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  • 読むには覚悟を!糞尿が散る尾籠なノスタルジックファンタジー|赤松利市『純子』

    2022年12月09日
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    細谷正充:「小説推理」BOOK REVIEW
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    貧しい村の下肥汲みの家に生まれた少女の、汚穢に満ちた物語。赤松利市、とんでもない話を書いてくれたものだ。

    本書を読むには、覚悟が必要である。


    まず最初に、注意を喚起しておく。赤松利市の最新刊は、スカトロジー(糞尿譚)の要素が強い。その手のものが苦手な人は、避けた方がいいだろう。だが大丈夫なら、強く薦めたい。非常に優れた作品であるからだ。

    物語の主な舞台は、高度経済成長から取り残された、四国の山深い里だ。主人公の純子の家は、その貧しい里の最貧困家である。純子が2歳のときに、心を病んだ母親が自殺。祖父母と叔父と純子の家族は、村の下肥汲みで生活をしている。純子の父親はインテリらしいが、一月に一度訪れて、金を置いていくだけだ。やがて訪れなくなり、金だけが送られてくるようになる。

    小学生になった純子だが、祖母の歪んだ英才教育を受け、やがて自分が売られると思っている。また糞を食べることも平気だ。なぜか地蔵と話し、夜にやって来る僧形の老人を不思議とも思わず、美少女として成長していく純子。ところが、高度経済成長の波は里にも押し寄せ、さらに水が涸れるという危機に見舞われるのであった。

    本書の描写は、とにかくドギツイ。なかでもスカトロ関係が図抜けている。『らんちう』でも、殺される男の脱糞シーンが描かれていたが、さらにパワーアップ。純子の排泄や食糞の克明な描写など、読んでいて辟易してしまった。エロ業界で、ひとつのジャンルを成すほどスカトロ物は人気があるが、そうしたものとは一線を画した、異様な迫真性に満ちているのだ。

    しかし作者は、奇を衒っているわけではない。人間は食べて排泄するだけの糞袋だといわれることがある。作者の根底にある思想は、これであろう。そしてそれを踏まえて、人間の在り方を主張する。純子と彼女を好きになった3人の少年の黄金の日々。水が涸れる里を救おうとする純子の献身。歪んだ環境で成長した彼女は、歪んだまま聖性を獲得するのだ。これほど特異なヒロインと、汚穢と聖性を併存させたストーリーを生み出すのは、作者でなければ不可能である。

    また本書は、土俗と近代の相克を抉った作品でもある。バキュームカーの導入により、生活の糧を取り上げられる純子の一家。あるいは里から町に出て、金を稼ぐようになった純子の叔父。このような部分を通じて、土俗の象徴である里が、近代化の波に飲み込まれる様子を、作者は冷徹に見つめているのだ。覚悟を決めて読む価値のある作品といっていい。

    純子
    著者:赤松利市
    発売日:2022年11月
    発行所:双葉社
    価格:748円(税込)
    ISBNコード:9784575526165

    本書評は、2022年11月10日(木)に文庫版が発売されたことにあたり「小説推理」(双葉社)2019年9月号より転載したものです。




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