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  • “恋”なんて言葉を知らない女子高生と、漫画家になった男子高生の淡い恋物語『つむぐと恋になるふたり』

    2022年04月17日
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    花森リド:講談社コミックプラス
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    「恋をしている」と明らかになるまでの時間

    『つむぐと恋になるふたり』は少女漫画で、そのストーリーも絵も私は大好きなのだけど、とにかく作品を支える漫画の切れ味のよさに惚れ惚れしました。ジャンルを問わず、いい漫画ってこうだよね!ってうれしくなる。

    とくに「アップ」と「引き」の緩急が絶妙なんです。たとえばこんな場面。

    ヒロインの“紬”は友達も彼氏もいない女子高生。人付き合いが得意じゃないし、一人でいることが好き。そんな紬は“亮太朗”と出会って……?

    人間に不慣れな紬にはこの状況が謎! 恋なんて単語はまだそこにない。それでもきらきら輝く紬の大きな目と、紬を持ち上げたまま「なんでだろ?」とつぶやく亮太朗の横顔。読んでるこっちはコマを目で追うにつれ胸がさわぐ。そして!

    うわー! わからないなりに目の前の出来事をきちんと取り扱おうとする紬の言葉がかわいい。そしてそれを優しく受け入れる亮太朗! 歯すらかっこいい! 私が今一番見たいのは、亮太朗のこの笑顔と、亮太朗を見つめる紬の目なんだよ……。

    ということで、語り出したらキリがないくらい『つむぐと恋になるふたり』は読む人が一番ほしい場面を薄く薄くきれいに重ねる少女漫画です。「恋をしている」って言葉で明らかにする前のいろんな気持ちと、その言葉を編み出すまでの淡い時間が伝わってくる。

     

    居候先は同じ学校に通う先輩の家……?

    先ほど紹介したとおり紬は友達のいない人生を送ってきました。ひとの言うことをそのまま受け取って真面目に実行しすぎて、同級生たちからは融通の効かない付き合いづらい子として処理されてきたんです。

    ある日、紬の生活環境がガラッと変わってしまいます。母親が突然引っ越しを決め(というか自宅を手放し)、とあるお家で居候をすることに。

    で、家主さんに手土産持参でご挨拶に行くと……(こういうとこ、ちゃんとしてるんですよ紬は!)。

    家主は同じ学校に通う亮太朗でした。2人はすでに面識あり。学校でのぼっち飯タイムに偶然出会い、そのとき紬は「とある協力」をしたんです。

    絵を描くために、お弁当を食べている紬の姿をスマホで撮ってもいい?とのこと。初対面でこれ! ちょっと怪しいよね。でも紬は「いいですよ」と承諾するんです。いろんな子から「付き合いづらい子」なんて言われてるのに。なんで?

    亮太朗が指示したポーズをきちんと保ったまま、「嘘をついてるようには見えなかった」と答える紬。彼女の美点が伝わるいい場面です。

    ちなみに亮太朗がどんな絵を描いているかというと……。

    高校3年生にしてプロの漫画家! なるほど確かにいろんなポーズの資料が必要そう。

    つまり紬は漫画家さんのおうちに居候しています。このお仕事風景も本作の楽しいところの1つ。

     

    はじめての「友達」

    想像にかたくないことではありますが、真面目な紬は自分たち母子が居候していることを深く気にしています。

    気にするあまり、料理が得意な紬はせめて亮太朗の食事も作らせてくださいと申し出ます。家でずーっと仕事をしている亮太朗にしてみれば夢のような話。そしたらこれがとっても楽しいんです。一緒に作るのも、一緒に食べるのも。

    彩りもきれいで栄養価もばっちりで、ぼっち飯でも大満足な料理をずっと作ってきた紬。でも亮太朗と一緒に食べると、これまで食べたことないくらい美味しい。

    一緒に食べる友達なんていないと淡々と話す紬に、亮太朗は友達になろうと提案します。「なるほど、これが友達といる楽しさなんだ」と、ひとつひとつ噛みしめる紬だけど……?

    放課後に寄り道しようかって誘われて(ここまではわかる、友達だ)、いたずらっぽく手をつなぐ亮太朗。ぜひ不良にしてくださいって思っちゃったけど、いや、これ友達かな!?

    遊園地へ遊びに行って(たしかに友達と行くことある)、観覧車で一緒に自撮り。はたしてこれは……友達? 紬も同じく「友達っぽいのかな?」とドキドキ。紬の疑問は正しいよ。ああ心臓がもたない。

    亮太朗が繰り出す無数の「友達っぽいだろ?」シリーズにクラクラするんですが、これがとても心地よい。なぜなら亮太朗の言葉は、一貫してとてもやさしく誠実だから。

    うん、これは友達になりたい人物だな。「これは恋なんだ」と気がつく手前には、ふと心が動かされたり相手を深く信頼する繊細な瞬間がたくさんあるはずで、『つむぐと恋になるふたり』はそこを逃がさず伝えてくれます。ああ読んでよかった。

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2022年4月9日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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