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  • 耳で聴く“新しい読書のかたち”をお届けしたい:オーディオブック「Audible」インタビュー

    2021年08月01日
    楽しむ
    ほんのひきだし編集部
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    近年、移動時間や家事の最中などに「オーディオブック」で本を楽しむ、“新しい読書のかたち”が注目を集めています。

    オーディオブックはもともとカセットテープやCD‐ROMといったパッケージメディアで販売され、車移動が多い欧米では1990年代から普及していました。一方、日本では電車などでの移動が多いため、あまり根付きませんでした。

    しかし、スマートフォンの普及で気軽に音声コンテンツを楽しめるようになったため、日本でもオーディオブックを楽しむ人が増えています。

    今回の記事では、初の「オーディオファースト(※)」作品を手掛ける、Amazonのオーディオブック「Audible」事業を担当する、キーリング・宮川もとみさんへ、オーディオブックのこれからについてインタビューしました。
    ※音声で聞かれることを前提に書き下ろした作品を先にオーディオブックとして配信後、書籍としても販売する取り組み。

    Audibleとは
    プロのナレーターや俳優、声優が読み上げる約40万もの豊富なオーディオブックや、ニュースからお笑いまでバラエティあふれるプレミアムなポッドキャストを提供。再生速度の変更やスマホでのオフライン再生はもちろん、Amazon EchoやAlexa搭載デバイスにも対応している。

    2021年7月現在、世界10か国でサービスを展開。

     

    Audibleとオーディオブックの現状について

    ──2015年7月のタイミングでAudibleが日本市場に参入した経緯についてお聞かせください。

    アジアの中でも日本は、スマートフォンが広く普及し、かつスマホで動画をはじめとするデジタルコンテンツを閲覧するが人が増えていたので、オーディオブック需要の成長が見込めました。

    また、落語をはじめとする音声コンテンツの歴史も長いので、ビジネスが確実に伸びていくという判断のもと、日本向けのサービスを展開することが決定しました。

    ──日本のオーディオブック市場には、どのような特徴がありますか。

    欧米では、オーディオブックが生活の一部になっている方が多く、老若男女問わず興味がある作品をオーディオで聴くことが当たり前になっています。

    それに対して日本は、今はビジネスパーソンによる利用が多いですが、まだ利用者が少なく、その潜在需要はかなり高いと思っています。

    例えば、オーディオブックを「目を使わなくていい、体にやさしい読書」としてとらえている人も増えてきています。

    ──2015年の参入直後の状況はいかがでしたか。

    サービス展開当初は、既存のコンテンツであるオーディオブック、落語や英語学習などをAudibleで配信することに注力し、そこからコンテンツの数やジャンルを拡大していきました。

    翌年以降は、日本のオーディオブックの制作会社や、音楽制作を手掛けるレコーディングスタジオとの関係を構築し、自分たちで制作を拡大できる環境を整えたことで、配信できるオリジナルコンテンツ数は圧倒的に増えました。

    ──2017年のスマートスピーカー登場が“ながら聴き”の追い風になったのでしょうか。

    そうですね。2017年頃から、出版社の方にとっても、利用者の皆様にとっても、「アプリで本の音声を聴く」ということが受け入れられ、Audible自体も読書の新しいサービスとして認識されるようになりました。

    ──2018年にはダウンロード制を追加し、オリジナル作品のリリース、他メディアとのタッグにも力を入れていらっしゃいます。

    2018年には、新しくコイン制のサービスモデルを開始したことで、世界中から約40万タイトルを届けることができるようになりました。この時期から、オーディオブックをより充実させるということはもちろん、音声というジャンルを超えて、クリエイターとコンテンツ開発することを開始しました。

    映像には、映画やドラマ、ドキュメンタリー、アニメ・マンガ、ニュースなど、様々なフォーマットがありますが、それと比べると音声が表現しているジャンルはまだまだ限られていると思っています。

    今までは音声では表現できないと思われていたコンテンツ、例えばブロードウェイのショーを音だけで魅せて感動させることを考えることで、これまでにない音声の表現に挑戦できると思っています。

