたいなものが違ってしまっているかな、と感じます。

    ――本作で、ハッチとマーロウが見せてくれる“冒険”も、まさにそんな馬力がなせる業ですね。

    ハッチとマーロウだけじゃなく、私自身も冒険してるなと思います。小説家になって都会の東京で生きているなんて、子ども時代の私からしたら信じられない大冒険です。「怖いな」という気持ちもありますが、「でもこれは冒険、アドベンチャーだから楽しもう」という思いで毎日生きています。

    (2017.5.22)


    青山七恵
    1983年埼玉県生まれ。2005年『窓の灯』で文藝賞を受賞してデビュー。2007年『ひとり日和』で芥川賞、2009年『かけら』で川端康成文学賞受賞。著書に『快楽』『めぐり糸』『風』『繭』がある。

    著者:青山七恵
    発売日:2015年08月
    発行所:新潮社
    価格:1,980円(税込)
    ISBNコード:9784103181026
    著者:青山七恵
    発売日:2017年04月
    発行所:河出書房新社
    価格:605円(税込)
    ISBNコード:9784309415246
    快楽
    著者:青山七恵
    発売日:2015年07月
    発行所:講談社
    価格:759円(税込)
    ISBNコード:9784062931373

     

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