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井原忠政の人気シリーズ第9弾。ついに第一次上田合戦に突入。
徳川家の足軽大将・植田茂兵衛は、生き残ることができるか。
衝撃のラストに瞠目せよ。
井原忠政の「三河雑兵心得」シリーズの第9弾が刊行された。百姓から身を起こした植田茂兵衛も、今では5か国の太守となった徳川家康に仕える足軽大将だ。羽柴秀吉と引き分けた小牧長久手の戦いは終わったが、息継ぐ暇もなく、新たな任務を与えられる。
4倍の敵相手に敗けなかったことで、家康の家臣たちの鼻息は荒い。しかし家康自身は、秀吉との和睦を決め、人質として次男の於義丸を大坂城に送ることにする。その護送役に茂兵衛が選ばれたのだ。鉄砲隊を率いた茂兵衛は、一路、大坂へと向かう。
というストーリーの流れから、道中で何らかの騒動が起きると思った。しかし派手なエピソードはない。茂兵衛が道すがら、己の過去を回想したり、配下の面倒を見たりするだけなのだ。ところがこれが面白い。なかでも鉄砲名人だが、妙に運の悪い小栗金吾の扱いは、注目すべきものがある。於義丸に鉄砲の腕を見せることで、引き立てるチャンスを与えようとするのだ。結果、金吾は、於義丸の近習となった。シリーズが長くなると、主役だけではなく脇役にも思い入れが強くなる。だから、金吾の新たな人生を応援したいのである。まあ、その後の史実を知っていると、なかなか不安ではあるが。
大坂で秀吉と会うという、予想外のイベントがあったものの、何とか任務を果たした茂兵衛。続いて物語は、上田合戦に向かっていく。周知の事実だが上田合戦とは、信州にある上田城を拠点とする真田家と徳川家の、2度の戦の名称である。今回は、天正十三年の第一次上田合戦だ(慶長五年が第二次)。そして両方の戦いで、徳川家は手痛い敗北を喫している。徳川家の負け戦を、作者はいかに描いたのであろうか。
北条家との紐帯を強めるため、今は真田家のものになっている沼田城を明け渡すよう、昌幸に命じる家康。しかし、徳川に付いたはずの昌幸が、平然と裏切る。これに怒った家康が兵を挙げたというのが、合戦に至るまでの流れだ。
この史実をきっちり押さえながら、作者は戦いの全貌を活写。真田の策に翻弄された徳川軍は、敗走を余儀なくされる。ここで茂兵衛の鉄砲隊が殿を任され、激しい死闘を繰り広げるのだ。友情・覚悟・討ち死になど、さまざまなものが交錯する戦場で、絶体絶命のピンチに陥る茂兵衛。その果てに迎えるラストは衝撃的だ。このシリーズ、いったいどうなってしまうのだろう。
「小説推理」(双葉社)2022年9月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載
『三河雑兵心得(1) 足軽仁義』の試し読みはこちら