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  • 佐渡島庸平×山内康裕に聞く『学べるマンガ100冊』!プロが選んだ「楽しみながら学べる」マンガとは!?

    2016年07月05日
    楽しむ
    日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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    楽しみながら学ぶ

    ―今回収録の100冊はどのような基準で選ばれたのですか。

    山内:「これも学習マンガだ!」は「世界発見プロジェクト」と謳っています。これは里中満智子先生がぜひ入れたいとおっしゃった言葉で、知らない国のことや職業など多様な価値観、新しい世界を発見できるきっかけになるものとしてこの文言を入れています。「これも学習マンガだ!」の「も」も重視していて、いわゆる参考書の代わりになるものでなく、学びにつながるような作品も学習マンガといってもいいのではという切り口で選んでいます。選書については議論を何度も重ねながら、そういう趣旨に則ったマンガを選者陣で数十作品出して、それをもとに会議をして100作品選んでいきました。

    佐渡島:何をもって学習というかがすごく難しいのですが、マンガの魅力といえば、人間関係のトラブルを経てわかるようなことも、マンガを読むことで先に気付くことができる。学校では教えないことだけれどマンガで学んだなという経験が自分の人生の中でもたくさんあります。もちろんそれは小説にも言えることですが。

    ―社会や多様性といったジャンルは、従来の学習マンガでは捉えられていない部分ですよね。

    山内:そういう意味でも算数や理科といった教科とは違った切り口でジャンルを作りました。プロジェクトではマンガ・エデュテインメントという言葉を使っています。日本ではあまり浸透していませんが、edutainmentは海外では比較的よく使われている、「楽しみながら学ぶ」という造語です。それを今回、マンガを通じて日本でも展開しようと。

    ―書籍として一冊にまとめる話は以前からあったのですか。

    山内:書籍化の話は以前からいくつかいただいていたのですが、今回のお話では全作品を紹介できることが大きかったです。100作品すべてを見てもらうことに意味がありますし、そこから「学べるマンガ」の全体像が見えてくると思うので。

    ―各作品をそれぞれ選者の方が紹介する形ですね。

    山内:あらすじなどを中心とした作品紹介はネット媒体含めていろいろなところで見られますが、今回はなぜその作品が学びに生きるのか、なぜこれを学習マンガとして選んだのかといった独自の視点からコメントをもらうようにしています。

    佐渡島:作者によっては、この読まれ方はうれしくないと不満に思う場合もあるでしょうし、誰かが何かを一方的に語る場合、そんな気持ちはなくても偉そうだったり上から見ていると取られがちなので、率直な感想は語られにくい。今回も「これは学習マンガ」と選定すること自体が偉そうなんです(笑)。その行為が反発を生むだろうということを選書委員が引き受けた上で、その感想がたとえ他の人と違ったり誤読があったとしても、自分にとってこのマンガがどういう意味があったかをそれぞれが語っています。誰かの心がこういうふうに確かに動いたよという事実を知って、じゃあ私も読んでみようかなと思う人がいる可能性もあるのではないでしょうか。

    山内:選出した作品について、「これが学習マンガ?」と思った人がWEBサイトを見て「なるほどな」と思ってくれています。投げかけて確認してもらい、腑に落ちてくれるという流れはむしろ良ったですね。新旧にかかわらず、また少年少女、青年ものとバランスよく選ぶことができたのも、選者の方たちとの共同作業だから。世の中の誰がやったとしても一人だと難しいと思うんです。今回は佐渡島さんも含めて、マンガをいろいろな見地から俯瞰的に見ている方々に選書をお願いしています。多様な価値観が凝縮されて万遍なくいろいろな角度から選ぶことができたので、バラエティ豊かな選書になっていると思います。

    ―まさにマンガを知り尽くした方々が選書委員に名を連ねていますが、みなさんで議論を重ねられていかがでしたか。

    佐渡島:みんな読んでいるマンガは違うんだなと。かなりの作品数を読んでいる人たちが集まりましたが、完全にはかぶっていない。世代も違いますしね。

    山内:マンガ雑誌の“雑”感はやはりすごいなとバリエーションの豊かさを感じました。マンガを普段読まないお子さんやマンガを良しとしない親御さんもいるので、学習という切り口でみなさんと選書できたのは意味があったし、価値のあるリストができたと思います。この中から書店や図書館で置くべきものを選んでもらったり、お店の書店員さんが選ぶ「これも学習マンガだ!」という作品を一緒に並べてくれたりという動きも出てきています。この企画がマンガを読むきっかけになればうれしいですし、こういう職業があったんだとか、多様性のところではジェンダー論的な作品も含まれているので、「同じことで悩んでいる人もいるんだな」と共鳴できたり、得るものがあればいいですね。

     

    マンガで思いを共有する

    ―作品はジャンルごとに選んでいったのですか。

    山内:まずは100作品を選ぶことに意義があると思っていたので、ラインナップが出揃った後にグルーピングしていきました。「多様性」では、ろうやアスペルガー症候群などいろいろな障害をテーマにした作品、「歴史」だったら日本や中国、西洋とバリエーションがあります。書籍化にあたっては「予習」というナビゲーションのページを設けて、ジャンルを横断的に捉えた、さまざまな見方があるのだというところも伝えられるようにしています。またジャンルの中から代表的な一作品をピックアップして紹介していて、それも読み応えがあると思います。

    ―100作品を選ぶのは、大変な作業だったのでは。

    山内:大変でしたけれど、「あのマンガいいよね」「これもいいよね」とみんなで選んでいくのは楽しい作業でした。2016年も選書は行っていまして、秋に向けて追加作品を発表していく予定です。今後もいろいろな方と協力関係を結んで、より多くの読者に作品を知ってもらう場所を増やす活動をしていこうと考えています。

    ―『学べるマンガ100冊』と、紹介しているマンガをどのような読者に読んでほしいですか。

    佐渡島:友だちはいても、「自分の心をすべては見せられないな」という人が本の中に会話相手を探すのだと思うんです。学校に居心地の悪さを感じている小学校高学年から中高生が読んで、早く社会に出会いたいな、自分のことを受け入れてくれる大人や友だちと出会いたいなと思ってほしいですね。作品も常にそういう気持ちで作っています。

    山内:僕は今回『学べるマンガ100冊』が本になることで、大学生や20代後半の迷っている若い人に読んでもらいたいですね。マンガって高校生までは読んでいても、大学生になると少し離れる時期がある。そういう人たちが就職活動をするときなどに、もしかしたらヒントになるかもしれないと、この書籍を参考にマンガをもう一回手にしてもらえたら。誰にでもバイブル的なマンガが一冊はあると思うので、プロジェクトがそれを共有するきっかけになって、さらに盛り上げていければうれしいです。

    学べるマンガ100冊_2ショット

    (6月6日、株式会社コルクにて収録)

    『人生と勉強に効く 学べるマンガ100冊』の内容はこちら!

    『キングダム』も『寄生獣』も学習マンガ!?『人生と勉強に効く 学べるマンガ100冊』


    (「新刊展望」2016年8月号より転載)

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