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  • 第59回文藝賞贈呈式開催!安堂ホセ「ジャクソンひとり」、日比野コレコ「ビューティフルからビューティフルへ」がダブル受賞

    2022年11月15日
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    ほんのひきだし編集部
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    第59回文藝賞の贈呈式が、2022年11月14日(月)に開催されました。本年度は、歴代2位となる応募総数2,376作の中から、安堂ホセさん「ジャクソンひとり」日比野コレコさん「ビューティフルからビューティフルへ」の2作が受賞しています。

    ジャクソンひとり
    著者:安堂ホセ
    発売日:2022年11月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784309030845

    着ていたTシャツに隠されたコードから過激な動画が流出し、職場で嫌疑をかけられたジャクソンは3人の男に出会う。痛快な知恵で生き抜く若者たちの鮮烈なる逆襲劇!

    〈河出書房新社 公式サイト『ジャクソンひとり』より〉

    ビューティフルからビューティフルへ
    著者:日比野コレコ
    発売日:2022年11月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784309030838

    絶望をドレスコードに生きる高3の静とナナは、「ことばぁ」という老婆の家に毎週通っていて――。たたみかけるパンチラインで語られる高校生たちのモノローグ。

    〈河出書房新社 公式サイト『ビューティフルからビューティフルへ』より〉

    式では、まず、河出書房新社の小野寺優 代表取締役社長より賞状および正賞・副賞の贈呈があり、続いて角田光代さん、島本理生さん、穂村弘さん、町田康さんの4人の選考委員からお祝いの言葉と選評がありました。

     

    選考委員各氏の選評(一部抜粋)

    角田光代さん:「安堂ホセさんの『ジャクソンひとり』は、ブラックミックスの4人の青年が1人の人間になりすますというちょっと不気味なところがあるストーリーだが、この小説の奥には清らかなものがあると感じた。その清らかなものによって、アダルティでありマイノリティであることを超えて、なぜ差別が起きて、なぜそれが良くないのかという問題を、ものすごく大きな視点でシンプルに捉えているように感じた。

    『ビューティフルからビューティフルへ』は非常に独特な言葉のリズムで、従来の小説を壊そうという意思に満ちた小説だと感じた。日比野さんは今までたくさんの文芸作品を読んできたと思うが、それらを咀嚼して、今後も日比野さんにしか作れない世界を作っていってほしい」

    島本理生さん:「『ジャクソンひとり』は暴力と知性、抒情性といった一見相反しそうなものが作品の中で同居していて、登場人物それぞれの生き方が非常に胸を打つ、とてもいい作品だと感じた。

    『ビューティフルからビューティフルへ』は文体が特徴的で、過剰なほうに転びそうでありつつ、そこがすべて登場人物たちに思い入れたくなるような好感に変わるところが才能を感じさせる。文体がポップであればあるほど、思春期の痛々しいまでの切実さが強く文章から伝わってきた」

    穂村弘さん:「『ジャクソンひとり』は皆さんがおっしゃったように書かれなければならなかったという強い思いと同時に、読者にとってエンターテインメント性も感じられる作品で、ミステリーみたいだなと思うところと、頭の中に映像が浮かんで映画みたいだと思うところがあった。昨年、候補作となった安堂さんの作品も詩的なタイトルや文体と、頭に映像が浮かぶという特徴があり、テーマ的にも今年の受賞作に近いものだったので、連作短編集や長編もぜひ読んでみたい。

    『ビューティフルからビューティフルへ』もイレギュラーな日本語で、50年ぐらい前に流れた「モーレツからビューティフルへ」というキャッチコピーを思い出した。作者の日比野さんはまだ10代で、50年前のコピーを知っているのかどうかはわからないが、作中に伊藤一彦さんの短歌の本歌取りなどもあって、そういう知識があっても不思議ではない。

    言葉がそういうふうに多層的にサンプリングされていて、年齢や考え、体験によって、同じ小説を読んだ読者の中に広がる世界がまったく違うということが、本来はどの小説や言語表現にもいえることだけれど、タイトルでそのことを強く感じさせる作品で、その点にも強く魅力を感じた」

    町田康さん:「俳人の種田山頭火が書いたものを読むと、人間の完成が句の完成と言っている。俳句ばかりうまくなろうと思っていても、結局、根底となる人間ができていないうちはあかんでという話で、その通りだと私も思う。

