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――大阪・呉の話では、関西に出張した遼平と浩平に、威力的にもビジュアル的にも抜群の破壊力を持つ元自衛隊員、カオルが応援として加わります。「なんでこんなに『裂け目』ばっかり出来るんだろう」と愚痴る遼平に、カオルは「戦争したがっているヤツが増えてるからじゃないの?」と答えます。このセリフが示すように、本作には旧“軍都”が舞台であるだけでなく、現代の日本を覆う不穏さも濃厚に漂っています。その象徴がまさに“グンカ”ですね。
以前、(現在の窮状を打破して)「一発逆転するには戦争でも起こってくれないかな」という若い人の発言が話題になりましたが、グンカはそういった空気を嗅ぎつけて出てくる、化学反応みたいな存在です。“グンカ”たち自身に意思があるのではなく、呼ばれたところに出てくる。その感じが嫌だなと。
書き始めたときは、それこそ軍とは過去の遺物である、むしろノスタルジックなもののつもりで書き始めたのですが、現実のほうがいくらかきな臭くなってきて、第6話の「六本木クライシス」を書くころには若干現実に追い抜かれた感がありました。
――第6話ではオリンピックもモチーフとしてでてきますが、まさに時代とマッチした作品になりましたね。
マッチしちゃいましたね。東京オリンピックも決まってしまったし。私は「イスタンブールオリンピックって格好いい」とイスタンブールを応援していたのに。東京に決まったときは「しまった」と思いました。
――本作は一つ一つの物語が連なったときに、スケールの大きな作品世界が浮かび上がる連作短編集ですが、ラストである人物が登場するシーンでは、さらなる物語の始まりを予感させられました。
ハッピーエンドでもあるし、バッドエンドでもある。それはわからないんですよね。
でも作者としては、一応この話はこれで終わりです(苦笑)。
――現実社会を覆う不穏な空気がどうなっていくのか、私たちの選択によって物語世界の今後も変わっていくのかもしれません。とはいえ、この先が気になるという読者の声もすでに届いているそうですね。小説として読めることも期待して待ちたいと思います。
――もう一冊、『終りなき夜に生れつく』も発売中ですね。
これは『夜の底は柔らかな幻(上・下)』のスピンオフで、中編が4つ入っています。登場人物たちの前日譚ですね。『夜の底は柔らかな幻』もかなりの長期間書いていて、終わったときにまだ(自分自身が作品から)抜けていかない感じがあり、登場人物にもわからない部分があったので、それなら「この人たちの過去に何があったのか書いてみようか」と思って。私はシリーズものは書かないのですが、珍しくスピンオフが書けるくらい、まだ登場人物に興味がありました。
それも極悪非道の男性ばかり。興味があったのが悪人のほうだったんですよね。
僕たちは、同じ種族だ。
永遠に終わらない夜を生きていく種族。のちに何件もの大規模テロ事件を起こし、犯罪者たちの王として君臨する男、神山。
市民に紛れて生きていた彼を追う雑誌記者が見たものとは――。強力な特殊能力を持って生まれてきた少年たちは、いかにして残虐な殺人者となったのか。
『夜の底は柔らかな幻』で凄絶な殺し合いを演じた男たちの過去が今、明らかになる。
――イロと呼ばれる特殊能力を持つ「在色者」として生まれ、壮絶な少年期を過ごした3人の男たち。本編で垣間見えた彼らの過去が、今作で明らかになります。あの壮絶な戦いに至るまでに、彼らに何があったのか。短編集としてももちろん楽しめますが、本編と併せて読むことであの壮大でダークな世界がさらに広がる、ファンにはたまらない一冊です。
そして、3月21日(火)には『錆びた太陽』の刊行が予定されています。
こちらはお笑いSFです。「週刊朝日」に連載していたもので、近未来の日本に同時多発原発テロが起きて、汚染地域が国土の何割かを占めてしまっている話です。事故でゾンビになってしまった人がたくさんいて、日本の人口も激減してしまった。国税庁が税収をどうしようか悩み、「ゾンビに課税するにはどうしたらいいか」と奮闘する話です。
――直木賞の受賞会見でも、「いろんな種類のおもしろさを体感できる小説を書いていきたい」とおっしゃっていましたが、まさにバラエティに富んだ新刊が揃っていますね。
『蜜蜂と遠雷』から私の作品を読み始めた方も、「いろいろ芸風が違う小説がある」ことを楽しんでいただければ。
私はいまでも読書が一番の趣味なので、「やっぱり本を読むのは楽しいな」と思ってもらえる本をこれからも書いていきます。読者の方にも、ぜひいろいろな本を楽しんでいただきたいですね。
(2017.2.15)
恩田陸 Riku Onda
1964年、宮城県生まれ。1991年、第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補となり、『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞受賞。2006年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門賞受賞。2007年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞受賞。2017年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞受賞。
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