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「おひとりさま」「草食系男子」などのキーワードを世に広め、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」やNHK「所さん!大変ですよ」、テレビ朝日「ワイド!スクランブル」といった情報番組のコメンテーターとしても活躍している、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん。
そんな牛窪さんですが、トレンドのわかる場所の一つである「書店」へ行くのが、実は怖いのだといいます。
なぜ書店へ行くのが怖いのか? 今回は牛窪さんに、本屋さんにまつわるエッセイをお寄せいただきました。
牛窪 恵
うしくぼ・めぐみ。世代・トレンド評論家。マーケティングライター。1968年、東京生まれ。日大芸術学部映画学科卒業後、大手出版社勤務を経て2001年、マーケティング会社「インフィニティ」設立。同代表取締役。「おひとりさま(マーケット)」「草食系(男子)」などを世に広めた。トレンド、マーケティング関連の著書多数。新聞・雑誌連載、テレビ出演多数。
6歳のとき、近所の書店から「小学一年生」が届く日が、すごく待ち遠しかった。
当時住んでいたのは、マンモス団地で有名な東京・高島平。毎月、書店の若い店員さんが、学年誌を運んでくれる。本誌を開くとそこに、魅力的な“付録”の束。
「今月は何かな?」「どんなものが出来上がるのかな」
ワクワク胸躍った瞬間は、いまも忘れない。
一方で、両親と書店に出かけ、店頭に並ぶさまざまな書籍や雑誌を覗き込むのも、楽しみだった。
いや、正確には、それぞれの本の前で立ち止まる人たちを、しばらくウォッチングするのが好きだったのだ。
「なるほど、この本はこういう人たちに読まれているのか」……。いま思えば、これが私の“顧客マーケティング”の原点だったかもしれない。
それから20年弱が過ぎた、90年代初頭。
今度は“売り手”の立場から、書店に毎日どれほど数多くの本が届くのかを知った。出版社に入社した直後に体験した、いわゆる書店研修である。
売れない本をさげて新刊を並べるのは、重労働とともに酷な作業だった。自分なりに「この本のここがお薦め」とPOPまで書いた思い入れの1冊が、見向きもされずに終わり、やがてバックヤードへと消えていく。
胸が張り裂けそうだった。「書店の店員さんは、日々この思いに耐えているんだ」と切なくもなった。
そして、こう誓った。
「いつか自分の名で本を出せる日が来たら、書店さんに、あの辛い思いをさせずに済むよう、頑張ろう」と。
それから10数年後の、2004年4月。
ついに私の処女作『男が知らない「おひとりさま」マーケット』が、店頭に並んだ。
飛ぶように売れ、夢のようだった。にもかかわらず、この日から私は、書店を覗くのが怖くなってしまった。
「自分の本が、まったく売れていなかったら」……? いまも毎回、その恐れは変わらない。1冊の本が店頭に並ぶまでに、どれほど多くの人たちが裏で苦労を積み重ねているか、少しでも分かっているから。
でも4冊目を出すころから、考えが変わった。
怖がっていても、何も貢献できない。「ならば」と、わが子のような本を胸に抱え、ときに手書きのPOPを携えて、一軒一軒「書店さん回り」を始めてみた。
するとそこから、数多くの出会いが広がった。
鮮烈に覚えているのは、『恋愛しない若者たち』の発売後、「僕も読んで感動しました」「私も共感しました」と笑顔を見せてくれた、紀伊國屋書店新宿南店や、三省堂書店有楽町店の店員さんたち。
大阪や名古屋では、複数の書店さんが、私が店頭でPOPを書き直すのを、辛抱強く待ってくださった。
前作『大人を磨くホテル術』では、八重洲ブックセンターさんが、共著者の高野登さんとのトークイベントまで開催してくださった。
皆さん、日常業務でお疲れなのに、参加者の方々一人ひとりに「いらっしゃいませ」と温かい言葉をかけてくださったのだ。なんとありがたかったことか!
そして、今年3月。新刊『「男損」の時代』が発売になった。今度の主役は、私が「熟メン」と呼ぶ、40代半ば~60代半ばの中高年男性たちだ。
テーマは、「2020年、男の幸せはどうなる」。
これまで「働きバチ」と揶揄されてきた熟メンたちも、働き方改革やプレミアムフライデー、「人生80年時代」で、プライベートや人生をどう生きるか、との命題と向き合う時期に来た。私はこう呼び掛けたかった。
「世間の“男たるもの”プレッシャーに縛られず、そろそろラクに生きてみませんか」と。
今回も、書店さん回りに精を出したい。とともに、どこかで熟メンの皆さんを癒すイベントができたら、この上なく幸せなのだが……、少し欲張りすぎかな?
(「日販通信」2017年4月号「書店との出合い」より転載)