• fluct

  • 高野秀行×宮田珠己のゆるくも鋭い爆笑対談「ブータンと、うりゃうりゃの旅」

    2016年06月23日
    楽しむ
    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
    Pocket

    “夏休み原理主義者” 宮田珠己

    宮田:確かに、勉強は受験勉強で疲れてしまいましたからね。社会人になると「日経を読め」とか言われて、それだけが全部なのか、みたいな反発があったんです。批評があるとしたらそこですね(笑)。旅行記って何か深いことを書かなければいけないという呪縛がある。その呪いから解き放たれて書いてみたいというのはずっとあります。

    高野:それが夏休み原理主義。

    宮田:そうなのかー。

    高野:考えに考えた結果、そういう結論に達しました。それが宮田さんの変わらない部分で、変化している部分としては、最近、石の話が出てきたでしょう。それは老化だと思うんです。

    宮田:くぅー、老化か、やっぱり。

    高野:僕が中国に短期留学していたとき、当時48歳だった先生が「最近、花がすごく好きになってきた」。中国では花といえば、植木や盆栽みたいなものを一般的に指すんです。「息子に、お父さんも年取ったなと言われたよ」。日本と似たような感じなんだなと思ったんだけど、「でも大丈夫だ」と先生は言うわけ。「私はまだ花だから。これが石になるともうだめなんだ」。中国でもそうらしいですよ。

    宮田:僕は花の前にいきなり石ですから。海の生き物が好きで、それは依然として気になっているけど、次は石に来た。

    高野:で、石にもう行っているのに、いまだに夏休み路線はずっと継続していて。小学生か退職後、その二通りしかないんですよ、宮田さんの中には。経済を担う若者から大人の部分が一切抜け落ちている。素晴らしい状況だと思います(笑)。

    宮田:早く隠居したいというのはずっとありますね。

    高野:でも隠居と小学生はある意味似ているわけだから。勉強していないときはね。

    宮田:子どもの頃勉強ばっかりしていたので、取り戻さなければと思ってるんですよね。

    高野:すっごい時間をかけて取り戻してるんですね(笑)。

     

    そして次の旅へ

    宮田:最近は、文章を書くのがだんだん面倒くさくなってきて、絵を描いてるんです。

    高野:激しく夏休み化と隠居化が進んでいる。

    宮田:でも、そうでありたい人は結構いるんじゃないかな。

    高野:いるでしょうね。

    宮田:この本は第2シリーズも書くんですけど、もっと絵を増やそうと思って。別のところで連載しているのも挿絵をいっぱい描いていて。どんどん絵に行ってるんですよ。

    高野:この本の中で一番の気合いを感じるのは、シュノーケリングですね。情熱が迸っている。

    宮田:好きなんですよ、海の生き物が。高野さんのUMA(未確認生物)に対して僕は海の生き物。海の生き物についてなら、ちょっと勉強してもいいかなと思いますよ。

    高野:僕も未知の動物を探すのもだんだんよくなってきて。

    宮田:もういないと。

    高野:いるかいないかはともかく、話を聞くだけでもおもしろいなと。

    宮田:民俗学みたいな?

    高野:分析はしないので、民俗学ではないんだけど。

    宮田:酔っぱらってしゃべっているだけでいいと(笑)。

    高野:そこに何かが見えるかどうかはもう次のことで。

    宮田:『未来国家ブータン』でも、民話を採集している感じで引用していますよね。

    高野:柳田國男の『遠野物語』のスタイルをちょっと意識して。『遠野物語』は日本の民俗学の出発点とも言われるけど、分析してないから民俗学ではないと思います。分析すると、おもしろいものもおもしろくなくなるし、すごいものもすごくなくなっていく。

