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2020年から続く新型コロナウイルスの流行で、人々の生活や価値観が大きく変化した2021年。一方で、本を開くだけで無限に想像力と世界が広がる「文芸書」が、身近なエンターテインメントとして再認識される年でもありました。
ほんのひきだしでは「編集者が注目!2022はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。
児玉雨子(こだま・あめこ)
1993年神奈川県生まれ。作詞家。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドル、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に幅広く作詞提供。著書『誰にも奪われたくない/凸撃』(河出書房新社)。最新中篇「じゃあ何から産まれたかったの?」を「文藝」2022年春季号で発表予定。
ハロプロなどアイドルの楽曲をはじめ、アニメからキャラクターソングまで幅広く手掛ける作詞家の児玉雨子さんが、2021年1月、初小説「誰にも奪われたくない」を「文藝」春季号で発表しました。
コロナ禍で人との接触が減るなか、作曲家の主人公とアイドルの女の子とのつかず離れずの絶妙な距離感を“最適な他人”として描き出した、この上なくリアルタイムの文学で、読んでいてわくわくが止まりませんでした。
私が児玉さんの文章で特に魅力的だと思うのは、描写の解像度の高さや、一文を取り出したときの情報の凝縮感です。
例えば、業界の新年会で浅いつながりができてしまったグループLINEについて。
「次第にその場に居合わせた者しかわからない話の続きや符牒が折り重なっていった。その多くがひと言ずつの返信なので、メッセージがすかすかのジェンガみたいに倒れそうなバランスのまま堆く伸びてゆく。眺めているだけでも呼吸が浅くなってくるので、ありがとうございました、とお辞儀する美少女アニメキャラクターのスタンプを送って、グループの通知をすべて切った」(「誰にも奪われたくない」より)
画面から伝わってくる倦怠感や画がぱっと浮かんできて、おもしろいですよね!
その後、YouTubeなどの配信で口喧嘩を見せる“喧嘩凸”での奇妙なブラザーフッドを描いた攻撃力MAX短編「凸撃」を合わせて、『誰にも奪われたくない/凸撃』として7月に単行本化されました。
そんな児玉さんが2022年1月7日(金)に「文藝」春季号で発表するのが、「じゃあ何から産まれたかったの?」という不穏なタイトルの、母性への疑いをテーマにした中篇。
実の母娘関係がまったく破綻してしまった女ふたりが、疑似母娘として一つ屋根の下に暮らし、母と娘をやり直そうとしています。そこへ、母役の実の娘が妊娠した身で帰ってきて、「自分が子どもを産みたいのは母性なんかじゃない」と言い放つのですが、ではそこにあるのは何なのか? とても刺激と示唆に満ちた作品です。
ぜひ児玉さんの小説作品に触れていただけたら幸いです。
(河出書房新社 「文藝」編集部 矢島緑)