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  • 映画「メタモルフォーゼの縁側」、小さくとも新しい世界に踏み出していく瞬間に潜む感動を描きたかった|日本テレビ・河野英裕プロデューサーインタビュー

    2023年01月11日
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    ファンギルド 野辺名
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    17歳のBL(ボーイズラブ)好き高校生・うららと一人暮らしの老夫人・雪が、お互いがハマったBL漫画を通じて交流する姿を描く『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理/KADOKAWA)。2019年の宝島社「このマンガがすごい!」オンナ編第1位を獲得した本作は、芦田愛菜さんと宮本信子さんの主演で映画化されてさらに話題を呼び、2022年12月にブルーレイディスクが発売されました。

    各方面で感動を呼んだ本作を映画化したのは、「野ブタ。をプロデュース」など数多くのヒットドラマを手掛けてきた日本テレビの河野英裕プロデューサー。あらためて原作の魅力と、映画化にあたっての考え方などについて、お話を伺いました。

     

    プロフィール
    河野英裕(かわの・ひでひろ) 日本テレビコンテンツ制作局 ドラマ班
    1991年日本テレビ入社、熊本県出身、明治大学文学部演劇学科卒。主なプロデュース作品に、ドラマ「すいか」(2003)、「野ブタ。をプロデュース」(2005)、「マイボスマイヒーロー」(2006)、「銭ゲバ」(2009)、「Q10」(2010)、「妖怪人間ベム」(2012)、「泣くな、はらちゃん」(2013)、「ど根性ガエル」(2015)、「奇跡の人」(2016)。映画「ブラック校則」(2019)、「青くて痛くて脆い」(2020)、「メタモルフォーゼの縁側」(2022)など。

     

    半歩でも世界が広がる瞬間に心にしみる作品

    ――漫画『メタモルフォーゼの縁側』に出合ったきっかけは何だったのですか?

    自分は漫画も小説も大好きなので、趣味と実益を兼ねて日常的にぶらっと書店に行きます。『メタモルフォーゼの縁側』に出合ったのも、駅の近くの書店です。その漫画コーナーですごくいいなと思って手に取りました。ちょうど作中でも宮本信子さんが演じた老婦人の雪さんが書店でBL漫画を手に取って、読んでいくうちにBLにハマっていくんですが、それと一緒です。

    すぐに購入して家で読んだときには、本当に涙がにじんできました。いわゆる泣かせにかかっている漫画ではないのですが、泣けてきたんです。こういう作品を映像化できたら幸せだな、と。すぐに企画書を1枚書いて、KADOKAWAさんに送りました。

    ――『メタモルフォーゼの縁側』のどこに感動されたのでしょう?

    主人公の2人、17歳の女子高生のうららと、夫に先立たれた老婦人の雪は、どこか自分の世界から出られずに二の足を踏んでいるところがあるのですが、この2人が出会ったことで、「半歩」だったとしても、これまでと違う世界が開けてくる。それが素晴らしいんですよ。

    例えば、小学生が普段お母さんに怒られるからと水溜りをよけて歩いているのに、実際に水溜りに突っ込んでみたらワクワクして面白かった。それはたとえお母さんに怒られたとしても面白いんですよ。ちょっとしたことであっても、何か自分の世界が広がる瞬間。可能性が広がる瞬間。それがBLという漫画の世界であったとしても、年の差がある2人の小さな友情であっても、世界が広がっていく瞬間があるわけです。

    僕はそれまでBLを読んだこともないし、年の差の友情なんて考えたこともなかったのですが、そんなささやかな瞬間を目のあたりにしたとき、心にしみたんですよね。

    どんな人であっても、新しい発見や、新しい出会いというのは、生きていく上での一つの「原点」なんだろうと。人間、「いい歳なのでちょっと照れくさくてできない」とか逡巡して踏み出せないことはたくさんあります。だからこそ、小さなことでも踏み出したときに、たとえ失敗しても楽しかったりするんです。

    ――河野さんがかつて手掛けられた「野ブタ。をプロデュース」(亀梨和也、山下智久主演)も原作(白岩玄/河出書房新社)がありましたが、原作をドラマ化することが多いのでしょうか?

