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  • 「人はわかり合えない」を出発点に真正面から恋愛を描く『汝、星のごとく』凪良ゆうインタビュー

    2022年08月04日
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    ほんのひきだし編集部 猪越
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    2020年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、2021年には『滅びの前のシャングリラ』が2年連続で本屋大賞にノミネートされるなど、読者はもとより本読みのプロである書店員からも高い支持を得ている凪良ゆうさん。そんな注目作家の約2年ぶりとなる長編小説『汝、星のごとく』が8月4日(木)に発売されました。

    瀬戸内の島で出会った1組の男女の恋愛を軸に、周辺の人々の人間模様までもがモザイク画のように精密に埋め込まれた本作。切なくも美しい物語はいかにして紡がれたのか、凪良さんにお話を伺いました。

    凪良ゆう
    なぎら・ゆう。京都市在住。2006年にBL作品にてデビューし、代表作に21年に連続TVドラマ化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年、非BL作品である『神さまのビオトープ』を刊行し高い支持を得る。19年に『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同作は22年5月に実写映画が公開された。20年刊行の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。

    汝、星のごとく
    著者:凪良ゆう
    発売日:2022年08月
    発行所:講談社
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784065281499

    ――わたしは愛する男のために人生を誤りたい。

    風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
    ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
    生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

    ――まともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

    〈講談社BOOK倶楽部『汝、星のごとく』より〉

     

    男女の恋愛をストレートに書いてみたかった

    ――本作は、小さな島で生まれ育った暁海と、男に依存し続ける母親とともに島に移住してきた櫂の2人が、高校で出会うところから幕を開けます。15年という長い年月にわたる、思うままに生きられない2人の紆余曲折が描かれていきますが、どのような思いから生まれた物語なのでしょうか。

    もともと私はBLのジャンルで10年以上書いてきた作家なのですが、本作では男女の恋愛をストレートに書いてみたいと思いました。今の時代、男女の恋愛を正面から書くというと、それだけではトレンド感がないと言われそうな雰囲気は感じていました。ただ、恋愛は人生とは切り離せない、人間関係の一番濃い部分ですよね。

    たとえば、相手のことを真剣に好きになったその先に結婚があるとすると、それは人生そのものに関わる大きな選択です。これから相手とどういう人生を歩んでいきたいかということは、暮らしや仕事など生き方全般に関わるものですし、相手のいることなので、自分の考えだけでは決められないことが多い。

    そう考えると、男女の恋愛がメインにはなっていますが、そういった一つひとつの選択も含め、いろいろな要素が盛り込めるのではないかと考えました。

    ――本作について凪良さんは、以前から「オーソドックスな恋愛の話を書く予定」といったコメントもされていましたが、プロローグからすでに、いわゆる「普通」とは異なる暁海の現在が提示されます。実際には、「恋愛とは」「結婚とは」「夫婦とは」と、さまざまな固定観念を揺さぶられる内容になっていますね。

    私も書いていて、何をもってオーソドックスというのか、だんだんわからなくなってしまいました(笑)。ただ、本作のあらすじだけを書くと、わりとよくある話になりそうな気がしていて。長いスパンの物語でもあるからこそ、読者さんは楽しんでくれるのだろうかという不安がまずありました。

    そんなときに、坂元裕二さんが脚本を書かれた映画「花束みたいな恋をした」を見たんです。あの作品も、言ってみれば何の変哲もない男女の恋愛を描いたストーリーですが、一つひとつのシーンをていねいに積み上げた、すごくいい映画だなと思いました。突飛なことをしなくても、あんなにおもしろい作品になるのだなと。

    そういった意味で、『汝、星のごとく』もストレートに取り組んだ小説です。派手なところもなく、登場人物一人ひとりの描写をていねいに積み重ねていくことでしか、浮き彫りにできないものがあったと思います。その分、暁海と櫂、2人の物語のはずがだいぶ分厚くなってしまいました(笑)。

    ――2人の親をはじめ、暁海と櫂がそれぞれ関わりを持つ人々など、登場人物たちの“相関図”はかなり入り組んだものになっています。構成はどのように組み立てられたのですか?

    いろいろな関係性が出てくる分、一歩間違えたらテーマがぼやけてしまいそうだったので、かなり緻密に組み立てました。枝葉はしっかり茂らせようと思っていたのですが、暁海と櫂の気持ちをメインに追っていって、その幹の部分が太くないと迷走しかねません。最初に編集者に提出したプロットは相当細かく書いたので、5万字ぐらいになりました。

    そんなに書くつもりではなかったのですが、当初からあった「本当にこの物語はおもしろいのか」という不安と、最後まで迷わずにきちんと書き切れるかという自信のなさが相まって、そんな量になってしまいました。

     

    自分の人生を生きるための“武器”を持つ

    ――暁海と櫂は家庭的なしがらみを抱え、高校生にして「重荷を持たされてしまった」2人ですね。

    私自身が裕福で幸せな家庭で育った人間ではないので、そこはずっとこの先も書いていく部分なのかなと思います。

    私は今年でデビューして15年になります。今まで親子関係を扱っている作品も多く書いてきたのですが、私が家庭を書くと必ずどこかがいびつになってしまう。

    また「親ガチャ」という言葉が流行ったように、どのような家に生まれるかがその子の一生を左右する面があることは否めないと思います。いまの社会は公的支援はほとんどなくて、その子がよほど運がいいか、何かの才能に恵まれていないと這い上がることができない。そういった問題は、やはり小説が書いていかなくてはいけない部分だと思っていますし、少なくとも私はきちんと書いていきたいです。

