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  • “日常”である空港を舞台に人生の旅人たちを描く 『風の港』村山早紀インタビュー

    2022年04月05日
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    ほんのひきだし編集部 猪越
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    『シェーラ姫の冒険』などの作品で児童文学作家としてキャリアを重ね、いまでは『桜風堂ものがたり』をはじめとする、大人の心に沁みる作品でもファンの多い村山早紀さん。『風の港』はそんな村山さんの「日常」にあったという、空港が舞台の4編を収めた連作短編集です。

    行き交う旅人たちの来し方を温かく描き、ささやかな奇跡が、その先へと読者の背中をも押してくれる本作。作品が生まれるまでとそこに込められた思いについて、村山さんにお話を聞きました。

    村山早紀(むらやま・さき)
    1963年長崎県生まれ。『ちいさいえりちゃん』で毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。著書に『シェーラ姫の冒険』『アカネヒメ物語』『百貨の魔法』『魔女たちは眠りを守る』、シリーズに「コンビニたそがれ堂」「花咲家の人々」「竜宮ホテル」「桜風堂ものがたり」など多数。共著に『トロイメライ』。エッセイに『心にいつも猫をかかえて』がある。

    風の港
    著者:村山早紀
    発売日:2022年03月
    発行所:徳間書店
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784198651404

     

    空港での“一瞬”は地球で生きていくことそのもの

    ――空港が舞台の『風の港』ですが、村山さんにとって、コロナ以前は「たまに空を飛ぶこと」も「空港で過ごす時間」も日常だったそうですね。

    もともと空港と飛行機がとても好きで、月に1度は住んでいる長崎と東京の間を往復する生活をしていました。

    私が作品を書くときは、あえて取材をするよりも、好きなものを膨らませていくような書き方をすることが多くて。『桜風堂ものがたり』で本屋さんの話を書いたのも、普段から書店員さんとお付き合いがあったからですし、猫の話がやたら多いのも猫が好きだから。その延長線上で、今度は飛行機や空港を書いてみようと思いました。

    ――4編それぞれの主人公たちが、空港ですれ違いながら物語が展開していきます。その構成が空港という舞台とぴったりマッチしています。

    私自身はそこで原稿を書いたり出版社さんと打ち合わせをしたり、よく空港にいる人だったのですが、空港は常に人が移動している場所で、私自身も訪れては去っていく中の一人です。もちろん転んだ人がいたら助け起こしたり、荷物がぶつかりそうになったら互いによけたりして、「ごめんなさい」「ありがとう」とお互いに言葉を交わすことはあってもほんの一瞬で、深く関わることはまずないですよね。

    地球の上には無数の人たちが生まれて、そして死んでいく。空港にいると、二度と会うことがないであろう人たちの、人生のほんのひとかけらの時間を共有してまた散っていく様が、この地球で生きていくことそのものだと実感することがあって、みんな同じ時間と空間の中で生きているのだなと愛しくなるんです。

    そういう場所を書くにあたっては、メインキャラクターを立てるのではなくて、登場人物一人ひとりの人生を描き、すれ違ってゆく形で物語を構成しようと思いました。

     

    “特別なお店”である書店が要所要所で絡む連作に

    ――第一話は、若くして人気漫画家となったものの、思うように売れなくなった亮二が主人公です。地元の長崎に帰ることになり空港を訪れた彼が、似顔絵画家の老紳士と出会います。この老紳士がとても味のある人物です。

    私も好きなキャラクターです。昔は観光地によく似顔絵画家の人がいましたよね。生活感を感じさせない、謎めいた雰囲気の人が多かった。それと、私には漫画家の友人がいるのですが、彼女が一時期趣味半分、アルバイト半分のように似顔絵描きをしていた時期があり、それも印象に残っていて出てきた人物なのかなと思います。

    私も昔は趣味で漫画を描いていたことがあって、漫画が大好きなのです。漫画家さんについて書かれた本や記事もよく読むのですが、実力があってもいなくなってしまった人も多いようですよね。そういったことも心に引っかかっていて、亮二というキャラクターが生まれたのだと思います。

    ――そんな亮二と出会うもう一人の人物が、第二話の主人公となる、空港の書店に勤める夢芽子です。彼女が亮二にかける言葉は、書店員らしい、本と作家への愛があふれたものですね。

    それまでも書店さんの話は書いているのですが、特に『桜風堂ものがたり』を書いてからは私の中にレジカウンターがあって、そこに書店員としての私がいます。今ではいつでもその魂を引っ張り出してきて、台詞が書けるようになりました(笑)。なんちゃって書店員なんですけどね。

