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  • 下町の人情味あふれる雰囲気から一転、殺人事件が……『民俗学者 赤坂弥一郎の事件簿』

    2023年02月11日
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    黒田順子:講談社コミックプラス
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    民俗学者赤坂弥一郎の事件簿 1
    著者:リチャード・ウー 芳崎せいむ
    発売日:2022年12月
    発行所:講談社
    価格:748円(税込)
    ISBNコード:9784065299333

    下町の人情味あふれるほのぼのとした雰囲気から一転、殺人事件が起こるまでに、色々な要素が詰まっているお話です。
    だからこそ、一体どこに転がっていくのだろう、という予測不能な面白さを感じました。

    商社の人事部から、民俗学が専門の大学講師に転職した赤坂弥一郎は、亡き叔父が住んでいた家に引っ越して来ました。
    東京三大下町のひとつである台北区阿木(あぎ)に越したのは、“こけし”好きという同じ趣味の喫茶店が近くにあったから。

    マスターの紹介で町の顔役たちに会った赤坂は、最近移り住んできたクリエイターたちとの橋渡し役になって欲しいと頼まれます。

    こうして、ちょっとクセのあるクリエイターたちと仲良くなり、彼らの背中を押したり、顔役のジジイたちに可愛がられたりで、赤坂は誰からも好かれる爽やかな好青年という印象。
    しかし、そんな赤坂が、どうやら事件に巻き込まれていくようなのです。

    ある日、教え子の鹿子沢亜里沙から、自宅の庭にある“藁人形”を見て欲しいと頼まれます。
    実は亜里沙の母親は飛行機事故で亡くなった作家の鹿子沢洋子で、祖父はこの間まで都知事だった鹿子沢雄之助。
    どこかで聞いたようなエピソードに、クスッとしてしまいます!!

    そして、昔は武家屋敷街だった坂の上にある鹿子沢雄之助の屋敷の庭を訪れてみると……、

    ここで民俗学者・赤坂弥一郎の自説が披露されます。
    これは藁人形ではなく、“人形型道祖神”だと。

    実際にネットで調べてみたら、“人形型道祖神”は、秋田県鶴形に伝わる地域の守り神だとか。
    “こけし”の話も含め知らないことだらけで、さすがタイトルに「民俗学者」とつくだけあると思ってしまいました。

    ところが、ここから話は急展開。
    鹿子沢雄之助と衆議院議員・平松幸太郎が、阿木神社氏子(うじこ)総代から選出される“責任役員”の地位を巡り、争っているというのです。

    この平松という議員の評判の悪いことと言ったら!!
    うーん、このエピソードも聞き覚えがある(笑)。

    平松は、クリエイターたちの溜まり場であるバーの影のオーナーでもあり、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な振る舞いをする嫌なヤツ。
    しかも、どこから仕入れているのか、とんでもない情報ツウなのです。

    実はこの作品には、たくさんの人が出てきます。
    この平松のセリフから、今まで出てきた人物は赤坂弥一郎も含め、善人の顔をしながら、本当は悪党なのではないかと急に思い始めます。

    何が本当で何が嘘なのか。ネット社会の今は、誰かがつぶやいた一言で良い話にもなれば、一気に叩かれる対象になる怖さもあります。

    そして、ついに殺人事件が!!
    そうなると、今まで出てきた人物たちの誰が犯人なのか。藁人形の話や、阿木神社の“責任役員”の話、顔役とクリエイターたちによる町興しの話も伏線なのだろうか。犯人は誰だ!?と、頭の中がグルグルしてきます。

    中盤あたりまで、下町の風景にどこか懐かしさを感じほのぼのとしますが、騙されちゃいけません(笑)。ここからが、いよいよサスペンスの始まりです!!

    (レビュアー:黒田順子)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2023年1月29日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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