    ――本作でも社会保障について言及されるシーンがありますが、全編を通して「自分で自分を養える」ようになることもひとつのテーマかと思います。

    今は女性が働いて男性が主夫という家庭もありますので、一概に女性はという言い方はできないですけれど、自分の足で立つ、自分で自分を養うことは、人が生きていく上での最低限の武器だと思います。私自身がその武器を持っている方がいいと思っているので、その気持ちは今まで書いてきた中でも一番強く出ているかもしれません。

    ――暁海が自由に生きられない足かせとなっているひとつには、生まれ育った島の集落という閉鎖的な環境もありますね。今回は愛媛の島が舞台となっていますが、なぜこの場所を選ばれたのですか。

    田舎と都会で離れて暮らす男女、そしてそこから生まれるギャップを描きたいと思っていました。東京ではそこまで露わにならなくても、地方だとまだかなりの男女差別が残っているという話もよく聞きます。

    舞台は海と山だったら海がいいなと思っていて。担当編集者が愛媛の今治出身で、「あの辺であればご案内できますよ」と言ってもらえたので昨年取材に行きましたが、本当にいい所でした。

    観光や取材で訪れて見る景色と、その土地に実際に住んで体感するものはおのずと違うと思うのですが、美しい面ばかりを書けなかったのが現地の方には申し訳なくて。一方で、島に限らず地方に暮らす女性に共感してもらいたかったので、普遍的な表現を心がけています。

     

    「人と人はわかり合えない」が出発点

    ――2021年に連続TVドラマ化された凪良さんのBL作品「美しい彼」でも、本作のように「思いあっているのにすれ違ってしまう2人」の姿が描かれています。『汝、星のごとく』も暁海と櫂の視点で交互に綴られていきますが、背負っているものの違いから、大人になるにしたがってズレが大きくなってしまう2人の姿がとてもリアルでした。

    美しい彼
    著者:凪良ゆう
    発売日:2014年12月
    発行所:徳間書店
    価格:693円(税込)
    ISBNコード:9784199007804

    どんなにお互いのことが好きでも、人はちょっとしたことですれ違ってしまう。そこは、本作でも感じとってほしい部分でした。

    私は「人と人はわかり合えない」が基本的なスタンスの人間です。だからと言ってわかり合おうとしないわけではなくて、わかり合えないというところからスタートした方が相手に多大な期待をしないで済む。期待しすぎてしまうと見えなくなることもあるでしょうし、期待していないからこそ、ちょっとわかり合えた、優しくされたと思うと、それだけで「やったね」と思えます。

    だいぶネガティブな考え方だなと思うのですが、私の小説はどの作品もそこが出発点になっている気がします。

    ――さきほど、本作の人物相関図は「かなり入り組んでいる」とお話ししましたが、「自分の足で立つ」ことの大切さとともに、人は一人では生きられないという人間のどうしようもない思いも胸に迫ります。

    特にその点を強く描写しようとは思っていなかったのですが、淋しいという気持ちは誰にでもあるでしょうし、自立していることと、一人で生きていくことは別の問題だと思います。

    ――それはまさに本作のキーパーソンである、2人の高校の教師である北原先生が象徴的ですね。彼は暁海と櫂の人生に、長く関わることになる人物です。

    「一人でも大丈夫」であることは素晴らしいけれど、「淋しい」という気持ちも絶対にどこかにあると思いますし、一緒に生きていける人がいれば人生はより豊かになるのではないでしょうか。北原先生は、それを率直に言葉にした人物ですね。これから先の人生を考えると、「まさしくそうだよね」と。

    ――とはいえそこはゴールではなく、自分の人生を生きるための取捨選択は続いていく。

    小説がラストを迎えたあとも彼らの人生は続いていくでしょうし、生きている限り、絶対的な安定はありえません。誰かにだけ都合のいい世界はないし、みんながそれぞれの人生を生きています。ラストはそこまで積み上げてきたエピソードによって、彼ららしいところに着地できたのではないかと思っています。

    ――すでに書店員さんたちからは、感想を「言葉にできない」という絶賛の声が届いているようですね。

    本当にありがたいです。お忙しい書店員さんが、山ほどプルーフが来る中から選び取って1冊読む時間をくださる。いつもいつも、感謝しかありません。

    読者さんももちろん同じで、一年間で文芸書だけでも何千冊出るのだろうという中から私の本を手に取ってもらえるのも奇跡ですし、なおかつおもしろいと思ってもらえたらありがたいです。『汝、星のごとく』も自分に重ね合わせて楽しんでいただけるところがあれば、本当にうれしいです。

    ――先ほどから「おもしろい」「楽しい」とおっしゃっていますが、どちらかというと身につまされる部分が多いように思います。身もだえするような切なさややるせなさも本作の魅力ですね。

    確かに。では、みなさんもぜひ本書を読んで、身もだえしてください(笑)。

    ――暁海と櫂が会話と時間を重ねてお互いを知り、思いを深めていく姿と、『汝、星のごとく』の作品世界に没入して、登場人物たちの痛みと覚悟を受け取っていく過程はとても近しいように感じました。そんな読書体験を、ぜひ多くの方に味わっていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

     

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