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子ども向けの論語の本が、9年前に静かなブームとなったのを覚えているでしょうか?
明治書院から刊行された「こども論語塾」シリーズがその火付け役と言われており、同シリーズは累計売上が30万部を超えるヒットとなりました。
そして今、古典の子ども向け現代語訳に新しい波が到来しています。
中でも『こども孫子の兵法』は、2016年3月の刊行から売上を伸ばして10万部を突破し、続編『こども菜根譚』も4万部と人気。明治大学文学部教授で『声に出して読みたい日本語』などでも知られる齋藤孝さんが、監修を務めています。
「孫子の兵法」といえば兵法書の古典であり、ビジネス書でもよく扱われる題材。松下幸之助やビル・ゲイツ、古くは武田信玄の愛読書としても知られています。
しかし内容は、敵との戦い方を説いたもの。これを子ども向けに「超訳」したのはなぜなのでしょうか?
今回は『こども孫子の兵法』『こども菜根譚』の発売元である日本図書センターのお二人に、お話を伺いました。
(左から)
日本図書センター 営業企画部 課長 杉本充孝さん
同 第二出版部 課長 高野愛実さん
―子どもに「孫子の兵法」を学ばせるというのは、異色ですよね。まずは、この組み合わせが生まれたきっかけについて教えてください。
高野:「孫子の兵法」の子ども訳は、弊社の代表がずっと温めていた企画です。論語の子ども訳が一時期たくさん刊行されましたが、それとは違う切り口で、より現実的で、学校や家庭では教えるのが難しい、でも大人になっても役立つようなこと。そんな古典訳を作りたいと思っていました。企画から数年かけて、ようやく形になったのが『こども孫子の兵法』です。
―読者や書店からの反応は、どうでしたか?
高野:戦術の本ですから、読者や書店様には「まさか兵法を子どもに?」と驚かれました。
杉本:基本的に論語は道徳的な教えですが、『こども孫子の兵法』は子どもを取り巻く人間関係を“国と国との戦い”に置きかえた、言わば「処世術」です。子どもが持つ道徳的感性からすると「ちょっとずるい」と感じるかもしれません。でも建前やきれいごとではないので、子どもたちにとって現実に役立つ本として受け入れられていると感じます。
―子ども向けに「超訳」する際には、さまざまな工夫が必要だったと思いますが……。
高野:ずるがしこい感じにならないよう、言葉選びは慎重に行いました。本の仕立ても可愛くして、きつい印象を与えないようにしています。ただ、あまりに道徳的だとリアルな印象が薄れてしまうので、そこは微妙なさじ加減で。表現は何度も何度も吟味して、何が正解なのかを探す作業を重ねました。また、すがわらけいこさんによる脱力系でほんわかとしたイラストの力に助けられて、大人の世界の話も、子どもの世界へ寄せることができたと思います。
―本を作る上で、どんなことを大切にされましたか?
高野:「子どもを子ども扱いしすぎない」ことでしょうか。子ども向けの本なので簡単でわかりやすい言葉を選んだり、ルビをつけたり、そうした基本的なことはもちろん子ども向けにしましたが、「子どもは物事をよく理解できないからこうしよう」という発想はしないように。子どもはいろんなことをちゃんと分かっているんだぞ、と肝に銘じて本を作りました。
▼『こども孫子の兵法』より。左側のページで、言葉の意味が詳しく解説されている。
杉本:とはいえ、売れ行きの初速は遅かったんです。子ども向けの本で「孫子の兵法」は前例がなかったので。書店さんも類書がないのが不安だったようで、なかなか注文をいただけませんでした。特に書店の児童書担当者さんには女性の方が多いので、「子どもに兵法?」「実際にお客様に手に取っていただけるの?」と懸念する声が多かったんです。
ただ、男性の担当者様や読者からは反応がよかった。ビジネス書で兵法は定番ですし、男性は三国志など中国古典好きが多いですから。それで日本経済新聞を中心に広告を打ち、児童書売場に足を踏み入れないような男性のお客様にも周知しました。発売は3月だったんですが、6月頃から次第に売れ始め、やっと書店で平積みされるようになったんです。