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お仕事小説からヒューマンサスペンスまで、ひねりのある、共感度大のエンタメ小説が人気の桂望実さん。4月19日(水)に発売された『諦めない女』は、黒木瞳さんの初監督作品として映画化され話題になった『嫌な女』、気難しい女流作家とその秘書を描いた『我慢ならない女』に続く、「女3部作」の第3弾です。
小学生になったばかりの沙恵は、学校帰りに母京子の勤務先に寄り一緒に帰宅する。スーパーに入った京子は、入口のベンチで待っていたはずの沙恵が、忽然と姿を消し狂乱する。そして数年が経ち、離婚した京子は今日もひとり、わが子の帰りを待ちながら、情報を集めてビラを撒く。失われた時間、果たせなかった親子の絆を求めて……。
『嫌な女』『我慢ならない女』に続く、もがく女たちの物語。その展開に驚愕する、衝撃の書下ろし長編。(光文社公式サイト『諦めない女』より)
女性の人生を鮮やかに描き出すことでも定評のある桂さん。そんな桂さんの“読書を取り巻く日常”とはどんなものなのか?
今回の読書日記は、ジャズピアニストへと転身を遂げたあるミュージシャンへの思いなど、小説に負けず劣らず、特に同年代には共感必至の内容となっています。
仕事場に編集者がやって来た。手土産は外郎。私の好物を知っているのだ。ねっとりとした食感と、羊羹ほどの甘さがないのがいい。素晴らしい食べ物だと思っているのだが、羊羹ほどにはメジャーになれず、ファンとしてはじれったく思っている。常々もっと外郎に光が当たってしかるべきだと考えている。
編集者は外郎の他に本もくれた。北大路公子さんの『生きていてもいいかしら日記』。
私の読書は風呂場で行う。毎晩1時間半身浴をする。その時に本を読むのだ。そう、全裸だ。鳩尾あたりまで湯に浸かり、湯船の蓋をテーブル代わりにして、そこに肘をついて本を広げる。
40代独身の著者の好きなものは昼酒。北海道在住で両親と同居中。日々の暮らしで気付く問題点と、その向き合い方が綴られたエッセイ。面白過ぎて、ヒーヒーと笑いながら読むうち過呼吸になりかかる。笑う時下っ腹が動くせいだろう、湯は波打った。
すっかりファンになった私は北大路さんの『頭の中身が漏れ出る日々』も読破。こちらも抱腹絶倒のエッセイで、何度も湯が波打った。毎朝菓子パンを2つ食べる著者のお父さんにまつわる話が特に最高で、この一家と友達になりたいと心の底から思った。
私の大学の文化祭には、錚々たるミュージシャンがやって来てライブが行われた。女子大生が会いたい人を呼ぶのだから、当然人気の男性アーティストになる。そしてある年、大江千里さんが登壇することに。プラチナチケットを入手しようと、実行委員と急に友達になろうと試みる人が続出するも、そのほとんどが撃沈。私もその一人だった。当時の大江さんの人気はすさまじかった。耳に心地良いメロディーと、リアルな心情を綴った歌詞は私たちの心を摑んだ。合コンにいけば、8割の男性が大江さんもどきだった。当時髪型、ファッション、メガネなど大江さんを真似た男子大学生がたくさん生息していたのだ。
その大江さんが書いた本があると知り、手に取った。『9番目の音を探して』の装丁には、47歳からのニューヨークジャズ留学と書いてある。あの大江さんが47歳以上になっていたという事実と向き合うのにしばしの時間が掛かった。自分だって同じように年を重ねているというのに、大江さんに対する印象は20代のままでストップさせていたのだ。
日本での素晴らしいキャリアを捨てて、ジャズを学ぶためニューヨークの学校に入学した大江さん。そこでの日々を書いたエッセイ。
いち学生となった大江さんの奮闘ぶりが描かれていて、読みながら何度も声援を送った。ハーイと挨拶しても、クラスメイトにシカトされたり、教室を出ていきなさいと先生に言われたりするのだ。あの大江さんがだ。読んでいるこっちが切なくなった。だがやがて「センリはチャンスを与えられなかったのだから、不公平だ」と彼に代わって発言してくれる人が現れたり、先生が作曲のセンスを褒めてくれたりするようになる。そうした優しさにこっちまで胸がじーんとなった。
たとえ今は光が当たっていなくても、一生懸命努力を積み重ねていれば、いつか報われる日が来ると信じられる、そんな一冊だった。だから外郎も頑張れ。
桂 望実 Nozomi Katsura
1965年東京都生まれ。大妻女子大学卒業。会社員、フリーライターを経て、2003年、「死日記」でエクスナレッジ社「作家への道!」優秀賞を受賞しデビュー。2005年、『県庁の星』が映画化され大ベストセラーとなる。著書に『嫌な女』『我慢ならない女』『僕とおじさんの朝ごはん』『ワクチンX 性格変更、承ります。』『総選挙ホテル』などがある。