    宮田:そうなんですよ。僕もそう思います。解明すればするほどつまらなくなっていく。最初の驚きが一番おもしろいというか。だからそれ以上深くつっこまないんですよ。

    高野:僕もだんだんそちらにシフトしているわけです。

    宮田:じゃあこれからは未知の生き物を探すよりは、話を聞きに行くと。

    高野:話を聞く旅、「アジアン遠野物語」ですかね。

    宮田:おもしろいですね。昔はご自身で「辺境作家」と言っていたのが、最近「ノンフィクション作家」だと宣言されてましたよね。何か心境の変化があったんですか。

    高野:前から、冒険家と間違えられるのは不本意だったんです。それが最近どんどん進んできて、特に大学の後輩の角幡唯介が冒険家・作家で有名になって、彼は本当に冒険家だから、僕はそうではないとアピールしなければいけない。それに僕の専門は「書くこと」だから。変なところに行って変なことをやっている人だという認識は困るんです(笑)。

    宮田:書くものを変えていこうということではないんですか。

    高野:やっていくことは基本的に同じです。おもしろいものを書きたい、ほかの人が書いていないようなものを書きたいというのは変わらない。宮田さんの「エッセイスト」という肩書も最近言わなくなりましたね。

    宮田:今は「絵日記作家」とか?

    高野:どうしても絵に行きたいんですね(笑)。夏休み作家だから絵日記で。

    宮田:線を描いていると落ち着くんですよ。迷路とか書いてると自分のセラピーになる。

    高野:書き終えたらよく眠れるとか。

    宮田:ほっといてもどんどん書いちゃう。だったら、それを仕事にできれば楽だろうなと(笑)。最近は、震災の影響もあって世の中みんなまじめになってきていて、どんどん肩身が狭くなっているんですけど、そこで気が楽になるものを書いていきたい。

    高野:肩身が狭くなっているなんてことはないですよ。

    宮田:そうですか。

    高野:日常がつらいときにシリアスな本が読みたいかというと、そんなことはない。逆じゃないですか。イギリス皇太子の結婚式を世界中が生中継したり、アメリカのセレブのゴシップを知りたがったりするのは、自分の生活を忘れられるからでしょう。現実の宮田珠己がどうかはわからないけど、本の中の宮田さんはまったく浮世離れしていて、脳天気で、フラフラしていて、そういうのに読者はほっとさせられるわけですよ。だから今、この不況の時代、震災後、ますます宮田珠己の需要は上がると僕は思っています。

    宮田:僕も自分なりに考えました。最近僕は国内の旅行が多くて、円高でみんなが海外に行っている中、僕は国内に金を落とそうとしている。これは「頑張ろう、日本」という意味じゃないか、日本経済の再建に僕なりに取り組んでいるのではないかと。国内旅行が続いたのは、実は予算的な面もあったんですけど(笑)、知っていることの中に知らないことを見つけるのは好きなのでおもしろい。みんなが行くようなベタな観光地に行って、何か見つけたい、みたいなのがあるんです。

    高野:じゃあこれからどんどんメジャーに迫っていくわけですか。

    宮田:かなり迫ってきていますよ。日光にも行ったし。誰でもできる旅で、誰でも気づけるようなおもしろさを見つけていきたいですね。

    高野:それを書いていくと。

    宮田:そしてみんなが国内旅行して内需拡大したら社会貢献。

    高野:今後の候補としてはどんなところがあるんですか。

    宮田:国内の有名観光地をもうちょっと回ってみたいですね。そして、絵を描きたい。

    高野:今度、シュノーケリングにぜひ一緒に行きましょうよ。

    宮田:行きますか。『日本全国津々うりゃうりゃ』の第2シリーズでは奄美大島に行こうかと思っていて。

    高野:いいですね。奄美大島にはケンムンという妖怪がいるんですよ。

    宮田:行きましょう! ケンムンも見てみたいし。

    (2012.3.1)


    (「新刊展望」2012年5月号より)

    common_banner_tenbo

    1 2 3
    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下

  • GoogleAd:007

  • ページの先頭に戻る