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  • 名作SF『夏への扉』無謀とも思われた日本での映画化 三木孝浩監督「ディストピアではなく“未来へのワクワクを描くSF”を」

    2021年06月25日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    1956年に発表されたアメリカのSF小説で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をはじめ、さまざまな作品に影響を与えたといわれるロバート・A・ハインラインの『夏への扉』。“タイムトラベルもの”の名作と名高い同作が、なんと舞台を日本に移し、1995年の東京に暮らす科学者・高倉宗一郎の物語として映画化され、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』のタイトルで6月25日(金)に公開されます。

    今回は、本作を手がけた三木孝浩監督にインタビュー。映画化にあたって軸にしたことや、監督の手がけた『管制塔』(2011)で初主演を飾った主演・山﨑賢人さんとのエピソードなど、たっぷりお話を聞きました。

    三木孝浩(みき・たかひろ)
    1974年生まれ、徳島県出身。2000年より多数のミュージックビデオを監督し、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005 最優秀ビデオ賞、JUJU feat. Spontania『素直になれたら』のプロモーションの一環として制作した世界初のペアモバイルムービーでカンヌ国際広告祭2009 メディア部門金賞などを受賞。2010年、映画『ソラニン』で長編監督デビュー。以降の映画作品に『管制塔』(2011)、『僕等がいた 前篇・後篇』(2012)、『陽だまりの彼女』(2013)、『ホットロード』『アオハライド』(2014)、『くちびるに歌を』(2015)、『青空エール』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(2017)、『坂道のアポロン』(2018)、『フォルトゥナの瞳』(2019)、『思い、思われ、ふり、ふられ』『きみの瞳が問いかけている』(2020)など。

     

    『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』あらすじ

    将来を期待される科学者の高倉宗一郎(山﨑賢人)は、亡き養父である松下の会社で研究に没頭していた。
    早くに両親を亡くしずっと孤独だった宗一郎は、自分を慕ってくれる松下の娘・璃子(清原果耶)と愛猫ピートを、家族のように大事に思っていた。しかし、研究の完成を目前に控えながら、宗一郎は罠にはめられ、冷凍睡眠させられてしまう。

    目を覚ますと、そこは30年後の2025年の東京。宗一郎は研究も財産も失い、璃子は謎の死を遂げていた――

    失って初めて、璃子が自分にとってかけがえのない存在だったと気づく宗一郎。人間にそっくりなロボットの力を借り、30年の間に起こったことを調べ始めた宗一郎は、ある物理学者にたどり着く。

    驚きの事実を知った宗一郎は、再び1995年へと時を超える。
    ただ、璃子を救うために――

    彼女は言ってくれたんだ。
    「あきらめなければ、失敗じゃないでしょ」と――

     

    ディストピアではなく「未来へのワクワクを描くSF」を

    ――『スターシップ・トゥルーパーズ』の原作者としても知られるロバート・A・ハインラインの小説が、今回の映画では、「1970年と2000年を行き来するロサンゼルスの物語」から「1995年と2025年を行き来する東京の物語」に再構築されました。まずは、小川真司プロデューサー(『ジョゼと虎と魚たち』『ハチミツとクローバー』『陽だまりの彼女』『浅田家!』など)からのオファーの内容がどんなものだったか、お聞かせください。

    「『夏への扉』を、日本を舞台に映画化したい。まずは原作を読んでみて」と本を渡されたのが、2015年の1月。小説の存在はもちろん知っていましたし、あらためて読んで、1980年代のハリウッドのアトラクションムービーのような面白さがあり、海外文学を読み慣れていなくても、すごく親しみやすい小説だなと思いました。

    夏への扉 新版
    著者:ロバート・A.ハインライン 福島正実
    発売日:2020年12月
    発行所:早川書房
    価格:924円(税込)
    ISBNコード:9784150123093

