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  • 「小説紹介クリエイター・けんご」から「小説家・けんご」へ!読者の声を掬った、唯一無二の恋物語『ワカレ花』

    2022年04月30日
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    ブックジャーナリスト 内田 剛
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    「TikTok」フォロワー28万人、総再生数1.1億回を超え、若い読者層に驚異的な人気を誇る「小説紹介クリエイター」けんごさん。TikTokで紹介した書籍が続々と重版される、まさに出版業界の「時の人」が、4月28日(木)発売の『ワカレ花』で小説家としてデビューを果たしました。花をモチーフにした本作は、世代を超えて味わえる感動作です。

    これまで本を薦める側だったけんごさんがなぜ小説を書いたのか。執筆の背景や作品の魅力、今後の活動についてお話を伺いました。

    けんご
    小説紹介クリエイター。2020年末から「TikTok」や「Instagram」などのSNSで、自身がおすすめする小説を紹介する動画を公開し、10~20代の若い世代から支持を集めている。
    2021年7月にTikTokで公開した筒井康隆『残像に口紅を』(中公文庫)の紹介動画は685万再生(2022年4月時点)を記録し、2021年末までに6回の重版、11万部の増刷がされる大ヒットとなった。
    2021年12月には「第1回けんご大賞」を発表し、約800の書店で店頭フェアが実施された。

    ▲向かって右がけんごさん、向かって左はブックジャーナリストの内田剛

    ワカレ花
    著者:けんご
    発売日:2022年05月
    発行所:双葉社
    価格:1,375円(税込)
    ISBNコード:9784575245134

     

    悩み抜いた末の小説を書く決意

    ――元々書くこと、執筆への興味や経験はありましたか?

    小説を読み始めたのが大学1年生の頃でしたし、文章を書くこともありませんでした。学生時代も読書感想文を出さなかった側の人間だったのです(笑)。
    企業のCMやWeb 広告を作る会社に就職してから、企画や脚本を担当し。文章やコピーライティングをかなり勉強しました。

    ――小説執筆のきっかけは何だったのでしょうか。

    以前から、僕のSNSの投稿をきっかけに、その反響から書籍が重版になることがありました。コメント欄で、「この作家さんいいよね」「この作家さんが書く物語が本当に好きなんだ」といった感想が交わされます。そこに挙がるような作家さんが羨ましいとか、凄いなあ、といった感情はありました。僕は「小説を紹介する」インフルエンサーで、小説のおかげで有名になれました。こういう活動をしている中で、作家の皆さんへの敬意は並々ならぬものがあって、書くことに対して今まで努力をしてこなかった自分が「簡単に手を出してはいけない」という想いを抱えていました。
    双葉社さんからお声かけいただきましたが、正直言ってかなり悩みました。でも「君と一緒に頑張りたい」と心から熱烈に提案をしてもらい最終的に書こうと決心しました。

    ――具体的にこういう話を書いてくださいというようなオファーだったのですか?

    具体的な内容よりも、「けんごさんらしい本を書いて欲しい」と言われました。そのオファーをいただいて、小説を書く際には僕のこれまでのスタイルを重視して書こうと思いました。
    例えば、僕が紹介した『残像に口紅を』はとても難しい作品ですが、若年層の方々が読んでくれました。自分が書いた小説も、この僕の軸「小説を紹介する活動」に沿って、これまで本を読んだことのない人でも、「小説は親しみやすいものだよ」と思ってくれるような作品にしたいと思いました。

     

    読者の声が生み出した作品『ワカレ花』

    ――『ワカレ花』のタイトルに込めた想いを教えていただけますか?

