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  • 落合陽一が思考するメディアとしての「本」と「書店」

    2022年01月08日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    メディアアーティストとして、また科学や実業など幅広い分野で活躍する落合陽一さん。高齢化社会やテクノロジー、教育など、これからの時代を考えるヒントとなるさまざまな著作も話題となっています。

    そんな落合さんが、「本」や「書店」というメディアをどのようにとらえているのか、ご自身の体験をもとに、エッセイを寄せていただきました。

    落合陽一
    おちあい・よういち。メディアアーティスト。1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。現在、筑波大学図書館情報メディア系准教授/デジタルネイチャー開発研究センター、センター長。ベンチャー企業や一般社団法人の代表を務めるほか、政府有識者会議の委員等も歴任。アーティストとして個展も多数開催し、国内外で受賞多数。著書に『半歩先を読む思考法』(新潮社)など。

     

    書店と祝祭

    小中学生の頃、時間を見つけては書店に行くのが好きだった。六本木生まれ六本木育ちの自分の行きつけは六本木交差点周辺にあるいくつかの書店だった。漫画を買ったり小説を買ったり、哲学書やら詩集やらを買い漁ったりした思い出が残る。

    高校生になって移動範囲が広がって、渋谷や秋葉原の書店にも行くようになった。大学生になったとき、一日一冊本を読むと決めてからは、大学の行き帰りで読む本を探すために寄り道する日々だった。その全てが素晴らしい思い出だ。

    そして、大学院生になる頃、書店で本を買わなくなった。電子書籍とネット通販で本を手に入れることが急に増えたからだ。それはタブレットの普及とともに顕著になっていき、書籍を読むより論文を読むことの方が増えてから、あまり書店に出入りすることがなくなった。

    自分の買う専門書が書店に置いてあることがほとんどなくなってしまったのと、専門書にまとめられていることよりも原著論文で書かれていることの方に関心が向かうようになったからだ。つまり興味はどんどんニッチなものになっていき、流通に乗るものに興味がなくなっていった。

    大学教員になる頃、違った楽しみが生まれ出した。本を書く楽しみである。一般の書店で買える本はあまり読まない自分が一般書店に並ぶ本を書く矛盾を感じながら、コミュニケーションの場所としての書店の良さを感じ始めた。

    自分の読者や書店員さんとの対話は心地が良いし、社会とのコミュニケーションとしての本のあり方を考えるようになった。自分が調べたいことを調べ、興味があることについて考え、それを定期的にアップデートし、発信する。その発信に興味がある人に届ける。

    本はコストの安い娯楽や文化活動の一つだと思う。一冊読むのに3時間の人も10時間の人もいるかも知れないが、一時間あたり数百円。自分は大衆向けのコストを考えるときによく映画の価格と比較するのだけれど、映画よりも飲み会よりも安い娯楽や文化活動である。

    そういった意味で、自分というフィルターを通じて得たものをある程度アーカイブ可能な形として、社会還元し一人一人に届ける機会としては格差を乗り越えることのできる優れたメディアだと考えている。

    またコミュニケーションの発信地点としての書店のあり方を考えることが増えた。幸いなことに書店でサイン会などをしたり、自分の興味のある本棚を作らせてもらったり、小学生とワークショップしたりすることもあった。

    そういった意味でメディアとしての書店の楽しみ方が広がっていった。そこにしかない対話や一期一会の体験や実験はビビッドな知識で、どんな本にも論文にも書かれていない悦な体験だからだ。

    最近隠れた楽しみがある。本のカバーを外したときの表紙のデザインである。メディアアーティストとして機械や計算機を使った芸術をやっていると常に壊れ、失われ、忘れ去られていくものと向き合うことになる。

    それゆえ、紙の保存性というものの強さを感じることが大きい。そこをカンバスにしてお買い上げいただいた方々の手元に届けることが楽しい。いつか僕の本を本棚に揃えると一つのアートスペースが出来上がるようにしたい。そういった意味では本の物理的な所有感に興味がある。

    以前写真集を販売させていただいたことがあった。飾る写真集にしたかったから、本として綴じることはしなかった。アクリルケースに入れて、常に飾って見られるようにした。

    これから先も物理的な芸術メディア、情報メディアの入れ物としてギャラリーだけでなく、書店でも展開できる形に探求を続けていきたい。やがて物理的な本や本に模した形態を持った作品が、そういった生活の中に共にあるものとして受け入れられていくことを考えている。

    それは書店を通じた祝祭の共有、手に取るものとしての民藝性の探求や身体性回帰のコミュニケーションなのかも知れない。これからもそういったメディアとしての書店を思考していきたい。

    (「日販通信」2022年1月号「書店との出合い」より転載)

     

    著者の最新刊

    落合陽一34歳、「老い」と向き合う
    著者:落合陽一
    発売日:2021年12月
    発行所:中央法規出版
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784805883877

    落合陽一氏が「老い」と高齢化にフォーカスした初の著書。解剖学者・養老孟司氏との対談を皮切りに、デジタルネイチャー(AIやロボットとの共存が当たり前の時代)において、「老い」がどう変容していくか思考する。“豊か”な生や老いを享受するためのヒントが詰まった1冊。

    〈中央法規出版 公式サイト『落合陽一 34歳、「老い」と向き合う』〉より

     

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