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  • セックスレスをきっかけに、夫婦、そして子育てのあり方を問う|『したいとか、したくないとかの話じゃない』対談

    2022年02月01日
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    映画「百円の恋」「アンダードッグ」などで知られる脚本家であり、近年は小説家としても活躍する足立紳さん。著作『喜劇 愛妻物語』などの映画化にあたっては監督を務め、着々とキャリアの幅を広げています。

    そんな足立さんの新刊『したいとか、したくないとかの話じゃない』が、2022年1月20日に発売されました。『喜劇 愛妻物語』『それでも俺は、妻としたい』は、売れない脚本家と妻の夫婦関係をあけすけに描いた(ほぼ)私小説だったが、今回はご本人いわく「フィクション」。セックスレスをきっかけに、夫婦の、そして子育てのあり方を問う家族小説となっています。

    とはいえ、夫婦関係の生々しさ、実体験に基づくディティールの細かさは、本作にも受け継がれている。果たして、どこまでがフィクションなのか。今回描きたかった女性像とは。そして、夫婦間におけるセックスの重要性とは。共同作業で本作を書き上げた足立紳さん・晃子さん夫妻の対談をお届けします。

    『したいとか、したくないとかの話じゃない』のブックレビューはこちら

     

    人生のミッションは「孤独の解消」

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    ――『喜劇 愛妻物語』『それでも俺は、妻としたい』は、限りなく実話に近い夫婦小説でした。今回は、夫である孝志のキャラクターは足立さんに近いものの、妻・恭子の人物像はこれまでとはだいぶ違いますね。家事育児に追われ、なにかと我慢をしてきた恭子が、シナリオコンクールへの入賞を機に外の世界に飛び出していく姿が描かれています。

    足立紳:彼女(晃子さん)もウチの母親もはっきりものを言うタイプなので、女の人が我慢をしているという感覚がなかったんです。たいていの家庭の奥さんは、旦那さんに「嫌なものは嫌だ」ときっぱり言ってるんだろうなと思っていて。でも、実はこっちが思っている以上に我慢しているんだというのを結婚生活を送っていくうえで少しずつ分かって、そのような女性を書いてみました。

    ――しかも、これまでは夫視点でしたが、今回は初めて妻の視点も取り入れています。

    晃子:初の試みですよね。私、今回の小説はすごくいいと思っていて。恭子みたいな女の人っていっぱいいると思うんです。ギリギリのところで踏ん張っているというか、踏ん張りきれなくなっているというか。経済的な理由もあって、旦那さんに強く出られない奥さん方って多いと思うんですよ。

    足立紳:映画の『喜劇 愛妻物語』を公開した時は、賛否両論あったんですよ。否としては「男性視点すぎる」「女性像が古い」って言われて……。新しい女性像を提示しようなんて志の高いことは考えていなかったけど、あんなモラハラ妻が古い女性像って言われるのかと。

    晃子:結局妻のチカが「支える女」って見られちゃったんだよね。「なんだかんだで夫を支えてる、昔ながらの妻じゃん」って。支えてるってよりは女の意地なんだけど。

    足立紳:ただ、そういう女性も実際いるからね。それを否定しちゃっていいのかなとも思ったりするけど。頑張っている人もいれば、頑張れない人もいる。自立して生きている女性はすごいけど、素晴らしいほうだけ描いてもしょうがないんじゃないかなっていう思いは今もある。

    ――恭子の場合、シナリオを書くようになり、徐々に自信がついていきます。

    足立紳:いろんな女性がいる中で、「今の描くべき女性ってどんなタイプだろう」ということは考えました。映像作品でも小説でも、強い女性が描かれることが多くなっていると感じるので、今さら恭子みたいに我慢してきた女性を描くことにどれだけ価値があるのかなと思って。

    晃子:ただ、女性の気持ちを代弁するところはあったんじゃない? 紳って、ファミレスとかでも「あの奥さん、今モラハラ受けてない? また怒られてる」ってけっこう気づくんですよ。公衆の面前で奥さんにダメ出しする夫ってまぁまぁ多いけど、そういうのに敏感に気づくから。まぁ、私も未熟だから公衆の面前でこの人に怒りをぶつけてしまうこともあるけど。

