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2020年から続く新型コロナウイルスの流行で、人々の生活や価値観が大きく変化した2021年。一方で、本を開くだけで無限に想像力と世界が広がる「文芸書」が、身近なエンターテインメントとして再認識される年でもありました。
ほんのひきだしでは「編集者が注目!2022はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。
君嶋彼方(きみじま・かなた)
1989年生まれ。東京都出身。「水平線は回転する」で2021年、第12回小説 野性時代新人賞を受賞。同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。
「女性作家だと思っていた」とよく言われる。
君嶋彼方さんのデビュー作『君の顔では泣けない』の読者の多くは女性。女性が読んでまったく違和感のない女性を書ける著者なのである。これ以上の褒め言葉があるだろうか。
もちろん想像で書いているわけで、とんでもない想像力の持ち主である。
『君の顔では泣けない』の冒頭はこうだ。
「年に一度だけ会う人がいる。夫の知らない人だ。」
主人公は30歳の主婦で、夫と幼い娘がいるらしい。不倫の話? とまずは思う。そして地元で再会した男性との会話に違和感を覚え始めたところで、この文章。
「十五年前。俺たちの体は入れ替わった。そして十五年。今に至るまで、一度も体は元に戻っていない。」(以上、本文より)
そう、これは入れ替わりの物語だ。主人公は15歳までは男性、その後は15年も女性として生きていて、結婚、出産までしている! ここでもう、鷲掴みにされてしまった。
しかし本当にすごいのはここからで、よくあるドタバタコメディとは一線を画している。
具体的には触れないが、他人の顔をして生きるということが、どんなに苦しくて理不尽で切ないことなのか、読者は正面から向き合うことになる。
これまで多くの入れ替わりの物語に接してきながら、こんなに丁寧に想像してみたことが一度でもあっただろうかと、驚かされることの連続だ。
相手の人生と、それを作り上げている他者との関係性を尊重しようと奮闘する主人公たちの姿勢は、どこまでも真摯で優しい。なにより、それをごく当たり前にやってのけているところが素敵な2人だ。著者の執筆姿勢の表れだろう。この想像力と優しさに希望を見出さずにはいられない。
とんでもない想像力と、真摯で誠実な執筆姿勢、エンターテインメントに仕上げるセンス。多方面で期待の著者だ。次回作もお楽しみに。
(KADOKAWA 文芸・映像事業局 吉田真理)