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  • 戦国の覇者徳川家康を、伊東潤が活写する! 当代無双の本格歴史長編『峠越え』

    2016年09月07日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    本能寺の衝撃の真相!

    縄田:クライマックスとなる伊賀越えは、かなり詳細に書かれていて、どこまでが事実でどこからが創作で補われた部分なのかわからない。渾然一体となった見事なおもしろさがあります。

    伊東:ありがとうございます。構成面で言えば、信長と家康の関係を少しずつはっきりさせていくのが前半部分。信長のいじめに耐える家康像を描いています。特に本能寺の変の前、家康は信長の命令で安土から京都、大坂、堺へと連れ回されるんですね。ここに一つの大きな謎があります。そして、それが後半の本能寺の変の真相にかかわってくるわけです。実は、本能寺を扱うのは難しいんです。今はもう「真犯人は誰か」という内容だけでは、読者は満足しませんから。そこで今回は、ある仕掛けを盛り込みました。そしてクライマックスは、いかに伊賀を脱出するかというアクションにしました。

    縄田:本能寺の変に関しては、これまでも無数に書かれているのに、まだまだ新しい書き方が出てきている。八切止夫さんの『信長殺し、光秀ではない』から始まって、よくもまあ次から次へと新発想が出てくるなという感じです。しかし、リアリズムと空想の境目は難しいでしょう。

    伊東:難しいですね。それでもいつか、自分の本能寺をやり遂げねばならないと思ってきました。歴史小説家にとって、避けて通れないテーマの一つですからね。リアリズムにこだわりながらも、奇想天外な仕掛けを用意する。歴史に詳しい人が読んでも「なるほど」とうなずけて、歴史に詳しくない人も純粋に物語として楽しめる。その二つを同一の作品で実現させる。これが今回、自分に課したハードルでした。歴史に詳しい人にも、詳しくない人にも、楽しめる作品になったと思います。

     

    家康が最後に勝ったのはなぜか

    縄田:今は「マイナー武将の発見」みたいな作品が多くて、大物を書くのがどんどん難しくなっていますね。帯に「○○を恐れさせた男」といった言葉がたいてい書かれている(笑)。

    伊東:自分では、マイナーな人物だけを取り上げてきたとは思っていません。今回の徳川家康という選択も自然な流れで、「こんな普通の人が天下を取ったのはなぜか」と思ったのがきっかけです。連載を始めた当初は、本能寺をこのように書くことも考えていませんでした。『戦国鬼譚 惨』の穴山梅雪のエピソード(「表裏者」)を、家康視点で描きつつ、さらにその裏にはこんな仕掛けがあったというのが、今回の趣向です。

    著者:伊東潤
    発売日:2012年10月
    発行所:講談社
    価格:726円(税込)
    ISBNコード:9784062773942

    縄田:家康は凡庸だと言われ続け、まわりの家臣にせっつかれて、残していくものと切り捨てていくものがうまい具合に出来ていくんですね。

    伊東:家康は、決して正義の人ではない。それは家臣団の圧力が強く、その利益代表としての立場があったからでしょうね。そういう人間の弱さも、描きたかったことの一つです。

    縄田:臆病な人間ほど用心深くもあり。しかし不思議ですね。信長、秀吉家康は皆ほぼ同じ風土の中から出てきている。そしてその個性は皆違う。

    伊東:まさにそれが歴史のおもしろさですね。最底辺から這い上がった秀吉がいるので目立ちませんが、家康も、随分と苦しい立場からのし上がっていきました。信長も同様ですね。

    3人に共通するのは、己の立場をよく知っていたことです。信長と秀吉は、相次ぐ成功により、最後には己を見失い、墓穴を掘ることになりますが、家康は最後まで己を知っていました。

    私事で恐縮ですが、私はサラリーマン時代、マネジメントに向いているとよく言われました。自分でも、そう思っていました。ところが30代半ばになって、むしろ自己完結で何かをやることのほうが向いていると気づいたんです。自分一人ですべてに責任を持って何かをやるときは、すごく燃える(笑)。そこで、組織の中で生きることをやめて、コンサルティング会社を起業しました。しかしコンサルタントは、あくまでも軍師であって、決定権を持たない。ときには、雇い主が意見だけ聞いて実行に移さないこともあります。しかし小説を書くということは、自分に決定権があるわけで、まさに自己完結の世界です。今は天職が見つかり、本当によかったです。私同様、家康も、様々なことが積み重なって己を知ったのでしょう。己を知っているからこそ、その前提で的確な判断が下せたのだと思います。それは、主に慎重な判断だったわけですが。

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