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  • ネタバレ厳禁!「紙」の本でしかできない仕掛けを凝らした本格ミステリ|藤崎翔『逆転美人』

    2022年12月10日
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    細谷正充:「小説推理」BOOK REVIEW
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    本の帯の惹句、裏表紙の紹介文、この書評。すべて目にせず、本書を読んだ方がいい。

    そうすれば藤崎翔のとんでもない企みを、十全に楽しめるだろう。


    まったく本の内容に関する知識を持たずに、読んだ方がいい作品がある。藤崎翔の新刊は、そのような1冊だ。できれば本の帯の惹句も、裏表紙にある紹介文も、知らない方がいい。もちろんこの書評も、読まないままにするのがベストだ。ということで書評を終わりにしたいのだが、そういうわけにもいかない。ある程度、内容に踏み込みながら、作品の凄さを伝えよう。だから以下の文章を読む人は、自己責任でお願いしたい。

    ある事件で世間を騒がせた佐藤香織(仮名)の手記『逆転美人』が、四葉社から刊行された。“私は、世間一般の「美人は得だ」というイメージとは正反対の、まさに「逆転美人」とでもいうべき、不幸ばかりの人生を送ってしまっている”という香織。手記に書かれている彼女の半生は、まさに美人ゆえの苦労と悲劇の連続であった。

    小学校低学年のときに、3度も誘拐されそうになったことがある香織は、図抜けた美人として有名であった。しかし、その美しさゆえにいじめの対象になったり、ビッチと誤解されたり、さんざんな少女時代を過ごしてきた。さらに貧しい家庭の事情も、彼女を追い詰めていく。やがて結婚し、娘もできて、普通の生活を送れるようになった香織だが、彼女を狙うストーカーによって悲劇が訪れる。こうした半生が延々と続く手記は、終始、どんよりした空気が漂っている。それにもかかわらずページを捲る手が止まらない。美人の波乱に富んだ人生が興味深いからである。

    さて、ここからの紹介が難しい。手記の後に「追記」があり、意外な真実が明らかになる。本書は叙述ミステリーといっていいが、叙述の仕掛けを施すことに、物語内での必然性がある。評価したいポイントだ。テレビ番組名など、固有名詞が大量に出てくるのも藤崎作品らしいが、そこにも叙述ミステリーとしての重要な意味があったとは。藤崎翔、やってくれるものである。

    だが、これだけで本の帯にある「ミステリー史上初の伝説級トリックを見破れますか?」は大袈裟すぎないかと思っていたら、ラストでぶっ飛んだ企みが明らかになる。仕掛けの趣向自体は、似たような先行作品が存在するが、こちらも物語内での必然性があり、独自の威力を発揮しているのだ。破天荒なことを考え、実行したものである。

    それにしても作者は、どれだけの時間をかけて、本書を書き上げたのだろう。その苦労に思いを馳せると、ただただ脱帽するしかない。

    逆転美人
    著者:藤崎翔
    発売日:2022年10月
    発行所:双葉社
    価格:836円(税込)
    ISBNコード:9784575526127

    「小説推理」(双葉社)2022年12月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載




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