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  • 戦国の覇者徳川家康を、伊東潤が活写する! 当代無双の本格歴史長編『峠越え』

    2016年09月07日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    260年続いた徳川幕府。でも家康が知ったら激怒する!?

    縄田:これから何年か後、たとえば伊東さんが老境に達したとき、もう一度徳川家康と取り組んでみようというつもりはありますか。

    伊東:今のところは考えていませんが、よいアイデアが浮かんだら、再び家康の生涯のある部分を切り取りたいという思いはあります。

    家康は非常に保守的な人間のように言われていますが、それほどでもなかったと私は思っています。開明的な部分も、かなり持っていたのではないでしょうか。戦国大名ですから、南蛮の兵器の威力は当然わかっていたでしょうし、積極的に海外のものを取り入れなければ勝ち残れないと考えていたと思います。よくないのは、家康より後の人たちですね。司馬遼太郎さんも書かれていますが、徳川幕府を守るためだけの政治を行い、その悪癖がずっと長く続いてしまった。これはまったく家康の意にそぐわないことで、家康は巨視的観点から日本国全体の発展を考えていたと思います。家康の後継者たちというか為政者たちが、鎖国政策によって徳川家を延命させるだけの体制を築いたことが間違いで、それにより海外の情報や文物が入らなくなり、日本は、その遅れを取り戻すために無理な戦争まで行ったわけです。家康が生きていたら、そんな幕府や、その後の日本を見て、激怒したと思いますよ。

    縄田:明治になり、欧米列強の植民地政策を日本も同じようにやって構わないと思ってしまったんですね。山田風太郎さんがこんなことを言っていました。「明治人の気概」とよく言うけれども、明治で気概を表した人はたいてい幕末に生まれている。明治に生まれた人間がやったのが太平洋戦争だと。

    伊東:その通りです。当時の帝国主義的価値観からすれば致し方なかったことかもしれませんが、大義のない戦をしてしまった事実は確かです。しかし、日本人だからこそ正義を貫いてほしかった。幕末の志士たちは、正義のために死んでいったわけですから。

    縄田:最近は戦国時代の研究がどんどん進んでいるので、この時代はわかりやすくなっている。むしろ近現代史のほうが、いまだに大国の利益と結びついているのでわかりにくいと感じることがあります。

    伊東:仰せの通りですね。近現代史の難しさは、小説にするには、まだ生々しさがある点ですね。近現代史を書くとしたら、大きな歴史の流れではなく、庶民の視点から書いていかざるを得ない。とは言っても私は、日清・日露戦争、太平洋戦争、戦後の昭和にも挑戦するつもりです。本格歴史小説を書いていくからには、おこがましいですが、司馬遼太郎さんの衣鉢を継ぎ、歴史の語り部として作品を残していかねばならないと思っています。

    縄田:伊東さんには歴史物語の王道をどんどん進んで行ってもらいたいと思います。

    (2014.1.23)


    伊東潤 Jun Ito
    1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒。外資系企業に長らく勤務の後、執筆業に転じる。『黒南風の海――加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』で「本屋が選ぶ時代小説大賞2011」、『義烈千秋 天狗党西へ』で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、『国を蹴った男』で第34回吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で第4回山田風太郎賞および第1回高校生直木賞、『峠越え』で第20回中山義秀文学賞を受賞。近著に『横浜1963』『敗者烈伝』『吹けよ風呼べよ嵐』『天下人の茶』『鯨分限』『江戸を造った男』など。

    縄田一男 Kazuo Nawata
    文芸評論家。1958年東京都生まれ。専修大学大学院文学研究科博士課程修了。著書に『捕物帳の系譜』『時代小説の読みどころ』『「宮本武蔵」とは何か』ほか。文庫で多くのアンソロジー(編著)を出版している。


    (「新刊展望」2014年3月号より)

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    信長でも秀吉でもなく、家康こそが天下人たりえた理由とは?伊東潤による本格歴史小説『峠越え』

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