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  • 30年前のバブル期に消えたクラシック・カーと恋人……。時を経てその行方を追う|大沢在昌『晩秋行』

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    2022年07月13日
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    細谷正充:「小説推理」BOOK REVIEW
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    尊敬する上司と愛する女は、高価なクラシック・カーと共に消えた。

    30年前の苦き思い出の真相を、居酒屋の主人が追う。大沢在昌、円熟のミステリー。


    大沢在昌は、1979年、「感傷の街角」で第1回小説推理新人賞を受賞してデビューした。この作品の主役の探偵は、20代の若者である。その作者が数10年の歳月を経て、本書を上梓した。主役は62歳の居酒屋の主人だ。この年齢の差を見ただけで、感慨深いものがある。思えばデビュー当初から、大沢作品を読み続けてきた。作者も、読者である私も、ずいぶん遠くまできたものだ。

    中目黒で居酒屋「いろいろ」の主人をしている円堂は、作家の中村から、クラシック・カーの目撃情報があったとの連絡をもらう。現在、20億以上の値が付く、フェラーリ250GTカリフォルニア・スパイダーだ。それが、円堂の過去を呼び起こす。

    バブルの時代、円堂と中村は、「地上げの神様」といわれていた「二見興産」の会長・二見の下で働いていた。しかしバブルがはじけると二見は、六本木のホステスで円堂の恋人だった君香と、スパイダーと共に姿を消したのである。それから30年。まだ君香の行動に納得のいかない円堂は、中村と共にスパイダーの行方を追う。そして、スパイダーを巡る騒動に巻き込まれるのだった。

    大沢在昌は変わらない。まずはそんなことを思った。なぜならデビュー作同様、本作も失踪人を捜す物語であるからだ。クラシック・カー捜しから始まるが、円堂の真の目的は、二見と君香を捜すこと。なぜ、尊敬する上司と愛する女は、自分を裏切るようにして消えたのか。30年経っても消えない蟠わだかまりが、円堂を駆り立てる。たしかに彼は居酒屋の主人だが、自己規範を持って行動するハードボイルドの主人公として、物語の中に屹立しているのである。

    その一方で、変わった部分もある。すでに老人といっていい円堂は、何事にもしなやかに対応していく。相手によっては荒々しい態度もとるが、基本的には常識を守り、静かに己の意思を貫くのだ。主人公の、いぶし銀の魅力に、作者の円熟が感じられた。

    さらに、脇役の存在感も見逃せない。「いろいろ」で働くケンジとユウミ。円堂たちを昔から知る委津子。君香とよく似た奈央子という女。そして二見と君香。特に君香は円堂のファム・ファタール(運命の女)であり、もうひとりの主人公といっていいだろう。

    その他にも、中村の死の意外な真相や、バブル期から現在に至る歳月の重さなど、読みどころは満載。繰り返しになるが、まさに円熟の作品なのである。

    晩秋行
    著者:大沢在昌
    発売日:2022年06月
    発行所:双葉社
    価格:1,980円(税込)
    ISBNコード:9784575245318

    「小説推理」(双葉社)2022年8月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載

    『晩秋行』の試し読みはこちら




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