    足立紳:「今、どれだけの女の人が我慢を強いられながら生きているんだろう」とは考えた。彼女(晃子さん)なんかは、我慢の「我」の字もなく生きていられるタイプだけど。

    晃子:だから分かってないって言いたくなるんだよ。あなたは分かったような振りばかり。これだけ言う私でもまぁまぁ我慢してるからね。言えない人はもう信じられないくらい我慢しているよ。「言いたいことを言う」って発想すらないのかもしれない。完全に諦めちゃってる。もしかしたら諦めるという発想もなく、そういうものと思っているのかもしれない。

    そこは男性女性関係ないかもしれないけれど、割合として女性のほうが多いと思う。

    足立紳:そう考えると、恭子みたいに殻を破り切れない、我慢している女性を描くこともまだ価値があるのかなと思って。女性が読んだ時に、「もうこういう女性像はやめてよ」「ウチら、もうとっくにこの段階は通り過ぎてるから」って思うような女性像は描きたくなかったんですよね。

    ――執筆にあたっては、晃子さんもアドバイスされたとか。

    晃子:恭子のオナニーシーンは私が書いたよね。

    ――いきなりすごいところから斬り込んできましたね(笑)。

    晃子:オナニーって、人それぞれだと思うので。友達ともそういうことは喋らないし。まぁ偉そうに話す話じゃないのですが。

    足立紳:そういうところだけじゃなくて、恭子の気持ち、夫への怒りについてはだいぶ助けてもらって共同作業みたいに書いていきました。

    晃子:恭子のことは連載している最中、すごく話しましたね。「恭子、どうして思っていることを言えないのかな」「もっと自信を持ってもいいのに、どうすれば持てるのかな」って。孝志よりも恭子の話をした気がする。

    足立紳:彼女(晃子さん)の育ち方みたいな話も随分して。

    晃子:私は「手に職をつけろ」って言われて育ってきたんですよね。私の母親は、私が泣いて実家に帰っても、多分「紳君の面倒は誰が見てるの?」って言う人なんですよ。紳の母親だったら「よく帰ってきたね! ゆっくりしていきな!」は言うけど、「晃子ちゃん、どうしてる?」なんて聞かないと思う。むしろ追い出した私の悪口になる(笑)。

    ――フィクションではありますが、実感のこもったエピソードも盛り込まれているんですね。

    晃子:「自分の旧姓にも愛着はないけど、あなたの姓にも愛着がない」とかね。恭子も今までは自分を押し込めてきたけど、社会とつながることによって「なんで女性ばっかりこうなのかな」って疑問を抱くようになるんです。この人(足立さん)も、一見、優しそうに見えるんですけど、男尊女卑で威張りんぼうなところもある。やっぱり、女性のほうが生きづらいじゃないですか。結婚したら名字を変えるのが圧倒的に女性とか私自身もなんとなく受け入れてしまっていたり、他にも、この人の実家に帰る時に私も一緒に帰って嫁労働したり、義理の両親に気を使ったり、子供の面倒みなきゃいけないし。この人、めちゃくちゃ羽伸ばす癖に1人じゃ帰りたがらないんです。そういうのを何となくで受け入れてしまっている。

    足立紳:俺だって、アキ(晃子さん)の実家についていくでしょ? 電車ですぐだし。

    晃子:年イチ、泊まりなしでね! 紳は私の両親とコミュニケーション取るの苦手だからね。それに、育児って言語化できない小さい小さい負荷があるんですよ。ウチは紳が家にいるから「ちょっとお願い」ってパスできるし、「これだけ大変なんだよ」ってアピールもできるけど、朝早く家を出て夜遅くに戻ってくるお父さんに、家事育児の大変さを伝えるのは難しいと思う。夜遅く帰宅して家が汚れていると、「なんで片付いてないの?」とか言われたら、私怒っちゃうな―。紳もそういうところあるんだけど、よそのお父さんと比べてちょっと育児を手伝ったくらいですごくイクメンアピールしてくるから、腹が立って仕方ない(笑)。比べるなら他のお父さんとではなく、私と比べなさいよって。そういう不満も、この小説にぶつけましたね。

    ――晃子さんから見て、恭子の人物像は共感できましたか? それとも弱い女性だと感じました?

