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「お嬢さんを誘拐しました」というアノニマス・コール=匿名電話で幕を開ける薬丸岳さんの最新作。
朝倉真志は3年前、ある事件をきっかけに警察を辞め、家族と別れて荒んだ生活を送っていた。ある日かかってきた無言電話から、「お父さん」というかすかな呼びかけが聞こえた気がして、離婚した妻・奈緒美に連絡をとると、彼女と暮らす娘・梓の行方がわからなくなっていた。その後、梓の命と引き換えに1,000万円を要求する電話が奈緒美の家にあるが、それは真志が握る“情報”を得るため、犯人が仕掛けた取引の始まりに過ぎなかった─。
これまで少年犯罪や被害者と加害者の問題などをテーマに、“社会派ミステリ”の書き手として評価を高めてきたが、本作は「何よりもエンターテインメントに徹した」作品。薬丸さんは子どものころから映画が好きで、一時は役者を目指したこともある。
「疲れたときに見たくなる映画のイメージで、自分自身が楽しんで書きたいなと。誘拐ものは以前から一度チャレンジしたかったジャンル。アクションがふんだんにある、ハラハラドキドキする作品にしたいと思いました」
小説でも映画でも誘拐ものは数多あり、好きな作品も多い。そんな薬丸さんが「これまでにない物語を」と主人公に課したのは、過去の出来事から組織に不信を抱き、娘の命を警察に託せないという状況。そこで真志は裏の世界に通じる岸谷と、勤務先のアルバイト青年・戸田を仲間に自力で梓を救い出そうとする。一方、3年前の事件の真相を知らされていない奈緒美は、そんな真志に反発しながらも、警察の捜査に疑念を抱き、真実を見定めようと動き出す。
「いままでの作品の主人公は悩み苦しんでいる人が多いのですが、真志は危機を回避するためにまず行動するタイプ。妻の奈緒美もそうですが、娘を救うために前へ前へと進んでいく、僕のキャラクターの中ではかなりアグレッシブな二人です(笑)」
物語は真志と奈緒美の視点で交互に綴られ、新たな事実が浮かぶたびに、犯人の狙いはさらに謎に包まれてしまう。二人の行動力と相まって、まさに息もつかせぬ展開に読者も引き込まれていく。
「いままでの僕の作品の読者が『アノニマス・コール』を読んだら、びっくりするかもしれません。でもこれも僕がやりたいことの一つで、それをダイレクトに出した、最初の作品になりました」
今年はデビュー10周年。「書きたいことを、いかに読者に一番良い形で伝えるか」を大切に一作一作積み重ねてきた。「とにかく楽しんでほしい」という本作も「読み終わってみればやっぱり薬丸の作品だなと感じていただけるのでは」。登場人物の多くが罪と痛みを抱える人間ドラマでありながら、すっきり爽快な読後感はまさにエンタメの醍醐味。読みだしたら最後、スピード感あふれる展開と幾重にも張り巡らされた仕掛けに極上の高揚感が味わえる一冊だ。
薬丸 岳 Gaku Yakumaru
1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。ミステリの次代を担う存在として注目を集めている。他の著書に「刑事・夏目信人」シリーズの『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『誓約』など。