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  • 時をかける氷河期世代、人生リスタートの狼煙をあげる|南綾子『タイムスリップしたら、また就職氷河期でした』

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    2021年10月30日
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    門賀美央子:「小説推理」BOOK REVIEW
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    雷に打たれて目が覚めたらそこは20年前!

    スキルなし自信なし何もなしの就職氷河期世代が人生の起死回生を目指して奮闘する、悲喜こもごもの物語。


    昔から「人生やり直し」をテーマにする小説は様々書かれてきたとはいえ、近年の数の多さには眼を見張るものがある。それだけ生きづらい世の中なのだろう。ライトノベル方面では、ファンタジー的異世界にまったくの他人として生まれ変わるいわゆる“異世界転生もの”が花盛りだが、一般文芸の世界では自分自身の人生をやり直すパターンが多い。本書『タイムスリップしたら、また就職氷河期でした』は、後者の系統に属する一冊だ。

    物語の概要はタイトル通りで、主人公である桜井凜子と鶴丸俊彦の2人は、2019年から1999年にタイムスリップしてしまう。もっとも、現代の「自分」が体ごと飛ばされるのではなく、22歳の体にアラフォーの意識が宿るだけなので、タイムトラベル型ではなくタイムリープ型の時間移動をした、というわけだ。

    一般的に就職氷河期とは1993年から2005年までを指すが、2人が就職活動をした1999年は氷河期が最高潮(どん底?)に達していた時期だ。バブル崩壊後の不景気が継続していた上、最大の人口ボリュームゾーンである団塊世代がまだ現役だったために席が空かず、有効求人倍率は0.5前後が続く。超買い手市場ゆえに、パワハラセクハラ当たり前。労働基準法違反も平気でまかり通る。凜子と鶴丸も非正規雇用に甘んじ、普通に仕事をしているだけで自尊心が削られる日々を送らざるを得なかった。

    そんな2人だから、アラフォーの経験や知識、さらに未来の出来事を知っているという超チートなアドバンテージを携えて過去に戻ったというのに、当初は揃いも揃って引きこもって泣き続けるだけだった。ここに、著者の巧みなキャラ設定が見えてくる。自信を持てないままただ年だけを重ねた彼らは、たくましさも柔軟性も失い、ただ幼稚さだけを残す人間になり果てていたのだ。だが、そうなったのは、社会が成長の機会を尽く奪ってきたからである。

    当然、2度目の人生も順調にいくはずがない。しかし、わずかな経験と21世紀人としての“常識”はまったく無駄ではなかった。少しずつだが、社会の理不尽に身の丈で立ち向かうだけの根性を見せ始めるのだ。そして、未来にわずかばかりの光を灯していく。人生は生まれつき決定してはいない。やれることは限られているけど、やれるだけやっていれば確実に何かが変わる。平凡な人間の戦い方を見せてくれる本書、氷河期世代だけでなく若い人にも、いや若い人にこそ読んでほしいと思う。

    タイムスリップしたら、また就職氷河期でした
    著者:南綾子
    発売日:2021年10月
    発行所:双葉社
    価格:803円(税込)
    ISBNコード:9784575525069

    「小説推理」(双葉社)2021年11月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載




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