    晃子:共感できました。そもそも孝志と恭子は監督と売れない女優っていう出会いだから、恭子の立場が下のところからスタートしているんですよね。「もっと自信を持ちなよ、恭子」「一生懸命、気を使ってるね」と思いながら読んでましたね。疑問を感じて、結果、行動に移すから弱い人間とは思わないし、弱い強いだけで人は語れないし、完璧な人なんてほとんどいないのに、紳の作品に対する反応を見ていると、今は観客に受け入れてもらえる「弱さ」の許容範囲が狭くなっている気がする。人の弱さとかダメさに明確な理由がないといけないみたいな。紳の作品はそこに笑いもぶち込んでいくから、余計に「そんなの笑えない」って思われているみたいで悔しい。この人はもっと悔しいだろうけど。



     

    「セックスしないと夫婦じゃない」というブレない軸がある

    ――『したいとか、したくないとかの話じゃない』には、「したい」夫と「したくない」妻のエピソードも出てきます。足立さんは『喜劇 愛妻物語』『それでも俺は、妻としたい』でも夫婦のセックスを描いていますが、やっぱり夫婦間において「する」「しない」って大事なことだと思いますか?

    足立紳:バカだって言われるんですけど、俺は月に1回でも2回でもしないと夫婦関係がダメになっちゃうんじゃないかと思ってて。あくまでうちの夫婦の話ですが。

    晃子:夫婦間というか、人間としてセックスをしないのはあり得ないって考え方なんだよね。

    足立紳:あり得ないとまでは言わないし、それは映画を作る時の話でしょう?

    晃子:「アンダードッグ」って映画でも、森山未來さん演じるボクサーが瀧内公美さん演じるシングルマザーの風俗嬢とするんですよ。「ストイックにボクシングやってるのに、なんでそういうシーンがあるんだ。余計だ」って意見もすごく多かった。でも、紳は必ずセックスを入れるんですね。「百円の恋」も「お盆の弟」もそう。入れたいんでしょ? 人間は「食う」「する」「寝る」だから。

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    足立紳:人間として、ほとんど当たり前のことなんでそういうシーンは入れたい。

    晃子:でも、しない家庭もいっぱいあるんだよ?

    足立紳:家庭内でしないだけかもしれない。どこかではしてると思うけどね。もちろんしない人も、したいと思わない人がいるのも理解はしているつもりだけど。

    晃子:紳は「セックスしないと夫婦じゃない」っていう、すごく大きい軸がある気がする。そこを流せないんだよね。別に性欲が強いわけでもないし、セックスに執着があるわけでもないし、サラッとしたもんだけど、「しなきゃ」って思いが強いんだよね。

    足立紳:その思いはちょっとあるかもしれない。「喜劇 愛妻物語」が公開されたときのように、また気持ち悪い男って言われそう(笑)。

    ――コミュニケーションのひとつと捉えているのでしょうか。

    晃子:コミュニケーションのひとつというより、コミュニケーション=セックス。

    足立紳:セックスしたあとって、すごい仲良くなるんですよ。

    晃子:そうでもないよ(笑)。それこそ気持ち悪いこと言うな!(笑)

    足立紳:1週間ぐらい、空気が全然違うんですよね。俺はあの空気がすごくいいなと思ってて。

    晃子:全然空気なんて変わんねーよ!(笑)1週間空気が変わるだなんて、なんかすごいセックスしてるみたいじゃん(笑)。

    足立紳:いや、中身は置いといてさ……。

    晃子:マストなんだよね。

    足立紳:そのほうが仲良くなるっていう、単純なことですよ。

    晃子:でもこの人、拒否しても絶対折れないんですよ。普通は断ったら「わかった。疲れてるもんね」ってなるじゃないですか? でも「ちょっとだから」「10分で終わるから」ってまぁ粘る粘る。基本ゲスなんですよ。「己の欲求を満たすまで折れないのは、モラハラだ」ってママ友に言いふらしてやった(笑)。

    足立紳:でも、そんなに頻繁に求めないでしょ。様子を見計らって言う。疲れてそうなときは絶対に言わない。

    ――どうしてもセックスしたい孝志が、恭子の機嫌を取るためにクリームパスタを作るシーンもありましたね。でも、恭子からは「脂っこいのは好きじゃない。それはあなたが好きなパスタでしょ」と一蹴されてしまう。ああいう男の勘違いも面白いですよね

    晃子:そうそう(笑)。

    足立紳:断るための口実として、撒き菱をどんどん撒いてくるんですよ。「玄関の靴が揃ってない」とか、普段だったら絶対に注意してこないところも指摘してきて。そうやって断ろうとする。