    タイトル案はかなりありましたが、なかなか決まりませんでした。僕の肌感覚なんですけど、「ライト文芸」と言われるジャンルは、「長いタイトル」で且つ、一目で何かがわかる作品がよく読まれていると感じていました。
    『ワカレ花』はタイトルだけを見ると、どんな話かわからない短いワードだと思います。ただ、キャッチーで覚えやすい。僕が書くにあたって、挑戦している部分ですね。

    ――なるほど。この『ワカレ花』を書くにあたって、一番意識したことは何ですか。

    これまで僕を応援してくださっていた人を一番に意識しました。普段TikTokやTwitter、Instagramで応援してくれる人が、一番楽しんでくれる物語は何だろうと。他の作家の方と違って、僕にしかできないこと、「強み」と言い切れることはSNSの反響です。僕のSNSを見てくれる人は、自分よりも少し年上の人から、中学生ぐらいまでの女性が一番多い層ですが、そのフォロワーの皆さんから「こんな作品を読みたいです」「こういう物語はありませんか」と過去にコメントが多かったものから、着想を得て書きました。例えば、『ワカレ花』の中に書かれている先生と生徒の恋愛物語がそうです。

    ――まさにマーケティング的な考え方ですね。書き始めての苦労はありましたか?

    コピーライティングの勉強をしていたので、「小説」というよりも「説明文」になってしまうことが多かったです。編集の皆さんには、小説のイロハを教えていただきました。台詞の部分は僕の考えをすべてぶつけられたので、割とスラスラと書けましたが、情景やストーリー構成全体には苦労しました。物語に矛盾がないように繋ぐにはどうすればいいか、かなり考えましたね。

    ――お仕事をされながらよく半年間で書ききりましたね。予想をはるかに超えるスピードとクオリティと感じています。

    スピード感に関してはかなり意識しました。SNSは流行り廃りが本当に早くて、いつ僕がこの活動をできなくなるかわからないと感じています。僕の目的は小説を広めたり書くことの楽しみや親しみやすさを伝えることですので、早くしないと間に合わなくなるという危機感を抱いていました。とても1年後などと、のんきに構えていられない気持ちでした。

    ――表紙を担当した萩森じあさんとはご縁があったのですか?

    双葉社さんから紹介していただきました。僕も萩森さんのイラストに一目ぼれして「ぜひ、描いていただきたいです」とお願いしました。萩森さんに『ワカレ花』を読んでもらった印象をそのまま表現していただいたのが表紙のイラストです。この上ない、とても素晴らしい表紙に仕上げていただきました。

    ――各章ごとに「花」がモチーフになっていますが、着想はどこから得たのでしょうか?

    移り行く春夏秋冬を描きたかったので、季節ごとに印象に残る花を選びました。自分のこれまでの経験や記憶に紐づいているかもしれません。福岡にある実家の庭は、母の手入れが行き届いていて、鮮やかな花に彩られています。最終章の「ユキヤナギ」についても、実家の近くにたくさん生えていてそこからイメージを膨らませていきました。その他の章でも、ストーリーごとに一番合う花は何だろうと思い描きながら、章のタイトルを決めていきました。

     

    小説家・けんごのすべてが凝縮された物語世界

    ――どの花、どの章も素晴らしかったですね。それぞれの章についても伺いたいです。まずはプロローグ。たった3行のプロローグによって、読者はこの後の展開を想像しながら読むことができると感じました。

    編集の方と打ち合わせをさせていただきながら、僕らしい書き方ができればと思っていました。小説紹介をやってきた僕が得意なのは、冒頭でいかに読者の興味を引くか、つまり“つかみ”です。プロローグという物語の初めから、読む人の想像力を膨らませながら読んで欲しいというメッセージを込めました。

    ――なるほど。その後の「始業式」では、主人公の世奈の母が語る初恋の思い出でした。

    まずは「すれ違い」について書きたいと思っていました。小説を書くにあたって、「始業式」と「雪景色」については書いてみたい内容だったので、そこまでをどう繋げるか、悩みました。

    ――「始業式」には、ヘミングウェイの『老人と海』がキーアイテムとして登場していました。この作品を登場させた意図は何でしょうか。

    僕にとって『老人と海』はとても大切な作品で、大学生の時に初めて読んでから、何度も繰り返し読んでいる作品です。ヘミングウェイの作品に限らず、ノーベル文学賞を受賞するような名作は、これまで多くの人に読まれていると思います。ただ、若い人たちにとってはこういった作品に高いハードルを感じている人もいるように思っていました。そんな作品のイメージを変えたい。「『ワカレ花』に出てくるくらい親しみやすい作品なんだよ」と、作品を通じて伝えたかったんです。

