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  • 小さな地獄にゾワゾワ…真面目に働いても報われない日々の孤独を描いた『まじめな会社員』

    2022年01月16日
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    中野亜希:講談社コミックプラス
    Pocket

    まじめな会社員 1
    著者:冬野梅子
    発売日:2021年12月
    発行所:講談社
    価格:715円(税込)
    ISBNコード:9784065259283

    すごくつらい(けど謎の吸引力がある)漫画。
    それが読み切り『普通の人でいいのに!』が大きな話題になった冬野梅子先生の最新作『まじめな会社員』だ。

     

    単調で楽しくない毎日に突然訪れた運命の出会い。しかし……

    菊池あみ子は30歳の契約社員、彼氏はもう5年いない。

    友達と呼べる人は多くなく、彼ら彼女らも同じようなスペックのようだ。ネットショップのメールサポートの仕事は楽しくもないけど不満もないし、婚活疲れした友達とふざけていると安心する。

    マッチングアプリで出会いを求める。マッチングして会うまではわりとスムーズで、1日に2件のデートをこなすこともある。

    でも、いざ男性と食事に行くと出てくるのは「すごいですね」「そうなんですか」「行ってみたい」「なんかわかるかも」定型文ばかり。
    1年以上アプリをやっていても彼氏はできないし、もう自分でも彼氏が欲しいのかどうかわからなくなってきた。

    定型文じゃない自分の気持ち……?

    いやさすがにそれは言っちゃダメだ。結局定型文トークに戻るあみ子。

    しかしあみ子も、他人に関心を持つことがある。それが職場の女子・小山さんだ。

    小山さんが話しかけてくれても、アプリで培(つちか)った定型文コピペトーク術に慣れきったあみ子は、好きなものの話を自分の言葉で語ることができずアタフタ。

    小山さんは、そんなあみ子が自分と同じ連載を読んでいると知って、読書会を紹介してくれる。やさしい。

    そこで出会ったのは、いつも読んでいるWEBサイトで書評を書く「今村直之」だった。

    読書会で取りあげられていた本の解釈が彼と同じ! しかもうまいこと核心をついちゃった感じ……?

    すっかりテンションの上がったあみ子は、今村のインスタアカウントを聞き出すことに成功。
    しかし今村にはすでに特定の相手がいるようで……。

     

    シンプルな絵なのにハイカロリー

    あみ子は東京に住み、イベントや読書会に気軽に通う。常連同士で仲良くできる、行きつけの喫茶店だってある。気ままに自由を謳歌しているように見える。しかし、あみ子の自己評価は高くない。個性的でかわいい小山さんが読書会に行くのはギャップがあって素敵だと思うのに、自分のことはそう思わない。

    周囲から自分が何となく低く見られていると感じるのはわかる。でもちょっと卑屈すぎやしませんか……?

    こんな風に、なんとなく頭をよぎったことがあるけれど、はっきりと言語化するのが難しい(し、するまでもないし、したくない)気持ちや、ちょっとした仕草ににじむ気持ちや場の雰囲気が全部、くまなく描写されているのが面白くて、それゆえ怖い部分もある。本作の絵柄はとてもシンプルで、あみ子も一見普通すぎるくらいに見えるのに、「さらっと読める日常エッセイマンガ」にならないのは、ある意味不穏なその空気感のせいだ、きっと。

    髪の毛をピンクにしても似合っちゃうし、「そんなわけあるかい」って謙遜(けんそん)をしても、卑屈じゃなくて可愛らしい。これだけで「小山さんは可愛くて個性的、描写されていない部分でもきっとモテモテ」だろうと察しがつくし、

    自虐、からの臆病とか、

    キメすぎず、おしゃれに見られたいけど、小山さんに買った本を見せたくて、イベントなのに荷物が大きくなっちゃう感じとか(しかも猫背)。
    さりげないコマから、あみ子のプライドの高さや、一生懸命ムリしている感じもバチバチ伝わる。登場人物がどんどん立体的になってくる。情報量が多くて、ピリッとする描写がちょいちょい出てくるから読むのにすごく時間がかかる。表紙からは、読むのにこんなにカロリーを消費する漫画だとは思わなかった。

     

    小さな地獄にゾワゾワ

    まじめに働く! それでも報われない日々の孤独。いつまでこれ続きますか? 令和の生き地獄コメディ、開幕。

    とあるように、あみ子の世界には小さな地獄が地雷のように散らばっている。
    道化を演じたほうがコスパが良いからと、「いっそのこと『変人・菊池さん』に徹したほうが」なんて強がっていたあみ子。

    しかしその裏でこれである。

    演じるどころか、ただのリアル道化だ。あみ子だけがそれに気づいていない。

    知り合い同士が顔を合わせたとたんに場の空気が華やぎ、自分は透明人間のような扱いを受けたり。

    あみ子がいる時といない時では、友人たちの態度も違う。

    どうも、周囲の人たちはあみ子にひどいことをしている自覚はない気がする。ただあみ子の思う自分と、他人から見たあみ子像にギャップがあるようなのだ。読んでいてゾワゾワする。
    先ほど、あみ子の自己評価は高くないと書いた。しかし、実は謙虚なようでいて自己評価が高く、世の中が色々見えているようで身近な周りが見えていないのかもしれない。そんな描写が出てくるたびに心が振り回され、えぐられるのだが……なぜか面白くて気になって、やめられない。

    物語はこの後、コロナ禍に突入する。年明けには2巻も出たという。あみ子の人間関係、生活がどのように変わっていくのか、ゾワゾワしながら続きを待ちたい。

    まじめな会社員 2
    著者:冬野梅子
    発売日:2022年01月
    発行所:講談社
    価格:715円(税込)
    ISBNコード:9784065264485
    • (レビュアー:中野亜希)


      ※本記事は、講談社コミックプラスに2022年1月5日に掲載されたものです。
      ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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