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2020年から続く新型コロナウイルスの流行で、人々の生活や価値観が大きく変化した2021年。一方で、本を開くだけで無限に想像力と世界が広がる「文芸書」が、身近なエンターテインメントとして再認識される年でもありました。
ほんのひきだしでは「編集者が注目!2022はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。
河邉徹(かわべ・とおる)
1988年兵庫県生まれ。3ピースバンド・WEAVERのドラマーとして2009年10月にメジャーデビュー。バンドでは作詞を担当し、2018年に小説家デビュー。
『流星コーリング』が、第10回広島本大賞(小説部門)を受賞。その他の著書は『夢工場ラムレス』『アルヒのシンギュラリティ』『僕らは風に吹かれて』。
自身のInstagramでは、物語の主人公を想起させる美しい写真の数々を投稿している。
河邉さんはWEAVERというバンドでドラムを担当し、ほとんどの曲の作詞を手掛けられています。私が初めて河邉さんにお会いしたのは昨年3月。「作品を読んでください」と言われて拝読した原稿が、『蛍と月の真ん中で』でした。
作品を拝読して思ったのは、人の心を揺さぶるような、言動が強い人や勢いのある人の描き方がとてもリアルなことでした。ともすると、悪人として配置されてしまいそうな人々を、大げさに描くのではなく、特徴を捉えて冷静に描く筆致に驚きました。
音楽の世界でも、文学の世界でも、第一線で活躍し続けるのは、とても大変なことだと思います。デビューするより、続けるほうが、その何十倍も何百倍も大変です。インタビューで河邉さんがおっしゃっていましたが、しのぎを削るような経験がたくさんあったそうです。心が大きく揺さぶられるような出来事もあったと思います。
そのような経験をしてもなお、いや、経験しているからこそ、作品の中に描かれている純粋で聡明な部分が、純度の高いまま、力強く、物語の根底に横たわっているように感じました。
『蛍と月の真ん中で』では、人生に悩む青年が、長野の美しい風景や様々な「生き方」をする人との出会いを経て、自分自身を見つめなおしていく姿が描かれています。
何かを否定するのではなく、すべてを柔らかな眼差しで受け入れることのできる強さを秘めた、度量の大きな作品です。
是非ご覧になってみてください。
(ポプラ社 コンテンツプロデュースグループ 一般書編集 文芸ユニット 三枝美保)
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