    晃子:それぐらい嫌だってことだよ。もっと愛されるようにしなきゃいけないんじゃないの? 余計なひと言を言わないようにするとかさ。

    足立紳:その「余計なひと言」がわかんないんだよ……。

    ――逆に、妻はしたいのに夫が応じてくれない夫婦も登場します。

    晃子:これもママ友から聞いた話で、ちょっと切なくなって。

    足立紳:男性側が断られるのだって切なさは一緒ですけどね。

    晃子:逆に子供が成人するまでは離婚しないけど「セックスは家に持ち込まないで外注してほしい」って言ってるママ友もバリバリいます。

    足立紳:なんでそうなっちゃうのかよくわかんないけどね。俺はそうならないように、相当努力している自負はある(笑)。

    晃子:また自画自賛が始まった(笑)。

    足立紳:この小説でも罵声を浴びせ合う場面がありますけど、俺はあそこまでは言わないんですよ。でも、彼女はあれくらいのことをガンガン言ってくるんで。それでも俺、一生懸命コミュニケーションを取ろうとしてるからね? それにいつも思うんですよ、「まったく求められなくなったら、どんな気持ちになるんだろう」って。

    晃子:そのセリフ、よく言ってるよねー(笑)。「俺、もう求めねーぞ! 俺が求めなかったらお前のことなんか誰も求めねーんだぞ!」って。何の脅しだよ(笑)。

    足立紳:アキのことをお前なんて言わない。殺される。でも、そうしてやろうかなって思うこともあって。

    晃子:今はマッチングアプリがあるから、どうとでもなるんだよ。

    足立紳:そうやって、すぐ「マッチングアプリしたい」って言う。

    晃子:別にしたいわけじゃないよ。でも、20歳から付き合ってるから、お互い飽き飽きなんだよね。それに、この人は撮影とか舞台挨拶とかワークショップの後に飲みに行けるけど、私は子供を置いて行けないから自由もない。「誰かと喋りたいな」って思いながら、ひとりで台所で飲むか、子供連れて公園でママ友と飲むしかない。ガス抜きがしたいわけ。

    足立紳:よっぽどガスが溜まってるんだろうなと思ったことがあって。この前、僕と妻と息子の格闘技教室の先生で飲んだ時、セックスの話ばかりしてたじゃない? 俺、さすがに引いたからね。

    晃子:その先生、すごいマッチョだし、かっこいいし、モテるだろうに「彼女がずっといないんです。結婚したい」って言うんですよ。で、「どれくらいいないんですか?」「3年です」「え、どう処理されてるんですか?」って。

    足立紳:それがすごいしつこいから、俺、もう恥ずかしくて。はっきり言って、飢えてるように見えたからね。先生もびっくりしてたよ、「え、何言ってるんだ、この奥さん」って。

    晃子:まぁ、セックスは大事ってことだよ(笑)。



     

    親から構われた結果、無職でも心が折れなかった夫。共働きの親のもと、人に頼らない生き方となった妻。親子関係が、それぞれの子育て観にも影響を及ぼす──

    ――作中では、子育てについても書かれています。孝志と恭子の息子は、発達障がいの疑いがある小学1年生。足立さんの息子さんも、自閉スペクトラム症と診断されました。コロナ禍では大変な思いをされていたようですね。

    足立紳:一昨年の4月、小学2年生に上がるタイミングで休校になったんですね。最初の緊急事態宣言の時です。その時に、向き合う時間がぐっと増えて「この子、すごい扱いづらいな」と思って。学校から漢字の宿題を出されていたんですけど、大した分量でもないのに書き取りをさせるのがすごく大変で、癇癪を起こすようになって。「公園でみんなが遊んでいるから行こう」と誘っても、「嫌だ」って言うんですね。で、一度「嫌だ」というのが脳に入っちゃうと、もうテコでも動かない。

    晃子:漠然とした不安があるんだろうね。コロナが何だかわからないし、多分空中に菌みたいなものがフワフワ浮いてると思ってるんじゃないかな。そういう漠然とした怖さがあるから、この部屋から出ないんですよ。コロナ以外でもとにかく知らないこと、初めてのことへの不安が極端に強い。5歳離れたお姉ちゃんは中1だったんですけど、同じように休校になって、みんなでこの家にいて。子供たちが外に出ないから、私たちは逃げるように散歩ばかりしてたよね。

