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多くのファンが待ちに待った、村上春樹さんの新作長編小説『騎士団長殺し(第一部・第二部)』が本日発売となりました。
発売日とタイトル以外、ベールに包まれていた本作。その第一読者である編集担当者は、『騎士団長殺し』をどのように読んだのでしょうか? 30年来の担当だという新潮社の寺島哲也さんに、作品ガイドを寄せていただきました。
騎士団長? 殺される? 顕れるイデアとは何か? どこの国の物語なのか……。
2月24日の発売前から、村上春樹さんの新作長編『騎士団長殺し』は村上ファンだけでなく、SNSや海外の各種メディアでも広く注目を集めてきました。
担当編集者である僕も、数か月前、みなさんと同じように、謎に満ちた題名、強い磁力を持つサブ・タイトルにひかれた一人です。村上さんから原稿をいただいた日から2日間、寝食を忘れて読み続け、気がついたら2日ともしらじらと夜が明けていました。
それから半年余り……。2月24日に遂にベールを脱いだ小説ですが、一人称で書かれた今回の大長編は、舞台となった場所の丁寧な描写が見事で、これまでにない雰囲気をたたえた傑作です(編集の合間には、舞台と思しき場所にも出かけました)。もちろん、「騎士団長」を始め、ユニークな登場人物たちが魅力的で、村上さんの小説の真骨頂である多義的で思惟的でしゃれた会話にもぐいぐい引き込まれます。もちろん、今回もシーンに合わせて多彩な音楽(実際に聴きながらゲラを読んでいました)が登場しています。
担当編集者になってから30年近くが経ちますが、『雨天炎天』『ねじまき鳥クロニクル』『神の子どもたちはみな踊る』『海辺のカフカ』『1Q84』など、編集に関わった村上作品の題名はいつも新鮮です。しかし、その中でも『騎士団長殺し』は群を抜いて刺激的です。
編集者は、原稿を何度も何度も読み返しますが、今回の長編は、一回ごとに新鮮な気持ちが湧いてくる稀有な小説でした。初めて読んだ時の圧倒的な感動、2度目で発見する会話や情景の奥深さ、3度目に読んで魅かれる鮮烈な一行。ふいに過去の村上作品を読み返したくなり、登場する音楽を聴きたくなります(『1Q84』の「シンフォニエッタ」みたいに)。
多くの謎を刺し抜くように、『騎士団長殺し』が書店に並んでいます。僕は今、編集者から一読者にもどって、もう一度夢中で読み始めています――。
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文・新潮社 編集委員 寺島哲也
その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。
(新潮社公式サイト『騎士団長殺し ―第1部 顕れるイデア編―』より引用)
・村上春樹『騎士団長殺し』がついに文庫化!全4巻2ヶ月連続刊行