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2016年9月に刊行された森絵都さんの最新小説『みかづき』が、12月24日(土)放送のTBSテレビ「王様のブランチ」にて、ブックアワード2016大賞に選ばれました!
森絵都さんといえば第135回直木賞を受賞した『風に舞いあがるビニールシート』や、『つきのふね』『カラフル』といったヤングアダルト小説、青春小説の名手として知られていますが、今作『みかづき』は、昭和から平成にかけての塾業界を舞台に三代にわたって奮闘する一族を描いた、渾身の大長編作品です。
重厚長大なボリュームと、「塾業界」という特殊なテーマを扱った作品であることから、一見敷居が高いように思われる本作。一方で、「一度読み始めたら続きが気になって最後まで一気読みしちゃいました!」「2016年のベスト作品です」と推す方も多い一冊です。
「塾業界」というとあまり馴染みのない方も多いかと思いますが、『みかづき』には多くの人の心に訴えかける、普遍的な魅力が詰まっています。なぜならば『みかづき』は、ひとつの家族の物語を三代にわたって描き出すという作品の構成上、人生のあらゆるライフステージにまつわるエピソードが盛り込まれているためです。
それは結婚、出産、別離といった家庭内での出来事から、家族の一員が経験する就職や職場での軋轢、起業といった事柄にまで及びます。そのため、どのような人が読んでも、自分の人生と結び付けて何らかの感動を得られる箇所があるのです。
日販ではこの度『みかづき』を読んだ全国の書店員の皆さんから、作中に登場した”心に刺さる名言”を募集しました。その結果、多くの”名言”が、私たちの手元に寄せられました(※本企画への応募は終了しています)。集まった原稿を読んでみると、やはり読み手の年代や性別によって異なる箇所が引用される傾向にあるようですが、その中で、より多くの人の心を掴んだ箇所があるということも分かりました。
そこで今回は、書店員の皆さんにご応募いただいた名言集の中から”より多くの人の心に刺さった名言”ベスト3をご紹介したいと思います。書店員の皆さんからのコメントも一部掲載しますので、本編を未読の方もぜひご覧ください!
「誰の言葉にも惑わされずに、自分の頭で考えつづけるんだ。考えて、考えて、考えて、人が言うまやかしの正義ではなく、君だけの真実の道を行け」(176ページ)
生きる上での姿勢を説いたセリフですが、同時に「教育」が目指すべき究極の方向性を暗示しているようにも読み取れます。自分の頭で考え続けることがいかに難しく、同時に大事なことであるか、大人になればなるほど身に染みて感じさせられます。
――学生の私は、親や教師、目上の人の言葉に簡単に流されます。それでも、流されるばかりでなく、その言葉を自分の考えの指針として受けとることができれば、とこの言葉に教えてもらったからです。※教職を目指す大学生にこそオススメしたいです。(金港堂 泉パークタウン店/宮城県仙台市)
――頭では解っていても”右向け右”に従ってしまう人が多い人間社会に、皆が、この言葉の様に強い信念で生きられたらイジメや戦争だって減っていくはずだ。教育とはこういう人間を育てることが一番重要だと凄く思った。(蔦屋書店 本庄早稲田店 田中正枝さん/埼玉県本庄市)
――自分で考え続けることは、簡単そうで、なかなか続かない。気付くとテレビで見聞きした意見、ネットで読んだ情報に同調・反発するだけで、自分で考える行為を省略していることがある気がする。考えることを放棄することは、自分を明け渡すことだ。ハッとするひと言だった。(精文館書店 新津島店 宮浜真澄さん/愛知県津島市)
「どんな子であれ、親がすべきは一つよ。人生は生きる価値があるってことを、自分の人生をもって教えるだけ」(153ページ)
これは、私の個人的ベストでもあるセリフ。ちょうどプライベートで当年に第一児を授かったこともあり、深く心に刺さりました。
――大島家の激動の時代を、公私共に支えた頼子さん。病の身で迷いの中にある家族へ向けた頼子さんの言葉です。奇しくも母を今年の初夏に亡くした私には、まるで母の言葉のように感じ、心に刺さり、染み入りました。この本は母が導き、道を示してくれたのではないかな、と思います。(蔦屋書店 熊谷店 加藤京子さん/埼玉県熊谷市)
――先がわからないからこそ自分の選択が合っていたのか答え合わせをしたくなってしまう。自身の判断が正解か不正解かその時はわからない、でも進むしかない。そうした葛藤を何度も繰り返して人としての深みが出るのだと思っています。(TSUTAYA 福生店 下山直人さん/東京都福生市)
――自分の姿を子ども達に見せることによって、言葉では教える事のできない事を、子どもたちに伝える事を自分も見せたいと思った。(ブックエース 下妻店 大関裕一さん/茨城県下妻市)
――ドラマチックな展開、緻密な構成の小説の中に、すっとはさまれたこの言葉にひかれました。親から子へ、孫へとつづくこの物語では、何を教育という場で子どもに伝えるべきかが、この言葉に凝縮されているように感じます。生きること。原点に立ち返らせてくれる力がある言葉なので、選びました。(ブックセンタークエスト 黒崎井筒屋店 小野太郎さん/福岡県北九州市)
