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  • 元自衛官の凄腕スパイ<ドリフター>が躍動するド派手なアクションノベル|梶永正史『ドリフター』

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    2022年05月18日
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    日下三蔵:「小説推理」BOOK REVIEW
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    爆弾テロで恋人を喪いホームレスとなっていた元自衛隊の特殊工作員が、事件の背後に隠されていた巨大な陰謀に立ち向かう鮮烈なスパイ・アクション!


    2013年に『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』で第12回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した梶永正史は、主に警察小説のシリーズものを中心に着実な執筆活動を続け、8年間で13冊の著書を発表している。

    14冊目となる書き下ろし長篇の本書は、虚々実々のスパイ小説にして、緊張感漂うアクション小説でもある。著者にとって新境地の一冊といえるだろう。

    荒川の河川敷で面白半分に凶器を振りかざしてホームレスを襲撃していた6人の男たちは、助けに入ったもう1人のホームレスに一瞬で叩きのめされた。自ら警察に通報した男は、事情聴取に応じて豊川亮平と名乗った。

    豊川は2年前、インドネシアのバリ島で無差別テロに巻き込まれ、恋人を喪っていた。記憶を失くしてさまよっていたらしく、彼がようやく保護されたのは事件から1年後のことであった。

    向島署に現れた捜査一課の宮間刑事は、捜査協力を頼みたいといって豊川の身柄を請け出すが、その捜査とはホームレス襲撃事件ではなく、バリ島のテロ事件に関わる話だった……。

    実は豊川は記憶喪失になどなっておらず、1年かけてテロ組織アザゼールの指導者を次々と襲撃し、組織を壊滅に追い込んでいたのだ。そのため、彼には「ドリフター(漂流者)」というコードネームが付けられていた。

    コンピューターの合成音声で「ティーチャー」と名乗った宮間刑事の協力者は、アザゼールの背後には別の組織があり、日本で大きなテロを企んでいるという。復讐を果たしたと思った事件は終わっていなかった! 徒手空拳で巨大組織に立ち向かう豊川の戦いが始まった──。

    冷戦時代のスパイ小説は、「国」対「国」の駆け引きを背景にしたものが多かったが、現代においては「テロ組織」対「反テロ組織」という構図になるようだ。本書での豊川は、組織に属さずにテロ組織と対峙する訳で、一種のスーパーヒーローものとしての面白さがある。

    多彩な人物が登場するが、誰が味方で誰が敵なのか、終盤になるまで悟らせない辺りも巧い。随所に挟まれた活劇シーンも迫力があり、読み始めたらやめられない緊張感に満ちている。

    一応、今回の事件は解決するが、敵の組織はまだ健在であり、シリーズ化にも期待がかかる。著者の新ジャンルへの果敢な挑戦を大いに歓迎したい。

    ドリフター
    著者:梶永正史
    発売日:2022年04月
    発行所:双葉社
    価格:748円(税込)
    ISBNコード:9784575525632

    「小説推理」(双葉社)2022年6月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載

    『ドリフター』の著者・梶永正史さんのインタビュー記事はこちら




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