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  • 『砕け散るところを見せてあげる』SABU監督インタビュー:「よくぞ俺に声をかけてくれた!」手をゆるめず作り上げた、血の味がする純愛の物語

    2021年04月09日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    「どうして、君がかかわることになったんだろう」
    「……好きだったからです」

    平凡な日々を送る濱田清澄は、ある日、学年一の嫌われ者と呼ばれる孤独な少女・蔵本玻璃(はり)に出会う。玻璃は救いの手を差し伸べてくれる清澄に徐々に心を開くようになるが、彼女には、誰にも言えない秘密があった……。

    「小説の新たな可能性を示した傑作」と高い評価を得ている竹宮ゆゆこさんの同名小説を原作に、中川大志さん、石井杏奈さん、堤真一さんら豪華キャストで製作された『砕け散るところを見せてあげる』(4月9日公開)。口内に血の味を感じながらもきらめくようなラストが美しい本作は、ひと言で表すなら《愛》と《希望》の物語です。

    メガホンをとり、中川さん・石井さんの2人から挑戦的な演技を引き出したのは、奇才・SABU監督。脚本・編集も自ら手がけた今作について、お話を聞きました。

    SABU
    1964年生まれ、和歌山県出身。『弾丸ランナー』(1996)で監督デビューを飾り、ベルリン国際映画祭パノラマ部門への出品、およびヨコハマ映画祭での新人監督賞受賞という快挙をいきなり成し遂げ、“気鋭の映像作家SABU”の存在を国内外に一躍アピールすることになった。以降、笑いを絶妙に織り交ぜたエンタテインメント作品を中心に、精力的に作品を発表し続けている。主な監督作に『蟹工船』(2009)、『うさぎドロップ』(2011)、ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された『天の茶助』(2015)、東京国際映画祭にてジャパン・プレミアとして上映された『MR.LONG/ミスター・ロン』(2017)、モスクワ国際映画祭ロシア批評家協会賞を受賞した『jam』(2018)などがある。

    砕け散るところを見せてあげる
    著者:竹宮ゆゆこ
    発売日:2016年06月
    発行所:新潮社
    価格:693円(税込)
    ISBNコード:9784101800653

    ―― 映画化のオファーがあったのは、いつ頃のことですか。

    確か2016年だったと思います。当時まだお会いしたことはなかったんですが、八木プロデューサー(ROBOT)から「SABU監督で映画化したい」と連絡があって、それから原作小説を読みました。

    ―― 原作小説の第一印象は、どんなものでしたか?

    まず「タイトルがかっこいい」と思いました。それから表紙を見て、かわいらしい女の子が描かれたイラストにゾッとしました。自分の作風とはあまりに雰囲気が違うこともあって、「これを俺に映画化してほしいって、どういうことだろう」「俺には向いてないんじゃないだろうか」というのが第一印象でしたね。裏を返せば、本の外側だけですでに強烈なインパクトをもっているということなんですけれど。

    でもいざ読んでみて、「よくぞ俺に声をかけてくれた!」と嬉しくなりました。まず「つまり、UFOが撃ち落とされたせいで死んだのは二人」という表現と言葉の響きが面白かった。それから、ト書きにも魅力的なものが多かったです。特に序盤のシーンで〈俺〉がヒーローの想像を膨らませていく描写は、CG的で非常に巧みでした。ポイントになる場面がどれも映像的で、会話も多いので、映画的な小説だなと思いました。

    イメージの世界で、椅子に座った俺の足元から黒い影が伸びてゆく。
    影の中に、最小単位の物質が生まれる。
    濃淡に揺れる現象は、まるで鳥や魚の群れ。あるいは大空に湧き上がる積乱雲。あるいは風に揺らめく炎。あるいはオーロラ。水底の波紋。嵐の樹林のようでもある。(中略)
    天から一筋のライトで照らされたように、ヒーロー、すなわち俺のシルエットが、現実の世界に音もなく浮かび上がる。輪郭だけが光っている。煙のように渦巻く埃の中から立ち上がる、俺は孤独な正義のヒーローだ。〈原作 本文より〉

    ―― 初めのうちは“学園ボーイ・ミーツ・ガール”的な甘酸っぱい展開もあり、キラキラした純愛物語なのかな?と思いきや、どんどんサスペンスの匂いが濃くなっていって、鮮やかに期待が裏切られますよね。“純愛”であることには変わりないんですが。

    そもそも俺の作品に「先輩!」なんてセリフ、オリジナル脚本なら絶対に出てきませんからね(笑)。ヤクザの兄貴と弟分はあっても、“先輩・後輩”のような記号化された関係は自分はきっと書かないし、何なら嫌悪感すら持っているくらいです。

