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小説家・星野智幸さんの初の自選作品集『星野智幸コレクション』(全4巻)。2010年までの代表作、単行本未収録の作品等を「スクエア」「サークル」(テーマは政治・家族)、「リンク」(自殺・植物的性)、「フロウ」(移民・幻想譚)の4テーマに分類し、収録しています。古びないどころか現実の社会を色濃く映しだす骨太な小説の力はもちろん、精緻な装画と美しい装幀も本を手にする喜びを膨らませてくれる作品集です。担当編集者の方に星野作品の「今こそ読まれるべき理由」を寄せていただきました。
星野智幸さんの小説を読み返すと、いつまでも内容が古びないことに驚かされます。それどころか、星野さんが早くから予感し警鐘を鳴らしてきた事態が、今いよいよ現実化しつつあるようにさえ思うのです。
例えば第Ⅰ巻『スクエア』所収の「在日ヲロシヤ人の悲劇」には、「アナメリカ」と「ヲロシヤ」が手を結び「日本軍」の海外派兵を要請した状況が描かれています。まるでトランプ大統領就任後の世界を予期していたかのように。
同じ巻の「ファンタジスタ」は小池都知事のもとで開催されるオリンピックを、第Ⅱ巻『サークル』所収の「ロンリー・ハーツ・キラー」は平成という時代が終わりを迎えるときを思い浮かべる方もいるかもしれません。
そんな「予言的」な作品を書いてきた星野さんが、本の中でいつも表現してきたことがあります。それは日本社会に根強く残る同調圧力への違和感です。
異なる意見を述べることが許されない風潮は、疲れます。でもこの社会から降りることができない中で、人は自分を権威づけようとしたり、あるいは同じ権威を戴くことで、安心を得ようとしがちです。
それでも不安が収まらなければ、同じ集団に属さない人を攻撃したり、あるいは集団からはみ出る自分を責めて、傷つけることもある。そういった暴力性から解放されるには、どうしたらよいのか。星野さんが抱え続けてきたのは、その問いでした。
自分や他人を傷つける壮絶な描写に、息苦しさで胸が押し潰されそうになるかもしれません。でも、最後まで物語を読み通したとき、星野さんの希望と信念をきっと読み取っていただけると思います。
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文・人文書院 編集部 赤瀬智彦
(「新刊展望」2017年1月号「エディターの注目本ガイド」より転載)