    でも、その時点で小川さんがおっしゃっていたのは、「日本を舞台にする」ということと、『陽だまりの彼女』でご一緒した菅野友恵さんに脚本をお願いするつもりだということだけ。くわしいことはまだほとんど何も決まっていませんでした。「海外SFを日本の物語に再構築する」とはなかなか無謀なチャレンジだなと思いましたし、小川さんがどんなものをイメージしているのか想像がつかず、「さて、どうしようかな……」という感じで、スタッフたちとディスカッションしながら少しずつ進めていきました。

    ―― そのなかでも、時代設定は特に難しかったのではないでしょうか。

    実は、原作を読んだ時の感覚にヒントがあったんです。近未来SFというと、今はディストピアものが多いですが、1980年代は「未来へ行ったらこんなにすごくなっていた!」みたいな、未来に対してポジティブで、冒険活劇的な作品が多かったんですよ。それから(1950年代当時の近未来である)1970年と2000年を描いているのもあって、今読むとレトロフューチャーな味わいがあるのも魅力でした。

    2021年の今を生きている人たちが「もしかするとあったかもしれない世界」の物語として感じられて、未来に対して明るい気持ちを抱ける、そんなSFをやってみてもいいんじゃないだろうか。そんな考えが浮かんだ時、企画に対する「ちょっと無謀かもしれない」という気持ちを上回って、すごくワクワクしたんです。「30年の時を超える」という原作の設定は踏襲しつつ、今から少し前の「あったかもしれない過去」と、少し先の「あるかもしれない未来」を舞台にすることで、パラレルワールド的なワクワクと、レトロフューチャーな味わいを実現できるのではと考えました。

     

    無謀とも思われた日本での映画化が、「見えた」瞬間

    ―― 1995年というと監督は、ソニー・ミュージックに入社される前、まだ大学生ですね。

    そうです。僕も(脚本家の)菅野さんも、まさに青春真っ盛りの時期ですね(笑)。1995年と2025年に設定したのには、作り手である僕たちがまず、この物語を「あったかもしれない自分たちの話」として捉えたいという思いもありました。なので1995年のストーリーは、僕たちの記憶をベースに作っています。

    ―― Mr.Childrenの楽曲が重要な要素の一つとなっていますが……。

    ミスチルはまさに、僕が“あの頃”に聴いていた音楽です。時代設定をいつにするか話し合っていて「1995年に設定するのはどうか」という意見が出た時に、ふっとミスチルの音楽が降りてきて、「これだ!」と。音楽ってそれくらい、記憶を呼び起こす力があるんですよね。それまではまだ、具体的に何年から何年の物語にするかがふわふわしていたんですが、このひらめきで「いける、これで『夏への扉』を映画化できる」と確信に変わりました。

    映画で描かれているのは、1995年の時点でコールドスリープが実用化されている、僕たちが生きているのとは別の世界です。でも、彼らの音楽がきっと、映画を観る方それぞれの“あの頃”の記憶にタッチしてくれる。そう思いました。

    ―― Mr.Childrenは、来年デビュー30周年を迎えるんですよね。ここにも「30年」という時間の幅が存在しているので、30年の間隔や、30年経っても変わらないものがあることが、より輪郭をもって感じられるかもしれません。

    実は、原作を読んでいる時はシンディ・ローパーの「Time After Time」をイメージしていました。日本の楽曲だと何だろう?と考えた時に、ミスチルだったんですよね。ミスチルの音楽によって映画化の軸が決まったといっても過言ではないので、ひらめいてよかったです(笑)。

    ―― 少し話がそれますが三木監督も、“30年”とはいわないまでも、商業長編映画デビューから11年、それ以前も自主映画やミュージックビデオなどを多数手がけてこられました。これまでを振り返って、映像の世界で変化を感じていることはありますか。

    肌感覚にはなりますが、映画業界には脈々と受け継がれてきた伝統的なカルチャーがあって、長編映画を撮り始めた頃はまだ、僕がそれまでやってきたミュージックビデオやCMははっきりと“異文化”でした。だから共通言語が少なくて、撮影現場でもイメージを伝えるのによく苦労していたんですよね。最近はそういう垣根もずいぶん取れて、開かれた世界になってきたので、いろんなバックグラウンドをもった方が映画を撮っています。