    でもおっしゃるように、そこから次へ次へ読み進めていくうち、いつの間にかそんなことがまったく気にならなくなっているような、不思議な気持ちよさがありました。読み終えてすぐ脚本にとりかかったんですが、先ほど話したように非常に映画的な小説だったので、映像化にあたって所々を削いだくらいで、脚本に関してはまったく悩まず、最後まで書き上げました。

    あえて言うなら、“ややこしい映画”にならないよう意識しましたね。実は、原作で一番感動したのが「変身」のシーンなんです。トリッキーなことをしなくても物語はちゃんと転がっているので、そのシーンで始まりと終わりがぴたっと重なって気持ちよくラストを迎えられるよう、その着地にとにかく意識を注ぎました。

    ―― 小説がすでに映画的だったということですが、非常に重要なキーワードである「UFO」は、ともすると作品からシリアスな雰囲気を拭い去ってしまいかねないのではと思っていました。劇中でどう表現されるのか楽しみだったものの一つです。

    UFOは悩みましたね。3周くらい考えました(苦笑)。一般的にイメージするような、宙を浮遊するメタリックなUFOでは、本作で「UFO」が象徴するものとは色合いも重さもまったく合わないし、かといって機体の形を手放してしまって、うごめく煙のような抽象的な表現では「UFO」と認識できないし……。

    ある時キッチンでたばこを吸っていたら、フライパンの鍋底の裏が、焦げて鈍く黒光りしているのが目に留まったんです。形といい凹凸といい「これだ、間違いない!」と思って、すぐさま写真に撮ってCG部のスタッフに送りました。でも出来上がってみたら、どこからどう見てもフライパンの底にしか見えない(笑)。何度もふりだしに戻って試行錯誤を重ねて、最終的にああいうビジュアルになりました。

    ―― 空の高さをぐぐっと押さえつけるような、圧のある質感がぴったりでした。夜のシーンの“闇の暗さ”も絶妙でしたね。

    そこもすごくこだわったところです。ドイツの会社にお願いしたんですが、日本映画ではなかなか出せない、月明かりをほどよく感じられる深い闇の色を作ることができました。ぜひ劇場のスクリーンで観てもらいたいです。

    ―― そんな「UFO」、見えているのは玻璃と清澄の2人だけですが、中川大志さん・石井杏奈さんがそれぞれを演じる決め手になったのは、どんなところでしょう。

    かなり早い段階で決定したのが、玻璃を石井さんが演じるということでした。石井さんは、声がとにかく聴いていて気持ちいい。それに運動神経が抜群なんです。芝居において運動神経は重要。石井さんは大声で絶叫するシーンひとつとっても、ただ全力で声を張り上げるんじゃなく、そこにきちんと気持ちが乗っているんですよね。顔をボコボコに負傷しているシーンでも、特殊メイクでほとんど視野がない状態のなか、痛々しく切ない玻璃をしっかり演じてくれました。本人も喜んで挑んでくれて、楽しい撮影でした。

    逆に中川くんは、企画の初期段階でプロデューサー陣から提案があった時、僕が彼のことをあまり知らなかったのもあって「こんな王子様みたいな、キラキラした爽やかな雰囲気の子がやるの?」とためらいがありました。とにかく会ってみようということで、お会いしたんですけれど。

    ―― 原作小説を手にとった時の反応と同じですね(笑)。

    そうですね(笑)。どうしても「キラキラ」とか「爽やか」とか、そういうのは嘘っぽいと思ってしまうんです。でもいざ会ってみたら、そんなふうに思っていたことこそ嘘のように、あっさり「いいやん」と思いました。

    それで2人に実際に来ていただいて、本読みをやってもらったんですが、やっぱり声の張りが本当に心地いい。決め手は演技より前に、声でしたね。もちろん芝居も魅力的でしたよ。1日にかなりの量を撮るスケジュールでしたし、セリフもかなり多いなか、こちらが感動してしまうくらいパーフェクトな芝居を見せてくれました。

    2人に限らず、これだけのキャストが揃っていますから、その時点でもう『砕け散るところを見せてあげる』はかなりの自信作です。

    ―― 玻璃の父親を演じた堤真一さんも、さすがの迫力でした。

    玻璃の父親のようなキャラクターって、ある程度もう「型」がありますよね。真面目で神経質そうという一般的なイメージが。でも、堤さんは違いました。ただ怖いだけじゃなく、情けないところや卑怯なところも同じくらい出している。彼が作り上げたキャラクターを見て「お願いしてよかったな」と思いました。