    また読みたいと気になったり、長い間ずっと読んでいる作品は、書いた作者がどんなふうに世間や世界を見ているかが自然と出てしまうもの。山頭火にしても、結局死ぬ前まで無茶苦茶しているのだから、煩悩は消すことができない。人間を完成させようと思っているその途中で生まれてくる句や小説がおもしろいのではないか。日比野さんと安堂さんもこれからずっと書いていかれるかと思うが、そんなことを思い出しながら書いていかれたらいいのではないかと思う」

     

    受賞者の言葉(一部抜粋)

    安堂ホセさん:「『ジャクソンひとり』のテーマとしているのは人種差別とリベンジポルノ。身体を勝手に解釈され、精神を束縛されるという意味で、この2つは似ているなと感じることがある。ふたつの苦痛を比較するのではなく、お互いがお互いの苦痛を説明し合うように描くことができたらなと思いながら書き進めていたように記憶している。

    小説を書いている間にも世界ではさまざまなことが起き、私自身の気分や考えにもグラデーションがある。たとえば当事者ではない誰かが、この小説を読んでいただいていることに心の底から感謝することもあれば、反対にその方たちに何がわかるだろうという怒りや諦めに支配されてしまうこともある。

    小説はそういった思念のバリエーションを、矛盾を含めて描くことができると感じている。自分自身の成分が100%でありつつ、自分個人よりもさらに広がりを持つ表現をこれからも目指していきたい」

    日比野コレコさん:「『ビューティフルからビューティフルへ』を書いたときは、17歳だった。いま18歳になって、ここに立てていることがうれしい。踏み石を踏んでいくみたいな感じで、私の人生がどんどん好転していく予感がしている。

    私にとって小説は、感情とか考え方とかをとりあえずそこに投げ込めば済むような感じの、自分という人間の器官という言葉が合っている。だから生きている限り、私が小説を書くのをやめることは絶対にない。

    私は許可がないと涙を流せない、人に感情を渡すのがすごく苦手な人間。それは生活する上ではマイナスかもしれないけれど、小説家としてはプラスになるかなと思っていて、これを強みにして頑張っていきたい。

    私はまわりまわるもの、流れ流れるものすべてが好きで、だから何かを見下すことはしないでおきたい。私が小説の器なのではなくて、小説が私の器。どんな批判もどんな称賛も私自身ではなく小説で受け止めたいと思う」

    その後、コロナ禍で贈呈式という形式での紹介がかなわなかった、第57回、第58回文藝賞受賞者の紹介がありました。各受賞作は次の通り。

    ◆第57回文藝賞 受賞作

    水と礫
    著者:藤原無雨
    発売日:2020年11月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784309029306

    ◆第58回文藝賞 受賞作

    眼球達磨式
    著者:澤大知
    発売日:2022年03月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784309030135

    最後に、河出書房新社の小野寺社長があいさつに立ち、「印象的だったのは、安堂ホセさんが『文藝』に寄せた受賞の言葉の中で書いていた『私自身がどんなに自分のためのフィクションを書いても、それは同時に、まったく別の誰かのための言葉を書くことになると信じている』という一文。作家が切実さに突き動かされるように生み出した言葉が、どこかで読者の心に刺さることがある。そしてそんな言葉が刺さる人、その言葉を待っている人は、私たちが思うより実は遥かに多いのではないかという気がしてならない。

    今、出版界はいかにして本を効率的に届けるかというところに主眼が置かれている。これまで許容してきてしまった過剰な返品を減らし、欲しい人にはきちんと本が届くインフラを整備することは大変に重要なこと。一方で、今日生まれた新しい本、ましてや今日ここから飛び立っていく新しい作家の新しい言葉をどれだけの人が待っているかはわからない。ならば私たちは効率化を求める一方で、一人でも多くの方がその言葉に出会う場を作り、『これは私の話だ』と思える幸せな瞬間をたくさん作り出さなくてはいけない。

    日比野さんは同じ受賞の言葉の中で、『〇〇ちゃん見っけ!みたいに、時代にワンタッチでもすることができたらいいな』と書いている。私たちはこれから一人でも多くの方が日比野さん見っけ、安堂さん見っけという、そんな場を作り出していきたいし、出席者の皆様にはそのためのお力添えをいただきたい」と述べました。

    受賞作や受賞の言葉、選評などは「文藝 2022年冬季号」に掲載されています。

    文藝 2022年 11月号
    著者:
    発売日:2022年10月07日
    発行所:河出書房新社
    価格:1,540円(税込)
    JANコード:4910078211122

     

    あわせて読みたい

    第57回文藝賞受賞作・藤原無雨著『水と礫』のブックガイドはこちら




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