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専門書から『バカの壁』などのエッセイまで、多くの著作を持つ解剖学者の養老孟司さんは、大の虫好きでもある。箱根にある別宅は、膨大な標本が並ぶ「虫御殿」だ。虫の研究は専らここで行う。「ここにいる時は虫のことしか考えない。仕事も虫も、集中が大事」
『虫の虫』は、一冊丸ごと昆虫づくしのエッセイ集。書き下ろしの「虫を見る」では、虫を見つめる視線から浮かび上がる世界を、脳のしくみから現代人の本質まで自在に語り尽くす。「ラオスで虫採り」は、昆虫採集の魅力、昆虫の生態や不思議な習性など、虫を追いかける喜びが詰まった紀行文だ。
全編を通して、鮮やかな昆虫のカラー写真が満載。さらに特装版には、仲間とのラオスでの昆虫採集の様子を70分以上の大ボリュームで収録したDVDも付く。豪華な一冊だ。
「虫からわかること、なんて言っても、実はわかったつもりで勝手にこうじゃないかと思っているだけ。言葉で説明できないことこそ大事なんです。最近はよく家の前でアリを見ているんだけど、面白いよ。本当に面白い」
パソコンや機材が揃った研究室。この日は甲虫の翅に付いていた体長わずか0.4ミリメートルの小さな虫を電子顕微鏡で観察していた。
「毎月の四分の一くらいはここで過ごしています。箱根はこれからがいい季節。若葉が伸びてきて、それを食べる虫が出てくる。梅雨明けの頃になると、春の虫が残っているところに夏の虫も出てくるから、昆虫採集には一番の時期です。でも昆虫採集をすると、後の作業が大変でね……」
虫の話をする時の楽しそうな表情が、虫の魅力を何よりも伝えている。
養老さんが持つ容器にはたくさんのゲンゴロウ。
標本作りは、まず流し台で虫を洗う作業から始まる。洗剤で汚れを落とし、触角や脚を柔らかくする。使う道具は長年の経験から「紅茶の茶こしが最適」。
養老孟司 Takeshi Yoro
1937年神奈川県鎌倉市生まれ。医学博士。1962年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1981年東京大学医学部教授に就任。1995年東京大学を退官。1998年東京大学名誉教授に。1989年『からだの見方』でサントリー学芸賞、2003年『バカの壁』で毎日出版文化賞を受賞。専門の解剖学のほか、社会時評などで幅広く活躍。近著に『ねこバカ×いぬバカ』(共著)、『日本人はどう死ぬべきか?』(共著)、『「自分」の壁』など。
(「新刊展望」2015年7月号「創作の現場」より転載)