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  • 「私の人生は、私が決める」勝ち気な華族令嬢と怜悧な書生、対照的な2人の明治謎解き譚|永井紗耶子『華に影 令嬢は帝都に謎を追う』

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    2022年01月07日
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    双葉文庫編集部
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    内容について語る前に、まずいっておきたいことがある。『華に影 令嬢は帝都に謎を追う』は、2014年に幻冬舎文庫から刊行された書き下ろし長篇『帝都東京華族少女』を改題し、大幅に加筆修正した作品だ。と書くと、『帝都東京華族少女』を既読の人は、本書を手に取る必要はないと思うかもしれない。だが、待ってほしい。“大幅に加筆修正した”という言葉に偽りなし。2作を読み比べて、違いを確認してみてはどうだろうか。もちろん未読の人は、何も気にすることなく読んでほしい。なにしろ永井紗耶子の作品の中で、もっともエンターテインメントの方向に振り切った、面白い作品なのだから。

    明治39年の帝都東京。商人から男爵位を得た当代切っての大富豪・千武総八郎には、斗輝子という孫娘がいた。お転婆で好奇心旺盛な、16歳の女学生。総八郎が面倒を見る書生たちを、からかっては楽しんでいる。

    そんな斗輝子だが、新たに書生となった帝大生の影森怜司に軽くあしらわれ憤慨。しかしふたりは総八郎の命により、黒塚隆良伯爵の夜会に参加させられた。斗輝子を千武家の名代にした祖父の意図はどこにあるのか。疑問を抱きながら行った夜会だが、刀を抜いた浪士が乱入した。鮮やかな腕前で怜司が浪士を捕らえるが、その騒動の最中に黒塚伯爵が、何者かによって毒殺されるのだった。

    以後、黒塚伯爵と関係のよくなかった総八郎の疑いを晴らすため、怜司と斗輝子が事件を調査する。そう、本書は明治時代の華族の世界を舞台にしたミステリーなのだ。チクチクとやり合いながら、真相に迫っていく、ふたりの行動が楽しい。

    また、冒頭の描写も注目に値する。明治18年の夜会で、後に黒塚伯爵の後妻になる、八苑重嗣子爵の妹の琴子を巡る一幕が、実に意味深なのだ。その場面について考えながらページを捲り続けるのだが、毒殺事件の犯人はあっさりと判明する。しかし、がっかりする必要はない。終盤に至ると、総八郎や怜司まで絡めて、驚愕の真相が明らかになるのだ。永井紗耶子、これほどのミステリー・センスを持っていたのかと感心してしまった。

    さらに、一連の事件を通じて変わっていく、斗輝子の姿も読みどころだ。商人上がりの華族と馬鹿にされることはあるが、千武家という揺り籠の中で、気ままに暮らしていた斗輝子。だが事件の真相を知ったことで、現実の世界の醜さを知る。そして傷つきながら、現実に立ち向かう生き方を選択するのだ。本書は優れたミステリーであると同時に、優れた成長物語にもなっているのである。

    華に影
    著者:永井紗耶子
    発売日:2021年12月
    発行所:双葉社
    価格:726円(税込)
    ISBNコード:9784575525212

    (レビュアー:細谷正充)

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