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鍵村葉月には友達がいない。
少ないとかごくわずかしかいないとか、微妙な関係の相手はいるがそれを友達と呼んでいいのかわからないとか、そんな生易しいレベルではなく、あまつさえ友達はいないけど恋人はたくさんいますとか、そういったライトノベル的ハーレムキャラというわけでもない。
十五才の現在、本当に完膚なきまでに、ただの一人も友達がいないのである。
なにせ私は物心ついた頃から変な子だと言われてきた。
とくになにをするでもなく空を見上げていたり、道ばたに座りこんでいつまでも動かなかったり、ボーッとしていることが多かったからだろう。
そういう時、私の頭の中ではいろいろな『物語』が動き出している。
こんもりとした入道雲の中には真っ白なお城があって、そこでは背中に羽のある人たちが暮らしているのだとか、アリさんたちが一列に並んで歩くのは大昔に魔法をかけられたせいだとか、なんの役に立つわけでもない妄想と空想の世界にひたっていた。
そんな風になったきっかけは、たぶんお母さんだ。
お母さんは私にたくさんのお話を聞かせてくれた。
楽しい話、悲しい話、怖い話、不思議な話。有名なお話だけじゃなくてお母さんオリジナルのお話もいっぱいあった。
そしてお母さんは、必ず最後にこう言った。
「葉月、自分の『物語』を見つけなさい」
小さかった私はその言葉の意味を一生懸命に考えた。
考えに考えて考えぬいたあげく辿り着いたのが「空想」だった。
出会うものはなんでも空想の餌食になった。そして空想は空想を呼び、あれもこれもそれもまざってごっちゃになっていくのだ。
お母さんが亡くなってしまって、私の空想癖はさらに悪化した。
今では空のお城はジェット推進で空を飛び、騒音に悩まされた王様はストレスで髪の毛と羽に深刻なダメージを受けている。アリさんたちは魔法の力を逆利用して行列のできるラーメン屋さんをはじめている。我ながら意味不明だ。
お母さんも天国で「そうじゃない」とツッコミを入れていることだろう。
そんな子に普通の友達ができるわけもなく、高校生になった私こと鍵村葉月は、それはそれは立派な“ぼっち”へと成長をとげていたのでした。めでたしめでたし。
「ぜんぜんめでたくないし!?」
ハッと気づけばそこは学校の教室。しかも授業の真っ最中だった。
教壇に立つ先生は怒りにこめかみをヒクヒクさせ、クラスメートたちは「またか」という顔で、呆れたりクスクス笑ったりしていた。
また、やってしまった……。
今回はタイミングも悪かった。期末試験を間近に控え、先生がわざわざ「絶対に試験に出すぞ」と念を押したところだったからだ。
「鍵村葉月! あとで職員室まで来い」
「……はい」
私は恥ずかしさといたたまれなさに首をすぼめながら返事をした。
・作品紹介:「文学少女は魔法少女になれるか?故・松智洋原案『メルヘン・メドヘン』」
https://hon-hikidashi.jp/enjoy/25268/
・『メルヘン・メドヘン』特設サイト
http://dash.shueisha.co.jp/feature/maerchenmaedchen/