    2020年は、海外向けではすでに行っていたオリジナルコンテンツを、日本向けでも独自に開発して配信をスタートさせることができました。これにより、本という枠を超えて、Audible自身が音声の可能性を広げる第一歩を踏み出したと実感しています。

    ── 日本向けのサービスローンチから5年がたちましたが、出版社の反応・温度感は変わってきていますか。

    この何年か一緒に作品を作り上げ、ラインアップを増やしていく中で、音声の利便性や良さ、すなわちオーディオブックの可能性を理解いただけるようになり、オーディオブックの制作について前向きに考えてもらえるようになりました。

    ビジネス機会として、出版業界の利益が見込める分野だと思っていただけていると思うので、今後も一緒に協力しながらコンテンツを制作・配信していきたいです。

     

    オーティオブックのコンテンツについて

    ──Audibleの人気のコンテンツをお聞かせください。

    オーディオブック自体の認知度がそれほど高くなかった2~3年くらい前までは、Audibleの人気カテゴリーはビジネス書や自己啓発書でした。

    これは忙しいビジネスパーソンにとって、電車などでの通勤や移動中、ジムやランニング中などの「すきま時間」を活用してインプットできるというのが魅力であり、わかりやすく効果を感じていたからだと思っています。

    ──たしかに、オーディオブックというと、ビジネス書や自己啓発書のイメージがあります。

    ただ、利用者の動向で大変興味深いのが、皆さん最初は興味のあるビジネス書から聴き始めるのですが、耳が慣れてくると、現代文学やフィクション、歴史小説なども次第に聴くようになります。オーディオブックに慣れ親しんでいる人の大半は、通常の読書のように、その時の気分やシチュエーションに合わせてお気に入りの作品を楽しんでいます。

    ですので、ビジネス書や自己啓発書が突出している、というわけではありません。

    ──では、それ以外のジャンルで力を入れているものをお聞かせください。

    芸能人や著名人による朗読には注力してきました。

    宮沢りえさんの『雨ニモマケズ』(著:宮沢賢治)をはじめ、著者の糸井重里さんが自ら朗読する『小さいことばを歌う場所』(著:糸井重里)、風間杜夫さんによる『ハリー・ポッター』シリーズ(著:J・K・ローリング)、三浦友和さんの『火車』(著:宮部みゆき)、尾上菊之助さんの『国宝』(著:吉田修一)、松井玲奈さんの『ファーストラヴ』(著:島本理生)といった作品を手掛けています。

    最新のコンテンツでは、芥川賞受賞作の『推し、燃ゆ』(著:宇佐見りん)を玉城ティナさんの朗読で配信しています。

    また、オーディオブック版『君の名は。Another Side:Earthbound』(著:加納新太、原作:新海誠)では、映画で声優を担当された上白石萌音さん、大原さやかさんが朗読、同じく映画「天気の子」オリジナルキャストの醍醐虎汰朗さん、森七菜さん朗読の『小説 天気の子』(著:新海誠)などの作品も早い段階から手掛けており、かなり人気を集めました。

    ──Audibleとして、日本のコンテンツにはどのような特徴があると考えていますか。

    日本は落語を筆頭に、口頭でのストーリーテリングの文化が養われ、そのクオリティも高い国です。ですので、音で聴かれる、音で楽しいストーリーは昔からありますし、これからも進化していくと思います。

    ──日本にはオーディオブックと相性のいいコンテンツが多いのですね。

    そうですね。制作の観点からみると、日本では憧れの職業として声優を目指している人が多く、朗読のクオリティは高いと感じています。若手もどんどん出てきていますし、彼ら・彼女らの活躍の場として、オーディオエンターテインメントは可能性がまだまだあると思ってます。

     

    オーディオオリジナルについて

    ――新潮社と“オーディオファースト”作品という新しい試みに取り組んでいますね。

    今回ご協力いただいた新潮社様は、「新しい試みやトライに対しては、常に積極的でありたい」という気持ちを持っていらっしゃいました。メディアのかたちが多様化する中で、これを機に、新たに小説の面白さに触れる方々が増えてほしいというお話をいただきました。

