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  • 「基本自炊」が「料理好き」に変換されるのどういうことかな。しんどい恋愛はしたくない鍵垢女子の物語『わたしたちは無痛恋愛がしたい』

    2022年07月09日
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    中野亜希:講談社コミックプラス
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    わたしたちは無痛恋愛がしたい 1
    著者:瀧波ユカリ
    発売日:2022年05月
    発行所:講談社
    価格:715円(税込)
    ISBNコード:9784065279052

    ぬるい地獄に生きている

    女子には、普通に生きているだけで遭遇する地獄がわりとある。例えばこんな合コン。

    下手な返しで「面倒な女」と思われるのもまた面倒で、トイレの個室に腰を据える。
    店員さんがここにビールと枝豆を届けてくれたら……。現実が無理なので便座に身を委(ゆだ)ねてアマプラ見てたい……。
    息をするようにこれらを連ツイ(連続ツイート)するのは、『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~』の主人公・星置みなみだ。

    思ったことはツイッターに吐き出したいけど、知らない人にジャッジされるのは嫌! そんなわけで、みなみのアカウントはフォロー許可制。いわゆる「鍵垢女子」だ。

    合コンを抜け出したみなみに合流してくれるのは、相互フォローのリア友・由仁ちゃん。つまらない合コンより、友達と天ぷら屋で飲むほうが100倍楽しいですからね。そして、彼氏作りに本気が出ないのは、みなみがここ1年ほどかまけている“恵比島千歳”の存在も大きい。

    うーんそんなにかっこいいかな……?
    髪型頼みの雰囲気イケメンな気もするけど、恋は盲目だからな……。みなみが千歳の長所を挙げても、いちいち冷静な由仁ちゃんのツッコミのほうに共感してしまう。
    さて、一見優しくイケメン風だが、彼女以外にも女がいて、決してみなみを本命にしない、そんな男を何と呼ぶか。


    「星屑男子」である。
    千歳の感じの良さは上っ面だけだ。由仁ちゃんが「わざぶつ」(繁華街などで弱そうな女性だけを狙い、わざと強くぶつかる危害を加えてくる男性のこと)の被害にあったことを話せば、こう。

    このシチュエーションで「でも」って何。この感じ悪さ、恋さえしていなければ、わかることなんだ。恋さえしていなければ……。
    みなみの急な呼び出しに付き合ってあげたのに、勝手に男を呼ばれ、その男には話題泥棒をされ、クズの前でデレデレとバカになるみなみを見せつけられる。こんな目に合う由仁ちゃんもまた、踏んだり蹴ったりだ。
    明るいテンションだから辛(つら)く感じずに読めるが、ここまでの、1話の半分にも満たないページ数にギュッと詰まった普通の女子たちが生きる地獄の描写がリアルで「マジであるよね!!」と叫びたくなる。

     

    このおじさん、巨大魚抱いてる?

    由仁ちゃんに失礼なことをしてしまったみなみだけれど根っから悪い子ではない。

    一晩明ければ、由仁ちゃんへの非礼を思い出して反省だってする。どうやって謝ろうかと考えながら歩いていると、みなみもまた「わざぶつ」の被害にあってしまう。そんなみなみに手を差し伸べてくれたのは

    ちょっとポーズが変な年上の男性!
    「わざぶつ」に悪意をぶつけられ、周囲の人はみんな見て見ぬふり。そんな中、自分からはみなみに触れない姿勢を示しつつ、助けてくれる男性の態度が心を少し軽くする。のちに由仁ちゃんと考察したところ、彼はジェンダー間の不均衡を理解しており、ショックで立てないみなみへの最大限の気遣いがあのポーズだったのでは? との結論に達する。2人は、未知の動物のような彼をとりあえずこう呼ぶ。

    いや、言い方! とはいえ2人が「フェミおじさん」を笑うような態度ではないことに安心したし、2人の間で「巨大魚ポーズ」がすっかりミーム化しているくだりには笑ってしまった。

    そう、こうしてなにかと集合するみなみと由仁ちゃんの関係性もとても良いのだ。
    仲の良い2人だが、優しくて冷静で賢い由仁ちゃんを、みなみはわりと雑に扱う。しかし由仁ちゃんは、みなみの手の怪我(けが)だけで「わざぶつ」被害を察し、優しく慰めてあげたりする(自分は話題泥棒されたのに!)。
    読者の頭には、こんな疑問が浮かぶだろう。

    これに対する由仁ちゃんなりの答えがあるのだが、めちゃくちゃ心が広くて愛が深いな……と震える。アンバランスだけどなんだかリアルな友情だ。いい友達がいると、地獄を歩くのも少し楽になる。

     

    「無痛恋愛」がしたい。でも……。

    しんどい恋愛はしたくない。「女」というより人として尊重してくれて、自分らしくいることを肯定してくれて、つらいときは寄り添ってくれる。それでいて、その態度に無理がなくて穏やかな好意を向けてくれる……。そんな人間と恋愛ができたら幸せだろう。

    でも、こんな話をしながら星屑男子のお誘いにしっぽを振るみなみは、目先のときめきを優先してしまうタイプだ。本作に限らず、「ドキドキしない」のは、恋を始めるにはネックなのだ。それだけに、「フェミおじさん」は、今までのマンガににないキャラだと思う。なんといっても、偶然再会したみなみに、おじさんは「あなたに声をかけず、逃げた男を捕まえるべきだったのに申し訳ない」と、後悔を伝えるのだ。いい人すぎる!

    今は恋ではないけど、おじさんのことが気になってしまうみなみ。
    読者としても、そんなみなみとフェミおじさんの関係がどうなるのか、すごく気になって仕方ないのだ。

    (レビュアー:中野亜希)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2022年6月30日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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