    私にとって「空港といえば本屋さん」というくらい必ず立ち寄る場所なので、空港の話を書くからには、本屋さんの話は必ず入れようと決めていました。夢芽子の出番は当初考えていたよりも増えているのですが、編集さんから「ただの連作ではなくて、どこかしらキャラクターがリンクするような形にしてください」というリクエストがありまして。1回登場させてみると、その後も要所要所で彼女と本屋さんが絡んでくる形になりました。やはり本屋さんは、彼女が思うように魔法のお店で、特別なお店なのかもしれません。

    ▲夢芽子が勤める書店のモデルとなった羽田空港第1ターミナルにある山下書店では『風の港』を大々的に展開

    ――そんな、異世界への扉であり、本という魔法がいっぱい詰まった「空港の書店」で、夢芽子にもある不思議な出来事が起こります。そしてその本屋を訪れるのが、第三話の主人公である恵と眞優梨です。中学生のころ親友だった2人はある事件をきっかけに疎遠になりますが、33年ぶりに空港で偶然再会します。恵は50歳を前に新人賞を受賞した新人作家ですが、村山さんのご経験なども反映されているのでしょうか。

    私自身は若い頃に新人賞をもらってから30年になりますが、恵のように、やはり新人の頃はいろいろ不安だったり先が見えなかったりしましたし、作家としての生活は飛行機に乗る生活とイコールでした。出版社があるのは東京ですし、新人賞の授賞式も東京で行なわれます。晴れの授賞式に出るために飛行機に乗って空を飛ぶというのも実体験で、旅立ちそのものでしたね。

    一方の眞優梨はベテランの女優ですが、この話に出てくる2人は、どちらの気持ちもわかるよなあと思って書いていました。私は女優ではないですけれど、眞優梨はキャリアを積んでそろそろ若手に道を譲り渡そうとしている立場で、老いを感じ、自分の人生を振り返る時期を迎えているんですよね。

    この2人はキャラクターが生まれた段階から、ずっと漫才のように私の頭の中でどうでもいい会話を延々と続けています(笑)。彼女たちに限らず今回登場する人物たちは、自分で考えたキャラクターなのに、みんな知っている人たちみたいで、空港に行ったら普通に会えそうな気がします。

    ――年齢を重ねることでこれまで築いてきたものがあるけれど、だからといって不安や戸惑いがないわけではない。そんな大人だからこその感情の揺らぎに、とても共感できる一編ですね。次に登場するのは、世界的な奇術師である幸子です。第四話は一人の女性の一代記ともいえる、少しほかとはテイストの違うお話になっています。

    最初は奇術師ではなくて、老いた音楽家の話にしようかなと思っていました。世界的に有名な音楽家が空港のホテルに泊まって、一晩の間に今までの人生を振り返って、朝、また旅立っていく。そんなあらすじを考えていたんです。

    ただ実際に書く段になったときに、音楽は聞くけれどそこまでクラシックに造詣が深いわけではないし、絵的に若干地味だなと思って奇術師の話にしました。80代の人だと戦争体験があるだろう。今では“魔女”と呼ばれる著名な奇術師である彼女はどこでどう「魔法」と出会ったのか……、とその生涯を考えたどっていきました。

    ――毎日のようにロシアによるウクライナ侵攻の報道がなされている今は、戦争についても考えさせられる作品です。

    私の本は海外でも翻訳されているので、戦争についてのシーンがある話は、つらい目にあった方が直接手に取られる機会もこれからあるのだろうなと思うことがあります。そんな方々を傷つけず、できればささやかに癒しとなる物語であればと願います。

    私はもともと昭和史が好きで、特に太平洋戦争と庶民の生活に関する本を若い頃から読んできました。それもあって自然な流れで空襲のシーンを書きましたが、まさか今の時代に、毎日空襲のニュースを聞くようなことになるとは思いませんでした。心が痛みます。

     

    「言葉や物語は死なない」は永遠のテーマ

    ――今、書店店頭でも地政学の関連書など、世界を知るための本が展開されています。海の向こうに暮らすたくさんのひとびとと、同じ人間として心を通じ合わせるために、ひとは言葉を学び本を読む。そんな言葉に、本の魅力が全編にあふれた本書の中でも、ひときわ考えさせられました。

    結局、私たちはさまざまな想いを言葉に託すしかないのですよね。そして言葉は滅びない。1月に出た『桜風堂夢ものがたり』の最終話では、故郷の星が滅んでしまった宇宙人を登場させたのですが、そこでも「言葉や物語は死なない」と書きました。そう信じたいですし、それが私にとっての永遠のテーマなのでしょう。

    桜風堂夢ものがたり
    著者:村山早紀
    発売日:2022年01月
    発行所:PHP研究所
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784569851112

    ――村山さんは、「子どもたちにこの世界を愛しつつ疑うことも学んでほしい」という思いを込めて、児童文学を書かれてきたそうですね。本作では、夢や希望、信じることの大切さに勇気づけられますが、大人向けの作品はどのような思いで書いていらっしゃるのですか?