    足立紳:娘は娘で、友達と喋りながらオンラインゲームをするのにハマっちゃって。それも腹が立ってくるんですよ、「いつまでやってるんだ」って。ものすごい乱暴な口調だし。あの頃はファミレスも開いてなかったから、家で仕事をせざるを得なかったんですけど、息子と娘が目に入ってくるから全然手につかなくて。そうこうしているうちに、息子がどんどんヤバイことになってきて、彼女がいろいろ調べて、発達障がいをすぐに疑って。

    晃子:もともとグレーかなと思っていたんです。保育園も行きしぶりがあったし、ママ友と話していても「うちの子、なんか違うな、育てにくいぞ」って。しかも、休校期間に暴れてぶったり蹴ったりしてくるようになったんだよね。特に私への暴力がひどくなった。

    足立紳:そう。

    晃子:これは様子がおかしいと思ったけど、どこに問い合わせても新規受付していなくて。いろんなところに電話しまくって小児心療内科に無理くり頼んだんだよね。で、診察を受けたら「自閉スペクトラム症」って診断されて。

    足立紳:診断書を書いてもらって、療育(発達支援センター)に通うようになったんですけど。でも、予期せぬ出来事にまったく対応できないんです。保育園に通っていた時も、帰りにちょっと「夕飯のおかずを買うよ」と言うと、もうウワーンとなってしまう。

    晃子:いつものルートじゃないと不安になっちゃうんだよね。

    足立紳:今もルーチンが崩れると、激しく癇癪を起しちゃいますね。

    ――コロナ禍では、今までとガラッと生活が変わるわけですから、息子さんも不安だったでしょうね。

    晃子:本当にそうですね。我々も不安だったけど、言語化出来ない子供は常に漠然とした不安があったと思います。それまでは保育園や学童に行っていたから、子供といるのは実質朝の2時間と夕方5時から寝てしまうまでの夜9時までだけだったけど、日中ずっと一緒にいると「あ、これは大変だ」と思って。そこで初めて、うちの子の育てづらさを認識した感じです。

    足立紳:それまでは息子の特性をよくわかってなかったから、「間違えたら漢字を10個書け」とか九九を少なくとも10個問いてから遊べとか押し付けちゃってて。

    晃子:今思えば、そのやり方はダメだったんだよね。

    足立紳:こういう言い方は良くないと思うのですが、その時はなるべく「普通」に近づけたかったんですよね。発達障がいに対して、普通の子たちのことを「定型」って言うようなんですけど、世の中は定型の人たちに合わせて作られているので、この先どうやってもうちの子は苦労しちゃうなと思って。今はもう諦めも入ってて、なんとかコイツなりの生きやすい場所を見つけられればいいなと思ってますけど。

    晃子:諦めっていうか、トリセツがあればいいんだよね。今まで私たちがやってきた方法論が通じないから。ほんとは1番いいのは世の中がこういう子でも住みやすくなることだと思うけど、そうなるのは100年くらい先なんじゃないかって思う。

    足立紳:不登校の子がいっぱいいるのは知ってたし、ウチらの頃から登校拒否の子っていたじゃない? でも、いざ自分の子が不登校になると、「こんなにテンパっちゃうんだな、俺は」「俺、こんなにダメだったんだ」っていうのはものすごく感じましたね。自分自身は敷かれたレールの上を歩いてきましたけど、レールから外れることにここまで自分が不安になるとは思わなった。映画なんか作りながら、色んな生き方があるなんてカッコつけたこと言ってるくせに自分の身に降りかかってくると受けきれなくて。情けないですけど。

    晃子:学校に行かないから本人がラクかと言ったら、そうじゃないしね。すごく苦しむじゃん。学校行かなきゃいけないのに、行けない自分がいるから。鬱っぽくなって、毛布にくるまってご飯も食べなくなっちゃう。それを見ているのもつらくて。