    ドラマ作りはもう30年弱やっているのですが、原作がある作品とオリジナル作品とで半々ぐらいですかね。ただ原作がある方が、制作の過程でどうしようか迷ったときに、「原作」という「戻ってこられる場所」があるのが良いところです。

    ドラマ作りを進めていく中で、そういえばこのドラマで何をやりたかったんだろう?そもそも自分はこの作品のどこに感動したんだろう?などと、方向性を見失うときがあるのですが、原作を読み返せばその原点に戻ってこられますからね。その点、オリジナルの場合は、戻る場所が最初に書いた企画書しかない。数ページしかないわけですよ(笑)。

    ――『メタモルフォーゼの縁側』を映像化するにあたって配慮されたところはありますか?

    『メタモルフォーゼの縁側』に関しては、2時間の映画にしなければならないわけですから、最初はその中で起伏があったほうがいいと考えました。原作は淡々と話が流れていきますので、最初は、社長秘書のサマーに恋をした青年の500日を描いた映画「(500)日のサマー」(米:2009年公開)のように、エンターテインメントの要素やギミックを入れた方が、良くなるのではないかと思ったりしました。

    ただ、原作者の鶴谷さんも含めていろいろな方からご意見をいただいたり、自分が原点に戻って本作を読み返したときに、むしろ映画では、この作品の中にあるエッセンスを絞りに絞って抽出されたシーンを本当にその通りに並べたほうがいい、と思いなおしました。もちろん、抽出されたシーンの繋ぎだけは何か混ぜなければいけないですが、まずはいいシーンを抽出する作業をやっていきました。

    ――中でも一推しのシーンはどこでしょう?

    実際に抽出していくと、好きなシーンがあまりに多すぎるんですよ(笑)。でも自分として絶対に落としたくなかったのは、うららが雪さんの家に行って2人でお茶を飲んでいるときに、雪さんがうららに何気なく「人って思ってもみないふうになるものだからね」と言うシーン(3巻)。これを起点として物語が大きく変わっていくんですね。

    ですから、映画の場合もこのあたりをちょうど時間軸の真ん中あたりに置いたんです。そしてそのシーンまでの物語の組み方と、シーン以降の物語の組み方をどうするか考えていった。一番本質的なシーンを映画の中心に置いてみたわけです。

    ――芦田愛菜さんと宮本信子さんのキャスティングも話題を呼びました。

    ▲高校2年生のうららを演じる芦田愛菜さん(左)と老婦人・雪さん役の宮本信子さん

    もともと個人的に老婦人の雪さん役には絶対に宮本信子さんしか考えられないと思っていました。さらにこだわったのは、うららを演じる女優さん。うらら役には、17歳の高校2年生というリアリティがあってほしかった。ドラマでは20歳を超えた女優さんが高校生役を演じることはよくありますが、この作品に関しては演技力があり、かつうららと同じ年代の女優さんに演じていただきたかった。

    そうなると、芦田愛菜さんしかいないなと。地味なうららのキャラと芦田さんのキャラが合わないのではないか、と指摘される方もいましたけれど、自分としてはいけるような気がしていて。芦田さんには、ある種の没入性というか、オタクごころがあるんですよね。BLが好きなうらら役はぴったりではないかと思いました。

     

    BLを愛する人たちの熱量に支えられた撮影

    ――この作品では、BLや同人誌が重要な要素になっていますね。

    実際に同人誌を作っていらっしゃる方々からは絶対に否定されたくなかったから、同人誌やBLが好きな人から取材して勉強しました。すると、「ちるちる」という有名なBL関連のサイトがあると教えていただいたんです。

    実際にちるちるのスタッフの方にお会いしたら、「BL読者のプロフェッショナル」みたいな方がたくさんいらっしゃった。BLに対する熱量がすごかったですね。話し出すと止まらなくて、知識量も半端ないです。今回実写化するうえで、こういう方々に愛される映画になればいいんだな、とわかったのが一番大きなポイントだったかもしれないですね。

    ――同人誌即売会、いわゆるコミックマーケットやコミティアのシーンもありますね。

    このイベントの実写化もどうするか、最後まで悩みました。予算規模の話もありますし、「コロナ」の中で撮影できるのか?という不安もありました。でもイベントのシーンは必須だと考えましたので、コミティアさんの事務局にまずお邪魔して、実際にコミティアという存在を描きたいとお願いしました。

    コミティアさんもこの原作を愛してらっしゃったので、「できる限りのことはします」と。あらためて、そういう皆様に支えられた映画だったと思いますね。

    ――実際に、BL漫画なども読まれたのでしょうか?お好きな作品はありますか?

