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2020年から続く新型コロナウイルスの流行で、人々の生活や価値観が大きく変化した2021年。一方で、本を開くだけで無限に想像力と世界が広がる「文芸書」が、身近なエンターテインメントとして再認識される年でもありました。
ほんのひきだしでは「編集者が注目!2022はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。
弥生小夜子(やよい・さよこ)
1972年神奈川県生まれ。白百合女子大学卒。第1回および第1回創元ファンタジイ新人賞の最終候補となった後、第30回鮎川哲也賞に投じた『風よ僕らの前髪を』で、印象的な人物造形とそれぞれの心の綾を鮮明に描き出す筆力、卓越した文章表現が高い評価を受け、優秀賞を受賞しデビュー。
弥生小夜子さんのデビュー作である『風よ僕らの前髪を』は、探偵事務所勤務の経験を持つ若林悠紀という青年が、殺害された伯父の死について調査する中で、犯行を疑われる伯父夫妻の養子・志史の人生に秘められた謎に遭遇するという長編ミステリです。
本作を読んだのは、第30回鮎川哲也賞の二次選考で下読みをつとめた時のことでした。しかし実は、それより前に弥生さんの作品を読む機会がありました。
第1回創元ファンタジイ新人賞の最終選考時のことで、国内ミステリの担当である私は選考には直接関わっていなかったのですが、下読みをしていた編集者から「凄い作品なので、絶対読んだ方が良いと思います」と渡されたのが、弥生さんの投稿作「秋恋ふる鬼」でした。ファンタジイというよりは伝奇的要素の強い幻想譚で、とくに終盤から最後の一行にかけては圧巻と言うほかない、異形の美に満ちた力作でした。
その後、ミステリの新人賞である鮎川哲也賞の優秀賞受賞者として弥生さんにお目に掛かることになるとは思いもよりませんでした。ジャンルは異なっても、すでに風格すら漂う文章と息を吞む表現の美しさは健在でした。
本書の印象的な書名は、「風よ僕らの前髪を吹きぬけてメタセコイアの梢を鳴らせ」という、作中の少年が詠んだ短歌に由来します。「翼の墓標」と名付けられた十首による連作は、どの歌からも瑞々しい感情が伝わってくる秀歌揃いで、その見事さに、言葉をとても大事にする書き手だな、と改めて思ったものです。
2021年12月発売号の「紙魚の手帖 vol.2」に、弥生さんの初の短編「曼珠沙華忌」が掲載されました。鬼の伝説が伝わる古刹で起きた殺人と美貌の双子を巡る耽美な佳品です。そして2022年には、受賞第一長編となる作品も準備中です。
より深度を増す弥生小夜子さんの作品世界にご期待ください。
(東京創元社 編集部 古市怜子)