    撮影機材そのものの性能が抜群に上がって、扱いやすくなったのも大きいと思います。『シン・ゴジラ』(2016)の撮影にiPhoneが使われて、話題になりましたよね。本格的な機材やそれを扱う知識・技術がなくても、いい映像が撮れる。かなり自由な発想で、いろんなアイデアをどんどん取り込んで撮れるようになったので、僕はすごくやりやすさを感じています。

    『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』でも、ディープラーニング技術に近い、顔を入れ替える最新技術を使って撮影しているシーンがあります。特殊メイクという手段ももちろんあったんですが、特殊メイクの肉々しさによるものではない気持ち悪さを出したくて。あくまで中心は人間ドラマなので、いかにもな特殊映像技術はストーリーから気持ちをそらしてしまいかねないですから、そこは気をつけつつ、実はそういう新しい技術も試してみています。

     

    山﨑賢人の魅力は「キャリアを重ねても色がつかない透明感」

    ―― 続いて、俳優の皆さんについて伺います。主演の山﨑賢人さんは、三木監督の『管制塔』で映画初主演を果たしていますよね。再びタッグを組んで、どんなことを感じましたか。

    右も左も分からない、まっさらな頃の賢人くんを知っている身からすると、あれから10年の間に数多くの主演作をこなして、本当に頼もしく、たくましくなったなと感じました。でも僕が思う彼の魅力は、それでもなお失われないフレッシュさ、透明感、いい意味での青臭さです。主役としての佇まいが安定していながら、今回演じてもらった宗一郎のようなピュアなキャラクターを素直に演じられる。キャリアを重ねても色がつきすぎていない、稀有な役者です。

    映画化にあたって、宗一郎というキャラクターには「才能ある科学者」というだけでなく、「昔からいろんなものを失ってきた孤独な人物」という要素を加えて、この物語に通底するメッセージを背負ってもらいました。ご覧になると、いつも真剣で必死な宗一郎を、つい応援したくなってしまうと思います。

    ―― ヒロイン役の清原果耶さんとも、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)でご一緒されていますね。

    短いシーンでも強烈な印象を残す役者さんで、『ぼく明日』でご一緒した時、直感的に「この子とはもう一度お仕事をしたい」と強く思いました。それで「将来絶対に主役かヒロインでオファーするから、断らないでね」って予約しておいたんですよ。果耶ちゃんはすっかり忘れちゃってましたけど(笑)。

    今回も、ヒロインといえど、全編にわたって出演しているわけではありません。でも、その限られたシーンのなかで「宗一郎が何にかえても守りたい存在」であることに説得力を持たせなければならない。難しいキャラクターだったと思いますが、見事に演じてくれました。

     

    まさかの「ロボット役」に挑戦した藤木直人

    ―― そして、なんといっても宗一郎の“相棒たち“は印象的でした。1995年パートでの相棒は、愛猫のピート。原作は「猫小説」の代表格でもありますから、猫は厳正なオーディションによって選ばれたと伺いました。一方、未来で宗一郎の相棒となる、人間そっくりのロボット「PETE」を演じた藤木直人さんは、25年のキャリアで初めてのロボット役に挑戦しています。まずは猫のピートについて、キャスティングのポイントを教えてください。

    小川プロデューサーが大の猫好きで、こだわりも強く、オーディションでは誰よりも厳しい目で審査していました。よく考えたら前にご一緒した『陽だまりの彼女』も猫小説でしたし、もしかして小川さんは、猫小説だから僕にオファーしてくれたのかもしれませんね(笑)。

    ピートも「PETE」も、人間を客観的に見つめる存在です。“人間ではない”彼らの存在を通すことで、七転八倒しながらも一生懸命進もうとする人間のおかしみが立ち現れてきます。猫キャスティングでは「自分をわかっている感じ」というのか、かわいいだけじゃない、どこか俯瞰して人間を見ているような佇まいをしていることが審査ポイントでした。