    足立紳:かわいそうだよね。

    晃子:解決策はないんだけどね。

    ――そういった子育てのことも、小説に書かれていますね。しかも、子供のことが夫婦の関係にも影響を及ぼします。

    晃子:夫婦ふたりの頃は、夫婦間だけのことでケンカしてたけど、子供がいるとそれだけじゃすまなくて。子供に対する考え方も違うから、お互いの人格否定も入っちゃうし、なんなら相手の親の育て方とかの否定も入ったりして、もうドツボにはまっちゃいます。かなり深いケンカになっちゃう。お互いが子供のことを真剣に考えているがゆえに。子供が荒れ始めたことで、私たちの関係も悪くなっちゃって。でも私、こういう子供や夫の話をママ友にバンバンするんですよ。そうすると、大抵の人が身内に誰かしらいるんですよね。「弟がそうだった」とか「親戚のおじさんがそうだった」とか。今みたいに診断がついてない時代も、誰かしら身近にそういう人がいたんだなって。それで理解のあるママ友たちががんがん助けてくれる。

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    足立紳:男親はそういう逞しさはないね。それに俺もおそらく発達障がいだろうね。息子と一緒にいろんな療育とか病院に行って喋ってると、「あ、俺も完全に当てはまる」と思って(笑)。今度診断してもらおうと思ってるんですよ。あと、映像作品では発達障がいらしき人はよく出てくるのに、それを言葉として出してドラマのテーマとすることには企画者たちはまだまだ抵抗があるようで、企画書を書いてもなかなか成立しない。この小説ではそれが少しでもやれたのは個人的には良かった。

    晃子:ウチは、調べたら全員なにかしらの診断がつきますよ(笑)。そういう一家のドラマや映画も面白いと思う。正解の形なんてないけど、一つ一つの形を提示していくしかないんだろうし。

    ――子育てに悩んでいる方が読んでも、勇気づけられるのではないかと思いました。親子関係で言えば、孝志とその母、恭子とその母の関係も描かれていますよね。孝志は親から全肯定されて育ちましたが、恭子はそうではない。そういった親子関係が孝志と恭子、それぞれの子育て観にも影響を及ぼしています。

    晃子:紳のお母さんは、紳のことが大好きなんですよね。私と結婚した頃、紳はずっとヒモだったんですけど、「晃子ちゃん、紳と結婚できて良かったわねー。面白いでしょう? 最高よ、あの子は」って。あの頃、紳は35歳ぐらいで無職だったから、「いやいや、あなたの息子、まあまあヤバいけどな」って思ってましたけど(笑)。で、向こうが絶大な愛で来るから、この人もお義母さんを頼るし、それを見てるとこっちは腹が立つし(笑)。一生懸命、自立した人生を目指してきた身としては(笑)

    ――その一方で、恭子は子育てをするうえで、孝志の母親のように息子を全肯定するのが正解なんじゃないかと思う。そういった子育ての逡巡も描かれています。

    晃子:ウチは、両親が共働きですごく忙しかったんですね。私はあんまり構ってもらったことがなくて。でも彼は全力で構われてきて、その結果、無職でも心が折れなかった人間ができあがったのかなと。私は他人に頼らない生き方を目指していたし、一応は自立した社会人だったけど自己肯定感がとても低いんです。自分が子育てしてみると、「この人みたいに育てられたほうが良かったのかな」って悩んだんですよね。子育てって悩みの連続じゃないですか。子供一人一人で育て方が違ってくるから正解もないし。

    ――(小説の内容が)夫婦の話から子供の話、母親世代の話になっていく変遷、その構成も面白かったです。

    晃子:自覚してなかったけど、確かに。

    足立紳:してなかったんだ。

    晃子:今まさに子育てをしているお母さんは、本を読む時間なんてないと思いますけど、読んでほしいなぁ。寝る前とかに朗読で聞いてもらえたらいいなー(笑)。産前産後や育児中は目が疲れるから。読むと、百人百様いろんな意見があると思うんですよ。みんな生き方が違うから、感情移入できる人もいればできない人もいると思う。読んだ方から、そういう話を聞くのも楽しいですよね、きっと。

    ――具体的な結末については言えませんが、ハッピーエンドと捉えていいのでしょうか。

    足立紳:自分としては、めちゃくちゃハッピーエンドのつもりです。恭子の一皮むけた姿を見せたかったので。

    晃子:だとしたら、これは恭子の話かもね。孝志は変わってないよね。

    足立紳:孝志も変わったよ。そういう意味でもハッピーエンド。結婚も離婚も悪くないなと思ってほしいです。

    したいとか、したくないとかの話じゃない
    著者:足立紳
    発売日:2022年01月
    発行所:双葉社
    価格:1,870円(税込)
    ISBNコード:9784575244847

    2022年1月21日~23日公開 双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」より転載(取材・文:野本由起 撮影:山上徳幸)




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