    老人と海
    著者:アーネスト・ヘミングウェイ 高見浩
    発売日:2020年07月
    発行所:新潮社
    価格:539円(税込)
    ISBNコード:9784102100189

    ――登場人物の名前にはどういった意図がありましたか。たとえば、花森冬紗(はなもりかずさ)の「かずさ」は、かなり難読な名前だと思いました。

    はなもりかずさ、には「冬」、そして椿春人(つばきしゅんと)には「春」という文字を入れたかったんです。さらに、お互いの苗字には「花」と「椿」を入れました。その意味は読んでいただければ……。ここには相当、時間をかけました。
    そのほか、僕の友達から名前を借りた人物もいます。「世奈」「松川遥」「長谷川仁」は全部友だちの名前(笑)。加賀皓心(かがひろみ)先生は、「加賀」と「皓心」、2人の友人の苗字と名前を合わせました。
    「皓心」の名前の紹介の台詞も本人に聞いた“実話”です。「夜遅くにごめん。名前の紹介をするときってどう説明してる?」とLINEすると、「しろへんに告白の告と心で『ひろみ』と読みます」と。

    ――作中には書店のシーンが出てきますね。「SNSで紹介され~」と、まさにけんごさんが紹介しているかのような現実に近い光景でした。

    そのシーンは僕の友だちや両親から「紹介本が書店に並んでいたよ!」と反応をもらって、それを客観視したときに「これってすごいことだよな……」と我ながら思って、作品の中に僕自身の描写を入れてみました。

    ――SNSについてネガティブな要素も含めて書かれていたことが印象的でした。「ひまわり」では、長谷川仁がいつの間にかSNSの動画撮影に一生懸命になりすぎて、周りをないがしろにしてしまうなど、SNSへの問題提起もされていますね。

    去年の夏頃、『残像に口紅を』のおかげもあってTikTokの再生数がすごく伸びて、反響が出始めた頃は数字に固執していました。ただ、僕の場合はそこで「これはいけない」と気づけたんですけど、いつ同じようになってもおかしくないなと思っているので、当時の僕を戒める意味も込めて書きました。

     

    『ワカレ花』から始まる未来とは?

    ――今後はどのような物語をこの世に届けたいですか?

    僕はSNSを舞台に生きてきましたので、SNSの怖さだったりとか、便利とは正反対なところも伝えていきたいです。そして『ワカレ花』で手がけた花言葉のように1つのコンセプトにこだわった作品を作りたいなと思います。

    ――『ワカレ花』のスピンオフや続編の予定はありますか?

    今のところはないですね。ただ、これから登場人物がどう生きていくのか、僕も気になります。

    ――読者に「これだけは伝えたい」というメッセージを教えてください。

    学生さんには青春の思い出の1冊になるように、大人の方にはあの頃のピュアな青春を思い出して欲しいという気持ちで書きました。青春を、思う存分心に焼き付けて欲しいです。
    この本を執筆するにあたっては、本当にたくさんの方に支えていただいて、短期間で出版までこぎつけることができました。感謝の気持ちを伝えたいので、よりいっそう本の紹介活動を頑張りたいと思います。

    ――ありがとうございました。さらなるご活躍も期待しております。

    【取材を終えて】

    誠実にして謙虚。けんごさんに直接会った者たちは誰もがそう感じることだろう。「TikTok売れ」ブームの立役者として書籍分野のヒットメーカーとなり、各種メディアの注目の的となっても決して奢ることはない。物語や作家たちへの強烈なリスペクトゆえ悩み抜いての小説執筆。そこには並々ならぬ決意と覚悟が込められていた。SNSというストロングポイントを最大限に活かし、今の読者が読みたい物語を具現化したのがこの『ワカレ花』だ。故郷の風景、家族の温もり、愛おしい絆、SNSの功罪。この作品には人間・けんごさんを構成するすべての要素が凝縮されている。いま最も信頼できる物語といっても過言ではないだろう。小説紹介者であり小説家でもあるけんごさんからは眩い光が感じられる。その光の花束こそが未来なのだと思う。どこまでもついて行こう。

    ▼元書店員であり、「POP王」としても知られる本記事を執筆したブックジャーナリスト・内田剛が作成したPOPがこちら

     

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