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  • なぜ我が家にトイレの花子さんが? イケメンと同居を始めたら、まさかの怪異つき物件!『ノイジールームメイト』

    2023年02月18日
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    中野亜希:講談社コミックプラス
    Pocket

    ノイジールームメイト~家ナシになったのでイケメンと怪異つき物件で同居始めました~ 1
    著者:緒崎カホ
    発売日:2023年01月
    発行所:講談社
    価格:748円(税込)
    ISBNコード:9784065302224

     

    「知らない」状態には戻れない

    自転車に乗る、泳ぐ……。一度覚えたら、もう覚える前の状態には戻らないコトがある。幽霊、妖怪、お化けといった「怪異に遭(あ)う」のも、それに似た感覚らしい。そして、怪異は「いるところには、いる」。それも、私たちが思うよりもすぐそばに――。

    『ノイジールームメイト ~家ナシになったのでイケメンと怪異つき物件で同居始めました~』は、ひょんなことから家ナシになった主人公・“黒江旺介”が、怪異を祓(はら)う力を持つ“結城虹生”と一緒に事故物件に住み、怪異を退治(?)していくバディストーリー。

    家ナシになったことをきっかけに開花した旺介の意外な才能が、強い霊能力を持つ虹生をアシストすることになる。

    ちょっとのんきでふわっとしている旺介と、金髪で一見怖そうなイケメン・虹生の凸凹バディが、心の距離を縮めていく様子はグッとくるし、

    怪異を祓う話ではあるけれど、ゾッとするような怖さはない。どのページをめくっても最高に美しい絵柄で、怪異と美形を堪能させてくれる。単なる心霊マンガではなく、旺介の「ある才能」と虹生との化学反応が、新しい扉をバンバン開けていく物語のように感じた。

     

    一人暮らしデビューのはずだったのに

    高校を卒業したばかりの旺介の念願の一人暮らしは、初日にして、上階からの漏水(ろうすい)によって強制終了してしまう。

    姉たちに「何もしなくていいんだからね」と言われて育った旺介にとっては、大家さんを相手に「お金を返して」「代わりの部屋を探して」と交渉するなんて高すぎるハードルだ。新しい部屋を借りるお金もないし、一人暮らしどころかホームレスデビュー待ったなしなのでは……?

    そこに現れたのが、ちょっと胡散臭(うさんくさ)いこの男性。花だけじゃなく、猫まで背負ってる。彼は不動産屋の店長をしており、旺介がある条件を呑めば、広くてキレイなマンションにたったの3万円で住ませてくれると言う。

    その条件とは、このイケメン・結城虹生と同居すること! 確かにいい部屋に見えるけど、知らない人と住むのは嫌だ。野宿よりはマシとは言え、破格の家賃にはそれなりの理由があった。そしてやっぱり、この部屋は少しおかしい。異常なほどに寒いのだ。

    それもそのはず、この部屋は怪異が居つく事故物件。明らかに人じゃない何かの手が、静かに旺介に忍び寄る――。

     

    愛される才能(ただし怪異に)の開花

    「広くてキレイな部屋に3万で住める」……そんなうまい話にはやっぱり裏がある。この不動産屋は「怪異向け」の物件仲介をしており、店長の見立てによると旺介はかなりの愛され体質(ただし怪異に)らしいのだ。

    旺介は事故物件に足を踏み入れたことで、まんまと怪異を認識できるようになってしまった。そして、怪異に一度遭ってしまうと、もう遭わなかった頃には戻れないという。祓う力は強いけど、それゆえ怪異に避けられてしまう虹生と、怪異に愛され、彼らを惹(ひ)きつける旺介は、仕事の相棒にうってつけ! 店長が旺介に手を差し伸べたのは、いわば「スカウト」だった……。ということらしい。

    こうして、(怪異に)愛される才能を開花させた旺介は、お金と住む家、身の安全のために、虹生とともに事故物件での二人暮らしをスタートさせるのだった。

     

    思い込みと心の壁が壊れたら

    怪異は、いるところにはいる。このマンガに出てくる怪異は、昔ながらの怪談や、都市伝説に出てくるポピュラーなものばかり。なぜ彼らが物件を不法占拠してしまうのか、という点にも「なるほどなあ」という説明がなされていてクスっと笑える。そう、このマンガの面白さは怪異のホラー的な怖さではないのだ。
    この日の仕事相手は「トイレの花子さん」。

    相手は怪異だけど、話す内容はまさに「立ち退き交渉」だ。人間(というか旺介)への毒舌・塩対応とは打って変わって、花子さんの目線に合わせて座り、納得できる立ち退きを目指して穏やかに話をする虹生がカッコいい。強面な外見とのギャップもたまらない。
    いっぽう、可愛がられて育ってきたんだろうなあ……という素直さを持つ旺介だが、塩対応の虹生にはすぐに心を開かない。みんなに愛されているゆえに、犬嫌いな人には敏感な犬のようだ。怖い思いをしても、虹生を頼ろうとはしない旺介に店長はこんなアドバイスをする。

    でも……。怪異に襲われていると言っても、自分に冷たい虹生はきっと信じてくれないし、助けてくれないだろう。

    そんな旺介の思い込みと心の壁が、虹生の「なんかいんだろ」で壊されて、ちゃんと助けを求めるこのシーン、私は大好きです。

    虹生に心を開いた旺介が前向きに頑張る姿も可愛いし、あまり噛み合っていないのになぜかテンポの良い二人のやりとりもいい。そして二人の距離が縮まるにつれ、彼らを取り巻くあれこれにも変化が現れはじめる。

    料理ができず、食事は虹生にお金を払って作ってもらっている旺介が、虹生のために初めて作ったおにぎり、そして強すぎる虹生の前に、旺介がいなくても姿を見せる怪異……! 二人の出会いによる化学変化が、また新しい扉を開けたように思うのだ。

    (レビュアー:中野亜希)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2023年2月4日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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