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2020年から続く新型コロナウイルスの流行で、人々の生活や価値観が大きく変化した2021年。一方で、本を開くだけで無限に想像力と世界が広がる「文芸書」が、身近なエンターテインメントとして再認識される年でもありました。
ほんのひきだしでは「編集者が注目!2022はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。
逢坂冬馬(あいさか・とうま)
1985年生まれ。明治学院大学国際学部国際学科卒。『同志少女よ、敵を撃て』で、第11回アガサ・クリスティー賞を受賞してデビュー。埼玉県在住。
大型新人のデビュー作が注目を集め、前例のない事態となっている。
今年8月に行われたアガサ・クリスティー賞の最終選考会で史上初、全選考委員が5点満点をつけ、大賞作品が決定した。独ソ戦のさなか、女性だけの狙撃小隊がたどる生と死を描いた逢坂冬馬氏の『同志少女よ、敵を撃て』だ。
二次選考で原稿を読んだ編集部員のみならず、他部署でも「新人離れした筆力」、「とにかく凄い」という衝撃が走り、新人としては異例の初版3万部が決定。発売1週間で5万部を突破し、読者からは熱烈な感想が続々と寄せられている。
作品の舞台は独ソ戦が激化する1942年。モスクワ近郊の村に暮らす猟師の少女セラフィマの日常が一変する。ドイツ軍の急襲により、村人たちは惨殺され、母も射殺された。彼女自身も殺されそうになったその時、赤軍の女性兵士に救われる。敵への復讐を決意したセラフィマは、訓練学校で一流の狙撃手を目指すことに。やがて彼女は、同じような境遇の女性たちと共に、狙撃小隊の一員として最大の激戦地スターリングラードへと向かう──。
第二次世界大戦時、ソ連では女性の兵士も実際に従軍していたが、その存在が日本の小説で扱われることはあまりにも少ない。そのような現状をきっかけに、本作の構想が始まったと逢坂さんは語る。
そして、数ある兵科の中でも、女性狙撃兵の存在に着目した。スコープで狙いを定めて敵を撃つ狙撃兵は、集団で行動する歩兵や砲兵とは違い、匿名性の陰に隠れられない特徴があるという。おびただしい数の死を目撃し、涙さえ出なくなってしまったセラフィマ。徐々に歪み始める彼女たちの姿から、戦争の不条理が炙り出されていく。
「複雑なテーマを扱っている。けれど、戦争ものは難しそうだという人にこそ読んでほしい」と著者は言う。まさにスコープで狙われているかのような緊張感とともに物語が進んでいく本作は、戦争小説のイメージを変えるかもしれない。あの時代に、戦うことを選んだ女性たちがいた。そして彼女たちの戦いは、わたしたちの戦いとも地続きなのだ。2021年注目の新人の登場を目撃していただきたい。
(早川書房 書籍編集部 茅野らら)
なお、本作は「第166回直木三十五賞」の候補作品としてノミネートされています。選考会は2022年1月19日(水)に行われます。