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  • 田中慎弥さんインタビュー:『共喰い』から『美しい国への旅』へ 変わらずに描く「生きる」ということ

    2017年01月31日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    ちっぽけな存在がどう戦うのか

    ――ここ数作は、「ここではない世界」を舞台にした小説を書いていらっしゃるということですが、その数作とそれ以前の小説で、ここは変わらないなというところはありますか? たとえば、田中さんの『共喰い』などはさまざまな男女を描くリアリズムの小説ですが、本作のラストにも宿る神話的なイメージは共通しているように感じられました。

    女の人が強いというのはありますね。女の人はすべからく強くて、怖くて、格好いいものだというのが私のイメージなんです。男は別に強くも格好よくもない。自分への感覚としてもそうです。

    ――確かに田中さんの作品では、女性が小説世界を動かす役割を担っていることが多いように思います。この作品でも、女性はある意味”エネルギー源”となっていますね。性的なことはこれまでの小説にも書かれていますが、それはなぜですか?

    デビュー以来自分でもそれは考えてきて、人からも聞かれることなのですが、よくわからないんです。ただ、本作を書くにおいては、政治と性的なことはどこかで結びついているような気がしています。

    小説では、司令官が周りにいる女たちを取り込んで、愛情とは呼べないいびつな形のエネルギーを発揮する中、マッチョな男性性が最終的には滅びていきます。日本の政治が先祖がえりというか、保守的な方向に戻っているという状況は確かにあって、ただそれを本当に復活させるマッチョなエネルギーは、いまの政治的な状況には残っていない。

    それをリアルな政治家を主人公にしてストレートに描くやり方もあるでしょうけれど、それは自分の仕事ではないと思います。政治や首相を小説に取り込んではいますが、それもやっぱり自分と距離があるんでしょうね。「私にはいまの状況がこう見えますよ」と。

    変わっていないこととしてもう一つ挙げるなら、絶対的な、大きな存在の前で、ちっぽけな立場の人物がどう対処するかということでしょうか。デビュー作(「冷たい水の羊」/『図書準備室』所収)もいじめの話でしたし。

    父親や歴史、政治でもいいし、社会や他者、組織、絶対的な血筋といったものに対して、多くは主人公が戦うにしろ、逃げるにしろ、「どうしよう」とおたおたしているのが私の小説。それは変わっていないですし、小説はそういうものなのだろうと思います。

    ――本作では生き延びるのが非常に困難な状態の中、「それでもどう生きるのか」という問題と、さまざまな「性」と「死」の姿を通して古いものを「脱ぎ捨てる」、もしくは「再生していく」ということを感じさせられました。

    それはそれでありがたいですけれど、私、最近ネタに困ると登場人物を殺すクセがあるんです(笑)。殺人が起こることに意味を見出してはいないのですが、(本作で言えば)周りでは戦争が起こり、大気が汚れているという状況がある。そういった中でもどうやって生きていくかを、小説は描かなければいけないのではないでしょうか。

    それには、「生きていくことはこんなに素晴らしい」という形で示す小説もあるでしょう。私の場合はネガティブな、生きづらい状況の中で、大きな力に翻弄されるちっぽけな主人公が生きていくという状況を作っている。それを再生といえば、そういう要素もあるでしょう。親や、自分が敵対する権力や世の中、歴史が一回終わっても、なお生きていかなければならない状況は「再生せざるをえない」とも言えます。

    再生することが果たして幸せなのかはわかりません。それでも、生きることがどんなに残酷であっても、生きていかなければならないし、生きていくことはできるのではないか。それを小説として書いた面はあると思います。

    ――大気汚染などはまさに東京の空気を連想させられますが、東京に来られて「これは良かった」という点はありますか?

    美術館の数が多いことですね。そんなにアートに興味があるわけではないですが、時々観に行きます。最近だと国立新美術館のダリ展。東京都美術館の若冲展の時は2時間くらい並んで観ました。映画が好きなので、映画館が多いのもありがたい。美術館、博物館などちょっと行くと観る所があるのは、いままで熱心に通っていなかった分うれしいですね。なかなか時間はとれませんが。

    ただ編集者との距離が近くなったので、あまり逃げ隠れができない(笑)。呼び出されて「ここをもう少し直してください」といわれることが増えました。それはもちろんありがたいことではあるのですが。いまのところ大変だけれど、そこそこ快適というところでしょうか。

    (2016.12.22)


    田中慎弥 Shinya Tanaka
    1972年山口県生まれ。2005年「冷たい水の羊」で第37回新潮新人賞を受賞しデビュー。2008年「蛹」で第34回川端康成文学賞を、同作を収録した『切れた鎖』で第21回三島由紀夫賞を受賞、2012年「共喰い」で第146回芥川龍之介賞を受賞する。主な著書に『図書準備室』『神様のいない日本シリーズ』『犬と鴉』『実験』『田中慎弥の掌劇場』『夜蜘蛛』『燃える家』『宰相A』『炎と苗木 田中慎弥の掌劇場』がある。

    孤独論
    著者:田中慎弥
    発売日:2017年02月
    発行所:徳間書店
    価格:1,100円(税込)
    ISBNコード:9784198643492
    炎と苗木
    著者:田中慎弥
    発売日:2016年05月
    発行所:毎日新聞出版
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784620108209
    夜蜘蛛
    著者:田中慎弥
    発売日:2015年04月
    発行所:文藝春秋
    価格:605円(税込)
    ISBNコード:9784167903404

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