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  • 冲方丁が描く清少納言の生涯 『天地明察』『光圀伝』に次ぐ歴史小説第3弾『はなとゆめ』

    2016年07月23日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    主従を超えた、美しい「絆」の物語

    ―物語の中心にあるのは、中宮定子と清少納言の美しい主従関係ですね。

    冲方:図らずも、『天地明察』はライバル関係、『光圀伝』は兄弟関係、『はなとゆめ』は女性の主従関係の物語となりました。僕はこういうのが好きなんですね(笑)。一対一の関係からいろいろな関係性が見えてくるのがおもしろいです。

    ―この主従関係は、戦国・江戸時代の武士に通じるところもありますか。

    冲方:江戸時代の人たちは、清少納言の忠義のあっぱれさに感銘を受けたようです。だから江戸時代に入っても枕草子は読み継がれ、絶えることはなかったと。

    清少納言は一面忠義の人であり、それも主君のために敵対者と憎み合うのではなく、敵をなるべく消していく。悪意に対して悪意を返さず、笑いに変えていく。それは父親譲りでもあったようです。本人はそのことを若干コンプレックスに思っていたみたいですが、最終的には長所として輝きました。

    苦中において常に主君に寄り添い、主君を喜ばせてあげる。それはもう主従関係以前に、人間と人間の関係として美しい。だからこそ、多くの人が時代を超えて感銘を受けたんだろうと思います。

     

    つらく苦しいときに咲いた花

    ―清少納言が「紙と畳があれば幸せ」と語るエピソードが登場します。冲方さんご自身の紙への思い入れはいかがですか。

    冲方:その感覚は僕も非常によくわかります。そこに共感できなければ、清少納言を書くことはできなかったと思います。

    なんだかんだ言っても紙はいまだに万能の媒体。字も書ける、絵も描ける、紙自体を細工してもいい。そして活字がすべての文化の根本にあると同じように、すべてのメディアの原点にいまだ存在するのが紙なんだろうと思います。清少納言の時代の紙は、現代の紙の役割に加えて、テレビやカメラやパソコンの代わりでもありました。和歌は遠隔地の情報を伝えるメディア機能もあったわけですから。今あるメディアがすべて紙一枚に託されていた、そういう時代だったんですね。逆に、人間は紙を発明したことによってたくさんの媒体を生み出していった、その意味で紙はメディアの原点と言えると思います。

    ―今作を通してもっとも伝えたかったものは何ですか。

    冲方:清少納言の想いです。華やかな自分は求めるべきだし、夢は抱くべき。たとえそれが失われたとしても、求めなかったほうが良かったということは決してない。そして、これは僕の想いですが、「つらいときに咲いた花は、千年残る」。これは僕も物書きとして見習いたいと思います。あれだけの迫害を主人が受けている最中にこれだけのものが書けるのか……。物書きとして震えるものがあります。

    ―幼少時代を海外で過ごされた冲方さんの日本に対する思いや視点が、作品にも入っているでしょうか。

    冲方:僕が知る日本は基本的に伝聞なんです。しかも海外の人がびっくりするような日本という面が強い。GNPや科学技術、「なんと全家庭に電子レンジがある!」とか(笑)。でも、バブルが崩壊した日本に出会って、僕も疑問を抱き始めました。そもそも日本の文化とは何だろう。断絶したのか、それとも連綿と続いているのか……。

    きっかけは『天地明察』で、日本人の根っこ、信仰、そこから星と月の巡り合わせと辿ることで、日本人がだんだん見えてきたんでしょうね。無意識のうちに受け継いでいるものと、意識しなければ受け継げないものがあり、その両方にきちんと目を向けていくことで、昔のものを現代に持ってきたい、現代に通じるものを翻訳して残しておきたいと考えるようになりました。そのことで自分たちの文化は分厚くなるし、それは僕自身をも分厚くしてくれると。やってきてよかったと思うし、今後もやっていきたいです。

    (2013.10.8)


    冲方丁

    冲方丁 Tow Ubukata
    1977年岐阜県生まれ。1996年、『黒い季節』で第1回スニーカー大賞金賞を受賞してデビュー。2003年、『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞受賞。2009年刊行の『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、2011大学読書人大賞、第7回北東文芸賞、第4回舟橋聖一文学賞を受賞。2012年、『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。近著に『マルドゥック・アノニマス(1)』『偶然を生きる』ほか。『冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置場』(集英社)8月26日発売。

    天地明察 上
    著者:冲方丁
    発売日:2012年05月
    発行所:角川書店
    価格:704円(税込)
    ISBNコード:9784041003183
    光圀伝 上
    著者:冲方丁
    発売日:2015年06月
    発行所:KADOKAWA
    価格:836円(税込)
    ISBNコード:9784041020487
    マルドゥック・アノニマス 1
    著者:冲方丁
    発売日:2016年03月
    発行所:早川書房
    価格:814円(税込)
    ISBNコード:9784150312237

    (「新刊展望」2013年12月号より)

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