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  • 妹の旦那は元彼氏…奇妙な3人の共同生活『けむたい姉とずるい妹』

    2022年03月12日
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    中野亜希:講談社コミックプラス
    Pocket

    けむたい姉とずるい妹 1
    著者:ばったん
    発売日:2022年02月
    発行所:講談社
    価格:726円(税込)
    ISBNコード:9784065265086

     

    もう 何一つ奪われたくなかった

    嫌いな人や合わない人とは距離を取ればいい。「嫌いな人とは仲良くしない自由」がある。ただし、そこに血のつながりがあるなら話は別だ。逃れられないイベントが、もう会いたくもない2人を引き寄せる。例えば、お葬式のような。
    『けむたい姉とずるい妹』は、母の死をきっかけに引き寄せられた真逆の性格の姉妹が、愛や憎しみ、嫉妬に振り回されながら、一つ屋根の下で火花を散らすお話だ。

    実の母の葬儀で8年ぶりに顔を合わせた姉妹「じゅん」と「らん」。涙ひとつ見せず、気丈に喪主を務めた姉・じゅんとは対照的に、大遅刻のうえ大泣きしながら現れて母の棺にすがるのは妹のらんだ。喪服の着こなしひとつ見ても、2人が正反対の気質であることがよくわかる。

    姉妹が数年ぶりに顔を合わせたくらいで、外野は軽く仲直りを勧めてくるが、甘い。8年もたてば他人ならとっくに縁が切れている。肉親とそれだけ距離を置くにはそれなりの理由がある。じゅんは幾度となくらんに大切なものを奪われ、その結果、疎遠にしているのだ。

    人の服やアクセサリーをさも当然のように使い、持ち主の何倍も似合ってしまう。図々しくてちゃっかりしていて、あざとい妹。8年くらいじゃ性格は変わらないもので、母が住んでいた家を「自分が住んで大事にしよう」とじゅんが片付けにきてみれば、勝手にらんが上がりこんでくる。夫の「りっくん」を連れて。

    生前の母を、ろくに見舞うこともなかったのに、2人はこの家に住むつもりでいるらしい。家は諦めろ、私はあんたを許さない!と憤るじゅんを見ても「勝手に一生怒ってればいーじゃん」と、涼しい顔のらん。
    らんの夫、りっくんもじゅんをなだめるかのようにこんなことを言う。

    被害者っぽく「もう許してほしい」「見ててつらい」なんて言っているが、そもそも、2人が険悪になった理由は、この「りっくん」こと律にある。律はじゅんの彼氏だったのに、現在はらんの夫。らんはじゅんから、一番大事な恋人も奪っていたのだ。

    この上、母の家までとられるなんて……! じゅんは、「私もこの家に住む」と宣言する。距離を置き続けてきたはずの姉妹とその夫は一つ屋根の下で暮らすことになるのだった。

     

    「らんちゃんには、内緒ね」

    ある姉は言う。「妹に服やアクセを勝手に使われる。そんな服、今さら着たくないから譲ってあげたの。そしたらもう着ないの! あの子は私のものを奪いたいだけなんだよ」。
    ある妹は言う。「みんなが優等生のお姉ちゃんと私を比べる。年上なんだからいろいろできて当たり前なのに、お姉ちゃんばっかり可愛がられてずるい」。
    姉妹のいる女子たちから似たような話を何度も聞く。仲のいい姉妹もたくさんいるが、近くにいすぎてこじれてしまった姉妹も少なくない。そして、互いに自分を被害者だと思っていたりもする。

    一方、好き勝手しているように見えるらんも、手放しで幸せというわけでもなさそうだ。じゅんにはラブラブな様子しか見せていないが、「りっくん」が「朝ごはんは勝手に食べるから、ゆっくり寝て」と言っただけでヒステリックに泣いてキレる。

    姉妹バトルで目がくらみ、すぐには気が付かなかったけど、この律という男もけっこうなクセモノだと思うんですよね。姉と付き合っていたのに、妹に乗り換えるだけでもどうかしてる。それでいて姉の恨みは妹に向かい、妹も一つ屋根の下に元カノ(姉)がいても嫌がるふうでもないし。

    じゅんが恋におちてしまったのも、この不敵な笑顔がきっかけなのだ。この男からは魔性のニオイがする。

    律とじゅん、喫煙者の2人。タバコを吸おうと縁側で顔を合わせれば、らん抜きで待ちあわせしたわけでもないのに、律はわざわざ意識させるようなことを言う。

    「チクってやろうかな」。それはもう、じゅんもこの状態を2人の秘密と思っているってことではないか。動揺してか、なかなか火をつけられないじゅんに律は……。

    そして言うのだ。

     

    関わらないように生きていきたいのに

    タバコの煙、香り、視線……本作でそれらがコマをまたいで絡みつくように描かれるとき、人間関係が大きく動く。じゅんと律の微妙な変化を感じ取ったらんが、はじめて見せるこの目つき。波乱の予感だ。

    関わらないように生きてきたのに、これからもそうしたかったのに。血の繋がりって本当に厄介だ。決して完全には離れられないから、意地を張ってもつらいだけなのに、どうしたらいいんだろうね……。つい物語に飲み込まれ、感情移入してしまうのだ。

    (レビュアー:中野亜希)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2022年3月5日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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