    ピート役の猫はパスタとベーコンの2匹いて、表情を寄りで撮りたいシーンはパスタに演じてもらいました。パスタは、大きく表情が変わるわけではないのに「いまこんなことを思ってるんじゃないかな」と観る側の想像力をかき立てるような、つい見入ってしまう顔つきをしているのが魅力的です。動きのあるシーンは、ベーコンに演じてもらいました。どちらもベテランの俳優猫です。

    ―― 藤木さんが演じた「PETE」は、映画オリジナルのキャラクターです。猫と異なるのは、体温がないこと、外見が非常に人間に似ていること、言葉で会話ができることなど。共通点もありつつ、ピートとはまた違った相棒でしたね。人間っぽさの塩梅が絶妙で、「面倒くせえ」とつぶやくシーンでは思わず吹き出してしまいました。

    宗一郎が一人ぼっちで時間を旅するとなると、どうしても苦しい状況ばかりが続いてしまいます。それで、未来での旅の相棒として「PETE」が生まれました。実際に宗一郎と心が通っているわけではないのだろうけれど、もしかして「PETE」にも心があるんじゃないか?と思わせるような場面があったり、かと思えばやっぱりトンチンカンだったり。そういう「PETE」のちょっとズレたユーモア、冗談なのか真面目なのか掴みどころのない感じが、逆境続きの物語をやわらかくコミカルにしてくれました。

    「PETE」の演技については、クランクイン前の衣装合わせからアンドロイドパフォーマーのSAORIさんにご協力いただいて、パフォーマンスを見ながらどんな仕草を演技に取り入れるか藤木さんと話し合い、撮影の現場でも試行錯誤を重ねて作り込んでいきました。『エイリアン2』でランス・ヘンリクセンが演じた「ビショップ」のオマージュも込めているので、ぜひ注目してほしいです。

    ▼アンドロイドパフォーマー・SAORIさん

     

    「夏への扉」はあると信じ続けること

    ―― 劇中には、未来への希望をつなぐ重要なシーンで雑誌「子供の科学」が登場します。三木監督にとって、この「子供の科学」のような存在はありますか?

    『ドラえもん』や星新一のショート・ショートなどいろいろあるんですが、特にこれ!というのは、藤子・F・不二雄『SF短編』と『未来の想い出』。子どもの頃からずっと大好きな作品で、映像の世界に入ってからも、ずっと「こういう物語を撮りたい」という思いを常にどこかに持っていました。原作小説を読んだ時にワクワクと懐かしさを感じたのは、きっと、この読書体験とつながったからだと思います。

    ――「夏への扉」という言葉が、奇しくもこれまで以上に重要に感じられる時世となりました。公開にあたり、メッセージをお願いします。

    問題が大きければ大きいほど、信じる力が弱まってしまうこともあると思います。でもその一方で、諦めなかったことで道が拓けてきた経験もあるはずです。この物語はフィクションですが、フィクションは思わぬところで現実にリンクすることがあります。どんな逆境でも、望む未来へつながる突破口を信じて奮闘する宗一郎の姿から、「諦めずにいきましょう」というメッセージを受け取ってもらえたら嬉しいです。

     

    映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』作品情報

    山﨑賢人
    清原果耶 夏菜 眞島秀和 浜野謙太
    田口トモロヲ 高梨臨 原田泰造
    藤木直人

    監督:三木孝浩 脚本:菅野友恵 音楽:林ゆうき
    主題歌:LiSA「サプライズ」(SACRA MUSIC)
    原作:『夏への扉』ロバート・A・ハインライン(著)/福島正実(訳)(ハヤカワ文庫刊)
    製作幹事:アニプレックス 東宝
    制作プロダクション:CREDEUS
    配給:東宝 アニプレックス

    6月25日(金)全国公開

    natsu-eno-tobira.com

    ©2021 映画「夏への扉」製作委員会




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