    勉強しなくてはと、初めてBLを読みました。まずは王道の『同級生』(中村明日美子/茜新社)に、同じく青春BLの『あちらこちらぼくら』(たなと/ホーム社)。あとは絵がたいへん綺麗で、男と天使の同棲を描いた『ワンルームエンジェル』(はらだ/祥伝社)に、同じくソフトなBL風味の『てだれもんら』(中野シズカ/KADOKAWA)などですね。

    特に『てだれもんら』は鶴谷香央理先生から紹介された作品で、庭の妖怪を退治する庭師と、料理人の話を描いたファンタジーです。『メタモルフォーゼの縁側』の作中でうららが読んでいる作品のうちの一つなんですよね。あと濡れ場が中心のBLも勉強のために読みましたけれど、めちゃくちゃ面白かったですよ。エロいしかわいい(笑)。

    さらに、BLではないのですが、一番最近面白かったのは『ルックバック』(藤本タツキ/集英社)。世の中の表かも高いですが、実際あまりにも面白すぎますね。

    こういう大好きな作品が自分の本棚にたくさんあって、これがドラマ化できたらいいのにと思って企画書を書くんですけれど、残念ながら実現しないことが多くて。家にはそういう作品がいっぱい積もっています(笑)。

     

    刺激重視の配信時代だからこそ、日常の小さな心の機微を描きたい

    ――原作を映像化するにあたって、何かこだわりのようなものはありますか?

    原作を映像化させてもらう際には、基本的には自由にやらせてもらえるとやっぱり嬉しいですね。どうしてもドラマの場合は10話分なら10時間分の映像を作らなければならないですから、工夫が必要になります。ドラマの場合は1回1回の中でカタルシスを作らないといけないですからね。

    『野ブタ。をプロデュース』をドラマ化したときは、原作の「野ブタ」は「小谷信太」という男の子だったのですが、ドラマでは堀北真希さん演じる「小谷信子」に変えました。

    やっぱり映像化をやらせていただくのであれば、映像は原作とは別のものですし、視聴者の反応が「原作の方が面白かった」みたいなことになってくると原作にも申し訳ない気持ちがしますしね。やるからには映画やドラマになって面白かったと皆さんに言ってもらいたいです。欲を言えば、原作に勝ちたいです(笑)。

    ただ、作品のストーリーラインとか大事な哲学とか、根本の部分だけは絶対に守ることが大事ですね。そこだけは純粋に守っていこうと考えています。「メタモルフォーゼの縁側」に関しては、本当にいろいろ試行錯誤して、でも結局一番いい方法はよいシーンを純粋にありのまま絞りだしていって、絞った後に繋いでいく形が一番いいのだろう、という方法にたどり着いたわけです。

    ――根本の部分は守りつつ、アプローチの方法は作品によって違ってくると。

    映画の場合は、視聴者を最初から最後まで映画館という暗闇に閉じ込めていますので、終わりよければすべてよし、が成立する可能性があるかもしれない(笑)。まあ、ワンシーンでも「いいな」と思えるシーンがあれば、十分かもしれません。

    ただ、ドラマの場合は、つまらなければすぐにチャンネルを切り替えられてしまいます。それを恐れるあまり、頭のつかみから早く事件を起こせとか、最初のCMに入る前にもっと事件を起こしとけとか――そういう方程式ばっかりになると、逆に視聴者も冷めてくる。難しいですよね。そんなことしなくてもちゃんと1時間見続けられるようにしたいとは思っています。

    ――今後も含めて、どのような作品をドラマ化していきたいと思われていますか?

    日常の小さな心の機微を描いた作品が好きなんです。逆に自分では苦手なジャンルが、1話完結の警察ものや事件もの。謎解き重視の知的ストーリーが作れないんですよ(笑)。事件中心にストーリーを動かしていって、少しそこに人間ドラマを入れていくようなやり方が苦手です。その逆で、普通の日常の中にちょっとしたミステリーや謎があるみたいなストーリーなら自分の志向に合うんですが。

    でも、犯人は誰だ?というドラマのほうが安定して数字が取れるわけで、ドラマの企画としても安心感があるからそちらのほうに流れていくのは多いかもしれない。だからなかなか細やかな心情の機微があるドラマを見つけることが難しいし、そういう企画が通りにくい原作が我が家の中に積まれていく感じです(笑)。

    今はネットでの配信も増えています。そうなるとなるべくエッジが効いた作品を作って回していく流れにはある。不倫ものや少し性的な要素など刺激を求めているんです。自分としては性的なドラマも興味はありますよ。やれと言われたらやってみたいです。かつては日活ロマンポルノがあって、刺激を求めつつ、監督さんたちが自分なりの表現と、人間ドラマの要素を入れて名作を輩出していたわけですから。




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