「常に何かが欠けている三日月。教育も自分と同様、そのようなものであるのかもしれない。欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むのかもしれない」(464ページ)
塾業界を描いた内容と直接には結び付きにくい、「みかづき」というミステリアスなタイトル。そこに込められたメッセージが示唆される、終盤での一文です。作品のテーマと密接に関係する部分であるだけに、多くの人の心を掴んで堂々の第1位に輝きました。
――タイトルと塾がどうつながっていくのか、謎でしたが、最後でああ、そうなのかと思いました。時は流れて、いろいろなことが起きるけれども、まだまだ知りえないこともたくさんあり、一生勉強です。一生三日月のような気持ちで前を向いていきたいと思いました。(有隣堂 伊勢佐木町本店 佐伯敦子さん/神奈川県横浜市)
――いくつもの感動の山を重ねてきて、最後にスピーチとして表わされる”みかづき”。満月を念頭におきながら、満ちよう満ちようと努力している三日月状態の者にとって、タイトルの重みとすがすがしさを感じます。(じっぷじっぷ 清水祥三さん/福井県福井市)
――自分はまだまだ足りないと思うことは日々多かれど、研鑽を積んでいるかといわれると自信を持ってYESとはいえません。実はそれは自分が欠けているという自覚がないからなのかもしれません。今はこうして襟を正したような気持ちでいますが、日が経てばきっとその気持ちも薄れてきてしまうのでしょう。でもきっと、夜空に三日月を見た日はこの気持ちを思い出して、また襟を正せるはず。(幕張 蔦屋書店 後藤美由紀さん/千葉県千葉市)
――誰かに何かを教えている時、人は傲慢になる。何も知らない相手に自分が教えてやっているのだ、と。そんなまん丸に膨らんだ傲慢な自分へのこの言葉はイエローカードだ。欠けているからこそ照らせるものがある。私も欠けた形のまま、誰かを照らす三日月でありたい、と強く思った。(精文館書店 中島新町店 久田かおりさん/愛知県名古屋市)
――満ちようと懸命に生きる切実さ、ひたむきな想い、それは光りで、未来へ未来へと子供達を包みながらつながってゆく。そう確かに信じられた。(紀伊國屋書店 ゆめタウン徳島店 安倍香代さん/徳島県板野郡)
冒頭でも述べた通り、十人の読者がいれば十人が全く違う部分に惹かれる可能性があるのが『みかづき』の大きな魅力です。番外編では、書店員の皆さんにお寄せいただいた投稿から、記者が「なるほど!」と頷かされた名言をピックアップしてご紹介したいと思います。
勉強ができない子は集中力がない。集中力がない子は瞳に落ちつきがない。この〈瞳の法則〉を見出して以来、吾郎はまず何よりも彼らの視線を一点にすえさせることに腐心した。(6ページ)
――親として、多少でも他人に物を教えたことがあるものとして、経験したことがあるはず。また自分や他人の「視点」ということを想像しながら読みました。(ブックエース 成田赤坂店 真田さん/千葉県成田市)
作品冒頭で説かれる「瞳の法則」です。実際に教育に携わった者にしか語れない、鋭い着眼点が示されています。
瞳に落ちつきのありすぎる女たちは、したたかに男を操作し、支配するすべをわきまえている。涼しい顔で男を引くに引けない袋小路へ追いこんでいく。年上の女の<瞳の法則>――。(31ページ)
――森絵都さんがよもやこんな言葉を吐くとは。読み始めて気分が乗ってきたところで、結構グイッとひきずりこまれました。(鹿島ブックセンター 鈴木順子さん/福島県いわき市)
そしてこれは、もう一つの「瞳の法則」。私自身も仕事をする上で年上の強い女性たちにやり込められることが多く、身に染みて頷けるフレーズでした。げに恐ろしきは、年上の女の「瞳の法則」――。
「一郎、おぼえとけ。女三人がタッグを組んだらとうていかなわんぞ」(382ページ)
――教育とは? 家族とは? こんなにも深く考えさせられた小説は初めてでした。簡単に答えが出るものではないけど、大人、一人一人が真剣に向き合わなければならないと感じました。そして物語の根底に流れる女性の「生きる強さ」に勇気をもらいました。(一清堂 上尾店 円谷美紀さん/埼玉県上尾市)
こちらも女性に関する名言。完全に男性目線のセリフですが、「あるある!」と共感できる方も多いのではないでしょうか? なお私の親戚筋には女性の三人セットが多く、三人が一堂に会したときのかしましさと連帯力の強さには身震いがするほどです(笑)。
今も未練がないと言ったら嘘になる。不在者ばかりが吾郎の胸を満たす。満ちているのに、むなしい。(155ページ)
――特に「不在者ばかりが吾郎の胸を満たす」が素晴らしい表現であると思う。人生の悲哀をここまで的確に言い表わした一文を私は他に知らない。(さわや書店 フェザン店 松本大介さん/岩手県盛岡市)
いま、まさにそばにいる人や環境への思いは、失ってから初めて湧き上がってくるものなのかもしれません。だからこそ、「いま」を大事に生きていこうと思わせてくれる一節です。
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いかがでしたか? 作中には、まだまだたくさんの「名言」が散りばめられています。年末年始にじっくりと読み込む本をお探しの方は、ぜひ『みかづき』を手に取ってみてくださいね。いまの「あなた」にぴったりのフレーズが、きっと見つかると思いますよ。