• fluct

  • 何度も襲いくる「死」の運命から彼女を救え。タイムリープ・サスペンスホラー『カイロスの猟犬』

    2021年12月18日
    楽しむ
    中野亜希:講談社コミックプラス
    Pocket

    カイロスの猟犬 01
    著者:長田龍伯
    発売日:2021年11月
    発行所:講談社
    価格:715円(税込)
    ISBNコード:9784065258521

     

    過去に戻ればやり直せるのか?

    誰にでも、「あの時、ああだったら」後悔したことや、過去に戻ってやり直したい経験があるだろう。しかし、過去に戻れば必ず、理想通りの未来にたどり着けるものだろうか。
    『カイロスの猟犬』は、最愛の彼女・小鳥遊双葉を殺された主人公・幸(さいわい)春道が、彼女を死の運命から救おうとタイムリープを繰り返す姿を描くサスペンスホラーだ。

    幸春道は、幼なじみで初恋の相手・小鳥遊双葉に高校で再会する。子どもの頃よりずっとキレイになった双葉に春道はなかなか近づくことができない。文化祭を前に、春道は双葉に告白するがあっさり振られてしまう。春道は散々な気持ちで担任の「岡ポー」の雑用を手伝う。

    しかし、双葉は双葉で、最近の春道をよそよそしいと感じており、突然の告白に動揺していたのだ。

    双葉のほうから文化祭を一緒に回ろうと誘ってくれるなんて……! 夢心地の春道。

    そんな2人に目もくれず、血相を変えて走っていくクラスメイト達。そういえば、岡ポーに「差し入れがあるからクラスメイトを教室に集めておいて」と頼まれたんだった……。慌てて教室に戻った春道と双葉が、教室で目にしたものは……。

    血の海になった教室と、それを平然を見下ろす岡ポーだった。

    状況を把握する間もなく、双葉は岡ポーに殺され、春道も瀕死の重傷を負う。

    この日、30人もの命が岡ポーによって奪われた。岡ポーは自ら命を絶ち、事件の真相が明らかになることはなかった。

    一命をとりとめた春道は、1年以上たっても心身の深い傷に苦しむ辛い日々を送っていた。
    立つことも歩くこともできなくなった体。日夜襲い来るフラッシュバック。「どうして助けられなかった」「自分だけなぜ生き残った」という後悔。大好きな双葉はもう戻らない。惨劇からただ一人生き残った春道を世間は優しく励ますが、心が癒(い)えることはない。

    そんな時、春道のもとに不思議な“鍵”が届く。

    不思議な鍵をそこにあったマグカップに挿すと、なぜか解錠の手ごたえを感じる。気づくと春道は、あの文化祭の前日に戻っていた。自分で立てる無傷の体、手には岡ポーに頼まれた荷物。あの日、双葉が殺される少し前に時間が戻っている。

    もしかしたら、今度は岡ポーの凶行を止めることができるかもしれない。春道は奔走するが……。

    双葉はまた殺され、さらにたくさんの生徒も死んだ。春道自身も、過去に戻る前よりひどいケガを負っていた。過去に戻れば何が起きるか知っていたのに、また救えなかった……。絶望する春道の前に再び現れたのは、あの鍵だった。

    戻るたびに変わる過去。春道は「起きるはずの殺人」を阻止し、双葉を救うことができるのか?

    止まらない「カイロスの猟犬」とは? 双葉が執拗に狙われる理由は一体?

     

    何度も襲いくる「死」の運命

    タイムリープで過去をやり直せるなら、致命的な失敗や不運は難なく避けられそうなものだ。しかし、そうはいかないのが本作だ。

    飛行機事故を予知して死を回避した若者たちが、逃れられない死の運命に次々とさらされる映画がある。一時的に死から逃れることができても、死神のリストに載ったものは近いうちに必ず死ぬ。どんなにあがいても、「歴史を修正する」かのような力が働くのだ。本作も同様に、一度は振り切ったはずの死の運命が、形を変えて何度も襲いくるのが厄介であり、その予測のつかなさが面白いところだ。

    ところで、タイトルにもある「カイロス」とはなんなのか。

    ――ギリシア語では、「時」を表す言葉としてκαιρός (カイロス)と χρόνος (クロノス)の2つがある。前者は「時刻」を、後者は「時間」を指している。
    また、「クロノス時間」として、過去から未来へ一定速度・一定方向で機械的に流れる連続した時間を表現し、「カイロス時間」として一瞬や人間の主観的な時間を表すこともある。内面的な時間である。(Wikipedia)

    時計が刻むのが不変の「クロノス時間」で、個人の中に流れる主観的な時間が「カイロス時間」ということのようだ。過去にタイムリープしても春道の記憶は消えない。しかし、起きるはずのことを知っていても、思うように双葉を守ることはできない。過去の鍵を開けても、望んだものがそこにあるとは限らないのだ。カイロスとは、精神のみが過去へ何度も飛ぶ、タイムリープに挑む春道の置かれた状況のことではないだろうか。

     

    真実のため「戻る」

    双葉にその記憶がなくても、春道は最愛の恋人が無残に殺される姿を何度も目の当たりにする。その恐怖や、傷ついた記憶、彼女を救えない無力感が春道の中に蓄積していく。さらに真実を知ることで、死ぬより辛い記憶を持つことになるかもしれない。しかしそれでも春道は、双葉を救うために進む、いや、「戻る」。
    繰り返す歴史に、2人の幸せな出口は見つかるだろうか。どうか見つけてほしい。

    (レビュアー:中野亜希)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2021年12月5日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




    タグ
    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下

  • GoogleAd:007

  • ページの先頭に戻る