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海外のストリートチルドレンを取材した『レンタルチャイルド』や戦災孤児の姿を追った『浮浪児1945―』など、骨太なノンフィクションで知られる石井光太さん。「〈極限状態にある子ども〉も石井さんのテーマのひとつでは」という編集者の言葉をきっかけに書かれたのが『「鬼畜」の家―わが子を殺す親たち』だ。
折しも2014年の「厚木市幼児餓死白骨化事件」を発端に、居所不明児童が注目されていた時期。「調べてみたら、2013年度に虐待で死亡した児童は69人。しかし、実数をその3倍から5倍の約350人とする推計もある。1日1人が殺されているのであれば、そこにきちんと目を向けていかなくてはという思いがありました。それと『浮浪児1945―』の取材時に児童養護施設で70年間働いた人に聞いた、〈戦災孤児は空襲で親を失うまでは普通に家庭があったので、人間としての芯がしっかりしていたけれど、虐待児は生まれたときから存在を否定されているので人間の芯がない〉という話がずっと心にひっかかっていました。それは虐待してしまう側にも通ずる部分があるのではないか、人間の芯がないとはどういうことなのかという2つをあわせて調べてみたいと思いました」
3歳の子をアパートに2年以上放置して餓死させ、死後7年経って白骨化した遺体が発見された「厚木市幼児餓死白骨化事件」。奔放な男性遍歴の果てに妊娠を繰り返し、出産した嬰児の遺体を2度にわたり天井裏や押入れに隠した「下田市嬰児連続殺害事件」。夫婦が3歳児をウサギ用ケージに閉じ込めた末に死亡させた「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」。この3つの事件について、石井さんは虐待する親たちを3代にわたってさかのぼり、その壮絶な生育歴についても調査していく。
いずれの親も異口同音に口にしたのが「“私なりに”愛していたけど、殺してしまいました」という言葉。「全員が子どもを愛していたのは事実で、彼らは(子どもへの)対処法を知らないから間違っただけ。全員人間的欠陥はあっても医学的に結論が出るような障害があるわけではないから、福祉の網にひっかからない。だから孤立して、最悪の事態が起きてしまう。きちんと働いていたりコミュニケーション能力があっても、家庭の部分には大きな問題がある。そういう人がいることを認識して支援の方法を増やしていけば、こういった事件を一件でも少なくすることができるのではないでしょうか」
虐待した親たちを「鬼畜」と切り捨てるだけでは何も解決しない。事件から何を読み取り、どう意味付けしていくのか。「報道とは役割が違うところが本の存在意義だと思っているので、本にしかできないことをやっていきたい」。安易に結論を出せる問題ではないからこそ、社会全体で知り、考えることが必要なのではないか。本書が伝えるのは、関係ないでは済まされない、すぐそばにある現実なのだから。
石井光太 Kota Ishii
1977年、東京生まれ。国内外を舞台にしたノンフィクションを中心に、児童書、小説など幅広く執筆活動を行っている。主な著書に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『レンタルチャイルド』『地を這う祈り』『遺体』『浮浪児1945─』、児童書に『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。』『幸せとまずしさの教室』『きみが世界を変えるなら(シリーズ)』、小説に『蛍の森』、その他、責任編集『ノンフィクション新世紀』などがある。
(「新刊展望」2016年10月号「著者とその本」より転載)