    設定を、サラリーマンから“工務店の社長”のような雰囲気に変えたのもよかったと思います。映画では、沼や川がすぐ近くにあるような田んぼに囲まれた土地なので、スーツ姿はしっくりこないだろうなと思っていたんです。衣裳合わせの時にたまたま白っぽいブルゾンを着てもらったら絶妙にいやらしい感じが出て、「これでいこう」と即決しました。すでに決めていた「玻璃たちの自宅」の独特な雰囲気ともぴったり合っていましたし、建築設計にかかわる仕事というのも、彼の人物像にちょうどいいなと。

    彼が玻璃の父親を演じてくれたおかげで、物語自体もふくらませることができたと思っています。

    ―― ここまでお話を伺ってきて、わりとトントン拍子に製作が進んだという印象を受けているのですが、「ここだけは譲れない」と思っていたポイントなどはありますか?

    「ぬるいことをしない」ということですかね。脚本はすぐに書けたし、これだけの俳優が揃ってしっかりした芝居をしてくれているので撮影も苦労はしませんでした。面白い作品だという自信もあります。でも実は、ショッキングな内容を含んでいることもあって、公開するまでの過程で、制作するお金が集まらず一度諦めかけたことがあったんです。最初のうちは好感触で話が進んでいたのに、「やっぱりなかったことにしてください」と言われて……、ショックでしたね。

    俺の作品だって、もともとどちらかというとコメディものが多いし、「もう少しゆるめてくれ」と言う向こうの立場もわからなくはないけれど、この物語でお客さんが楽しんでくれるものを作ろうと思ったら、しんどい描写はしんどくないとダメなんです。だからこそ堤真一に、玻璃の父親役を頼んだんですから。

    そこをゆるめてしまったら、全部きれいごとで終わってしまう。振れ幅のない、幼稚で表面的な作品になってしまう。軽みのある作品を否定してるわけじゃないですよ。重いものばかり作っても仕方ないとも思うけれど、今回は手をゆるめるべきところじゃないと思いました。

    でも、それなりに予算がないとできない作品でもあったので、(配給に)手を挙げてくれる会社がなかなかなくて。面白いと言ってくれた会社があって企画は無事復活したんですが、あれはつらかったですね。

    これまでを振り返っても「憧れて映画業界に入ってきた人ばっかりのはずやのに、俺たちは何を作らされてるんだ」と疑問に思うような出来事があって、その怒りがあったから、自分で脚本を書いて監督もやるようになったし、映画原作として小説を書いたりもしました。そういう勝負ばっかりやってきて、いまだに「もう少しゆるめてください」と言われるのかと、残念な気持ちになりました。『砕け散るところを見せてあげる』は、面白さをわかっていただける方が観てくださると信じています。自信作ですから。

    ―― それでは最後に、SABU監督ご自身について伺います。監督にとっての「ヒーロー」と「UFO」を教えてください。

    小学校高学年の頃はブルース・リーに憧れていましたが、僕にとってのヒーローといえば、中学に入って、自分自身もバンドを始めた頃に出会った「RCサクセション」と「忌野清志郎」です。高校1年生の頃、まだそこまでメジャーじゃなかったRCサクセションが和歌山市民会館までコンサートにきて、そこでのライブのことはよく覚えています。音楽もファッションも、マイナーの最先端をいっている、本当にかっこいいロックスターでした。

    「UFO」は、ありますが内緒です。映画にうまく転換できる時がくるといいなと思っています。

     

    『砕け散るところを見せてあげる』(PG12)

    【STORY】
    平凡な日々を送る濱田清澄はある日、学年一の嫌われ者と呼ばれる孤独な少女・蔵本玻璃に出会う。
    玻璃は救いの手を差し伸べてくれる清澄に徐々に心を開くようになるが、彼女には誰にも言えない秘密があった……。その秘密に気づき始めた清澄に〈恐るべき危険〉が迫り、友人の田丸や尾崎姉妹も心配する中、物語は予測できない衝撃の展開を見せていく。この物語は、ラブストーリーなのか、サスペンスなのか……。ラストは世代を超えた壮大な愛に包まれる。

    中川大志 石井杏奈
    井之脇海 清原果耶 松井愛莉 / 北村匠海 矢田亜希子 木野花 / 原田知世 / 堤真一

    監督:SABU
    原作:竹宮ゆゆこ『砕け散るところを⾒せてあげる』(新潮文庫nex)
    主題歌:琉衣「Day dream ~白昼夢~」(LDH Records)
    配給:イオンエンターテイメント

    2021年4月9日(金)新宿ピカデリー、イオンシネマ他にて全国公開

    https://kudakechiru.jp/

    ©2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会




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