    大人に向けて書くときは、いわばひとりの本好きのなれのはてとしての、自分の好きなものを好きなように書いているので、そこまでいろいろ考えていないかもしれません(笑)。

    児童書に関しては、私は自分をプロの職人だと思って書いてきました。児童文学は、子どもたちに向けて書く大切な手紙であり、人生の教科書みたいなものだと思っています。子でもたちは素直に書いてあることを受け止めて、自分のものにしていきます。なぜそれがわかっているかというと、昔、愛読者である子どもたちの投稿が1日100件ぐらいある掲示板を自分のサイトにおいていたからです。

    その頃の子どもたちが20~30代になった今も読者でいてくれて、Twitterなどで話しかけてくれるのですが、拙著に限らず、子ども時代に読んだ本から得たと思しき思考の方法や世の中を見る目といったものを、ちゃんと受け止めて自分のものとしているのを感じることがあります。私自身もそうで、児童書に育てられました。

    それが児童文学というものの素晴らしさであり怖さなのですが、だからこそ私やほかの作家の書いていることを信じすぎず、自分の頭で考え、心で感じることを大事にしてほしい。誰かが与えようとする真理を疑うことを忘れないで、自分で判断できるようになってほしいというメッセージを込めて書いてきました。私の中にも思考の偏りはあるはずですし、時代の流れから離れて考えることはできません。未来には未来のより良い真実があるかもしれないとも思います。

    一方で大人向けの本は自分にとってひたすら美しく、素敵な作品を書き上げていく作業です。書くことは苦しいことでもありますが、楽しいなあと思いながら一作一作仕上げています。

    ――それに加えて、本作は人生のほろ苦さもまた魅力です。

    ほろ苦いものって、子どもの頃は良さがわからないですよね。夏蜜柑やイカの塩辛なんかの、ちょっと苦味のある美味しさ。児童書はなるべくならば子どもの心に傷を負わせないように、マイルドに仕上げるところがありますが、大人向けはそういった味わいも書くことができます。

    仏像を彫る人は、木の中に埋まっている仏様を彫りだすなどといいますよね。それと同じで、私にとって小説を書くことは、美しく仕上げてほしがっている物語がどこかにあって、それをこの世界に彫りだす作業をしている感じです。読者は、そうやって小説として彫りだしたものを一緒になって「綺麗」「素敵」と喜んでくれる大切な仲間であり友人なのです。お客様ではなく。

    ――村山さんの作品を子どものころから読んでいた読者が、大人になって仲間になっていく。それもまた素敵なことですね。

    初出版からじきに30年になります。児童書をメインで書いていた頃、小さい子どもだった読者の皆様が日本のあちらこちらにいて、お互いの存在は知らなくてもずっと一つの魚や鳥の群れのように、ともに旅をしていた。私の作品を同じ時代の中で喜び共有してくれる人たちがいて、さらに新しい読者の皆様との出会いがあって、その人たちがまた群れに加わって、この先の未来までともに旅をしていく。そんな情景が心に浮かぶことがあります。

    ――実際にはコロナ下でなかなか旅することがままならない昨今ですが、『風の港』の発売を記念して、書店でのディスプレイ祭りを実施されているそうですね。

    今のこの世の中、どうしても気持ちが暗くなることが多いですよね。今回の本は春らしい表紙で、とても美しく作っていただいたので、お店に並べてもらえると素敵に映えます。それでこの企画が生まれました。『風の港』には重要なモチーフとして桜も登場します。桜の造花もあしらって、華やかにディスプレイしていただいているので、書店さんにいらしたお客様も明るい春を感じていただけるのでは、と思います。

    ▲村山さんの愛猫・千花ちゃんとともに

    ―― 「#風の港ディスプレイ祭り」で検索すると、店頭を彩る力作を見ることができます。目で、心で旅することができる一冊となりますね。

    ▼どなたでも参加できる『風の港』ひと言感想コンクールも開催中!

     

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