    ――日本発コンテンツを世界に発信するのは、今回が初めてとのこと。なぜ「小説」だったのでしょうか。

    小説は「目で読む、楽しむもの」という常識がありますが、それを覆したいと思っていました。

    芸術の可能性を信じ既成概念を壊して新しい体験を提供したいと考えていたところ、川上未映子さん、三浦しをんさんに「音声の可能性への挑戦」にご賛同をいただき、実現しました。

    川上未映子さんコメント
    ふだんの執筆でも音読することはあるのですが、それはあくまで書かれた文字の響きや文章のリズムが頭の中でどう再現されるか、その確認のためでした。でも今回はそこに「人の声」という身体性が加わることにより、これまでとはちがう「読書体験」が生まれるのではないかと思っています。人の声というのは大きな要素で多くの情報をもっていますから、今後またこのような書き方をするときには、描写や状況説明がさらにシンプルになり、声に委ねる部分が多くなるのかもしれないな、と感じています。

    三浦しをんさんコメント
    「耳で聴く」ことを前提に、なるべくリズムのいい文章にしたいなと思っています。内容的にも、朗読や手紙といった、「だれかに語りかける」要素を入れていますので、音声と黙読、両方でお楽しみいただければ幸いです。

     

    ――出版社から期待されていることはありますか

    新潮社様からは「細かい文字を読むのがきつくなったり、なかなかまとまった時間が取れないものの、小説を読みたい、という気持ちを強く持っている方も多いと思います。そういった方々に、再び物語の世界へ入るきっかけにしていただきたい」というお言葉をいただいています。

    ――オーディオブックの今後の展望をお聞かせください

    これまで日本で展開し、コンテンツを充実させてきた中で、「オーディオブックは便利なもの」であり「音声でも書籍を楽しめる」ということを少しずつですが皆さんに実感してもらえていると思っています。

    これからは、オーディオの体験を追求し、紙の本か電子書籍か利用者が選べるのと同じくらい当たり前に、書籍をはじめ気になるコンテンツを「耳で聴く」ということを一般的にしていきたいです。

    書籍を面倒に感じてしまったり、忙しさの中でなかなか本を楽しめない人もいると思いますので、オーディオブックという新しい手段を提供し、利用者にとって紙・電子書籍・オーディオブックの選択肢の中で一番その時の気分やライフスタイルに合ったものを選べる環境を整えたいです。

    そのためには、例えば、気になった新刊がすぐ聴けるように、書籍の発売のタイミングとオーディオブック配信のタイムラグをなくしていくことなども考えていかなければいけません。

    海外では、あるストーリーを映画化すべきかをテストするために、まずは音声で人気が出るかをテストするケースも多くあります。

    IPクリエイション(※)の原点にオーディオはなり得ると思っているので、映画でも、本でも、舞台でも作品の原点がオーディオから生まれていけば、より音声コンテンツの可能性を実感してもらえるはずです。そういったコンテンツ開発をこれからもしていきたいです。
    ※「IP(知的財産)の創造」という意味で、日本発で世界に拡散されるような原作や、音声コンテンツが原作となってアニメや映画などに展開されるものを意味する。


     

    キーリング・宮川もとみ (キーリング・みやかわ・もとみ)/Motomi Miyakawa Keeling
    オーディオ作品をアプリで楽しめるサービスAudible(オーディブル)のコンテンツ担当として、日本におけるデジタル・オーディオ・コンテンツの戦略・契約・制作業務をリードする。Audibleの日本でのサービス展開に立ち上げから関わるメンバーの一人。前職では、海外事業や多数のM&Aに携わったほか、日本の作品の海外展開を支援。日本で初めてのマンガファンドの立ち上げや海外出版社とのジョイントベンチャーの設立などに従事した。一方で、国内・海外コンテンツのローカライズを通じて、国内外の幅広いお客様に提供することに尽力した。

    2013年12月~ Audible Ltd. (UK)
    2014年9月~ アマゾンジャパン合同会社 Audible事業部 ビジネス・アフェア シニア・マネージャー




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