'); }else{ document.write(''); } //-->
今日は、本を読もう。プロジェクト
「本を読むこと」「書店で本を手に取ること」の楽しさを伝えたい。人と本と書店をつなげるプロジェクトです。Twitterでは毎日、おすすめの本をご紹介しています!
「今日は、本を読もう。プロジェクト」メンバーおすすめの1冊をご紹介! 今回はミステリー小説の名手・知念実希人さんの最新作です。
「こんな始まり方、ある……!?」
1ページ目を読んだ時の第一印象です。
知念実希人さんの最新作『硝子の塔の殺人』。作家デビュー10周年記念、実業之日本社創業125周年記念作品として発売されました。
「い、いや、こういうパターンの推理小説、これまでにもあったか……な……」
そう考えて読み進めていき、とある瞬間に「えっ?」となります。
以下、あらすじの抜粋です。
雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。
地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。
ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、
刑事、霊能力者、小説家、料理人など、
一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。
この館で次々と惨劇が起こる。(実業之日本社公式サイトより)
設定だけを読むと、これまでの新本格推理と呼ばれるジャンルに親しんだ人たちなら「よくある展開だ」と思うでしょう。
けれどこの本は、そんな人たちこそ「あっ!」と言ってしまうのです。帯の推薦文を書かれているお二人、島田荘司さんの『占星術殺人事件』、綾辻行人さんの『十角館の殺人』など、幾多のオマージュを添えた極上のミステリ・フルコースです。
雪に包まれた環境、地上11階、地下1階建ての塔に集められた人々。密室の中で起こる、不可思議な殺人。癖のある登場人物たちが「いかにも」推理小説に出てきそうな雰囲気を醸し出し、読者をも混乱に陥れます。館の主人は推理小説好きな一人の男。こういう不思議な館には必ずいる執事、メイド、料理人。怒りっぽい人、恐がりな人たちが状況を波立てていきます。
そして見えない犯人に立ち向かうのは、自称名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。
プロローグ、一日目、二日目、三日目、最終日、エピローグと、6つの章に分けられた物語は、日を追うごとに追い詰められていく人々の感情が伝わります。特に語り部である一条遊馬の心情に、読者もハラハラすることでしょう。
事件現場である硝子の塔の設定も魅力的です。殺人事件さえ起こらなければ、ちょっと住んでみたいとすら思ってしまいます。食堂での眩しい朝日を感じてみたい。高層階に飾られたコレクションを見てみたい。シアタールームでゆっくり映画を楽しんでみたい。階段が多いのが大変そうですが、魅惑的な建物です。
作品の中で語られる推理作品に関するトークも面白く、館の本棚に並ぶ書名にクスッと笑ってしまいます。もちろん新本格のことを知らなくても楽しく読めるのでご安心を。これぞ推理小説!とばかりに読めば読むほど先が気になり、ページをめくる手が止まらなくなります。
犯人はこの人なのか! いや、違う? でもその時はこの人が動いていたから、この部屋には入れないはず。鍵はどこにあったっけ? 待ってくれー、行くなー、死んだー。
真犯人にたどり着いた後、それぞれの状況証拠を調べたくて二度読みすることになるでしょう。そして「ああ!こんなところに!」と驚きながら探偵の言葉を再確認します。
こんな風に言うのは不謹慎かもしれませんが、犯人が魅力的なのです。
殺人事件が起こる物語ですから、いろいろ言葉にしづらい部分もあるのですが、犯人の今後を知りたいと強く思ってしまうのです。
個人的には、碧さんと遊馬くんのホームズ&ワトソンコンビが大好きです。短編でもいいので、いつかどこかで二人が再会してくれないかな……。ぜひ二人の物語をまたどこかで……。
(文・「今日は、本を読もう。プロジェクト」月小路ひかる)