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季節バイトに集まった7人の男女。1人が殺され、残る6人の秘密が次々と暴かれていく――。
正しさの意味を問うノンストップ・サスペンス!
25歳の工藤秀吾は、北海道の港町で行われる水産加工の季節バイトに参加した。大量に水揚げされたカラフトマスを捌く仕事で、2ヶ月間、食住が提供される。
同じバイトに集ったのは、彼を含めて7人の男女。仕事にも慣れ、各人の個性も少しずつわかり、空き時間にはサイクリングに出かけたり談笑したり、夜には宿舎のロビーで酒盛りをしたりという日々を送っていた。
ところがある日、バイトのリーダー格である中野大地が砂浜で死体となって発見された。秀吾は慌てて警察に電話しようとするが、なんと6人中4人が通報に反対する。そのうち脅迫状らしきものが見つかって他殺の可能性が増すが、それでもなぜか警察に届けることを頑なに拒む人々。そこにはそれぞれ、人には言えない秘密があった──。
犯人ではないかと疑われ、行動の不自然さを指摘され、彼らは仕方なくひとりずつ秘密を語り始める。そこからはもう一気呵成だ。ページをめくる手が止まらなくなった。
その秘密をここに書くわけにはいかないが、皆がそれぞれ何かから逃げている、ということまでは言ってもいいだろう。個々人の物語はそれだけで何本もの短編小説が書けるほど濃密で、胸に迫る。
彼らの置かれた状況が決して特異なものではないということに留意されたい。今も多くの人が彼らと同じような閉塞感に直面し、足搔いている問題ばかりなのだ。むしろ彼らは逃げることができてよかった、とすら思える。そして何よりここで大事なのは、彼らをそこまで追い詰めた側はそれが正しいと思い込んでいる、ということだ。
描かれるのは逃げた者たちの話だが、読みながら、自分は追い詰める側になってはいないかと何度も自問した。むしろそちらこそが本書の眼目と言っていい。
保身のため、あるいは自分の利益のため、誰かを犠牲にすることを、私たちは当然と思っていないか。自分の価値観で人を判断し、合わない場合は相手に非があると考えてはいないか。さまざまな格差が自己責任の名のもとに切り捨てられる今、本当にそれでいいのかと本書は鋭く問いかけてくる。これは逃げる側の話ではない。人を逃げざるを得ない状況に追い込む者の話なのである。そうと気づいたとき、背筋を冷たいものが走った。
そして終盤に待つ意外な真実。一夜だけの物語とした構成も、伏線の張り方もともに巧妙で、ミステリとしてもレベルが高い一冊である。
「小説推理」(双葉社)2021年11月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載